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建物のバリアフリー

今井志朗

 本当のバリアフリー住宅とはどんなものでしょうか? 障害者個人個人が自分の障害生活スタイルに合った住宅であることが大切であるというのは言うまでもありません。当たり前のように聞こえますが、実はこの事が一番難問題なのです。
 たとえば、夫婦が障害者同士の場合、脳性マヒで車いす生活の人と、同じ脳性マヒでもアテトーゼ型で少し歩ける人、こういう組み合わせの場合は、手すりを付ける時も位置や形でもめたり、浴室をどうしたら二人にとって使いやすいものになるのかなど、設計士と一緒に考え込んでしまうこともあります。
 もしこれが、全く違う障害者だとしたらどうなるでしょうか。バリアフリー住宅のイメージが違い、混乱してしまうかもしれません。このように実際に住宅改造をする場合、個人のニーズの違いもあり、バリアフリーと一口に言っても、基準になる物差しをいくつも用意しないといけません。
 もう一つここで書いておきたいことは、私は自立生活センターのスタッフとして活動していますが、その中で自立生活を始める時の最初の難関が住宅です。アパート探しには本当に困ります。なぜ困るのかは、今さらここで書く必要もないでしょう。たった一軒だけでいいのですが、それを見つけるのに長い人は1年くらいかかります。理解のある不動産屋が見つかったとして、バリアフリーという観点からまた条件が難しくなり、頭を抱えてしまうことが多いのです。
 アパートを借りるに当たり一番のバリアは、入口またはエントランスに2段以上の段差がある建物が非常に多いことです。多分、デザイン的に言えば、風格を付けるなどの配慮からだと思いますが、実はアパート探しのポイントとして重要なのです。もう一つのポイントは、身体障害者の場合、電動車いすやシニアカーを使う人が多いので、アパート探しの時、その置き場所が無いことで暗礁に乗り上げてしまいます。
 今の住宅は健常者の主観でつくられており、たとえバリアフリーを意識して建築されても、打ち合わせ時に当事者が入らないと気付かないバリアが後で出てきます。バリアフリーという漠然とした言葉だけが先行して、具体的な項目を一つひとつ叩く必要があります。
 それと最近、各自治体が「まちづくり条例」を作っていることは喜ばしいのですが、もう一歩踏み込んで法令までにならないと、「まちづくり」は推進できないと思います。条例は努力目標に過ぎないので、なかなか推進は難しいでしょう。公共機関、つまり駅・病院・役所などの改善を要求した場合でも裁判になると、敗訴してしまいます。新障害者プランの推進に期待をしながらも、根本的な課題はこれからだと思います。

(いまいしろう HANDS世田谷)