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特別フォーラムin東京
「障害者権利条約とバリアフリー社会」に参加して

市橋博

 特別フォーラムin東京「障害者権利条約とバリアフリー社会」が、5月20日、東京の中野サンプラザで行われました。これは「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たる今年、さまざまな記念事業が企画されていますが、この特別フォーラムもその一環として開かれ、「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム組織委員会が主催しました。
 フォーラムでははじめに実行委員長の板山賢治氏が経過報告を行い、今年企画されているさまざまな記念事業を「草の根」の「手作り」のフォーラムの実現を、と訴えられました。続いて国際リハビリテーション協会事務総長のトーマス・ラガウォル氏(スウェーデン)が「『障害者権利条約』にかかる最新動向」と題して講演を行いました。ラガウォル氏は、「『障害者権利条約』を、国連で採択しようという気運が高まっている。『障害者権利条約』が採択されれば、各国で障害者運動を盛んにし、政府に働きかけられる。そしてその発言力は強い力を持つことができる。また、各国の進行状況をモニタリングして勧告することもできる。採択されるまで2年という人がいるが、急ぐと内容が伴わない恐れもある。だから『障害者の権利宣言』などの既存の条約や規則を活用する必要がある。もっとも熱心な活動をしている国はメキシコで、第三世界からの提言が多い。EUははじめは反対していた。アメリカは、積極的でない。実効力ある条約にするには障害者団体をはじめとする働きかけが必要」と話されました。
 講演を聴きながら私は、『子どもの権利条約』について思いを巡らしました。『子どもの権利条約』も国連で採択されるまでに長い年月がかかりました。そして、国連で採択されてからわが国が批准するまでに長い年月がかかりました。そしてそこには多くの運動がありました。わが国が批准して今、子どもの問題はさまざまありますが、『子どもの権利条約』は生かされています。
 東京では病虚弱児学校の廃校問題が起きています。東京都教育委員会と私たちは話し合いを続けていますが、『子どもの権利条約』の運動を進めているある弁護士さんから「なぜ、実際に学んでいる子どもたちから意見を聞こうとしないのか?」とアドバイスを受けました。私も『子どもの権利条約』を読んで知ってはいました。「子どもたちの発言を保障する」という条文があることは知っていました。しかし、実際に生かそうとはしませんでした。『障害者権利条約』も、実効力ある条約を国連に作らせるために働きかけ、わが国に批准させ、それを実際に生かすには、私たちのさらなる長い努力と、人権保障に根づいた新たな発想が必要だと感じました。
 午後からは、トーマス・ラガウォル氏のほか、J・B・ムンロ氏(国際育成会連盟理事)、高田英一氏(世界ろう連盟理事)、平野みどり氏(DPI日本会議副議長)らによるパネルディスカッションが行われました。ムンロ氏は、独自の調査によりアジア・太平洋地域の障害者の実態を報告しました。たとえば、「東ティモールでは戦争により障害者が5%よりもっと多いだろう、人口800人の小さな島ソロモンにもさまざまな障害者が生活している」ことなどが報告されました。こうしたことから、世界のどの国でも取り組みがなされる『障害者権利条約』の重要さを強調されました。
 高田英一氏は、「日本聴力障害新聞」を示しながら聴覚障害者の生活実態からみても『障害者権利条約』の必要性を紹介しました。そして、わが国が『条約』推進の立場に立つようみんなで働きかけようと訴えました。また、わが国が「差別禁止法」を制定するために働きかけよう、そのための国際組織、国内組織を設立していこうと訴えました。障害者・家族・関係者・専門家が障害者の違いを主張しあいながら互いに認め合おう、簡単な問題でも時間がかかるとも訴えました。
 平野みどり氏は、熊本県議で、障害を受けてから14年になり、当時と比べると隔世の感があると発言しました。しかし、福祉が障害者への権利なのか、恩恵的でよいのかは、考える必要がある、ハートビル法や交通バリアフリー法も権利を明記しないと絵に描いた餅になってしまう、特に、議員になってから権利に基づいた法整備が必要と感じたとも発言しました。
 この後、日本身体障害者団体連合会、日本盲人会連合、全国精神障害者家族会連合会の代表三氏が指定発言を行いました。三氏はそれぞれの障害の現状、『障害者権利条約』批准への思いを語られました。また、会場からは、「第3種・第4種郵便が廃止されようとしている。障害者団体にとり死活問題だ。国際郵便条約に違反しないか」「日本弁護士連合会の協力が専門家という立場から必要だ」などの発言がありました。
 今から思うと、1981年の国際障害者年に障害者運動が大きく動き始め、団結を深めました。そして「アジア太平洋障害者の十年」最終年の今年、『障害者権利条約』批准に向けて、何かが始動する、そしてこれまで以上に障害者団体が団結を深めていく条件もある、そんな感想を持ったフォーラムでした。

(いちはしひろし 障害者と家族の生活と権利を守る都民連絡会事務局長)