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情報・コミュニケーション

長岡英司

 「人が外界から得る情報の8割は視覚によるもの」との説があり、視覚障害は情報障害と言われる。それ故ここでは、視覚障害に焦点を当てることにする。
 今日の社会では、文字による情報が多くを占める。したがって、文字情報へのアクセスを確保することが、視覚障害者の社会参加にとって最も重要だ。視覚障害者の文字として点字がある。だが、その最大の弱点は、一般社会でほとんど通用しないことだ。そこで、視覚障害者は何らかの方法で墨字(一般の文字)にアクセスしなければならない。十数年前まで、このことはすべて眼の見える他人に依存して行われていた。つまり、点訳や読み上げ、代筆などだ。こうした方法には多くの困難と限界があり、それが視覚障害者の社会参加を妨げてきた。
 その後、パソコンの出現が状況を変えた。1980年代半ばから約10年間にわたって実質的な世界標準の基本ソフトだったMS―DOSの下で、視覚障害者のパソコン利用は開花した。墨字を自在に書けるようになったのがその最初だ。また、自動点訳や自動読み上げで、不完全ながら墨字の印刷物を独力で読めるようにもなった。さらに、パソコン通信の普及で、アクセスできる文字情報が飛躍的に増えた。
 ところが、1995年に新しい基本ソフトWindows95が発売されると、視覚障害者のパソコン利用に影が差した。それは、Windowsが図形的な操作方式であるために画面読み上げソフト(スクリーンリーダ)の開発に難渋し、リリースまでに時間を要したことや、DOS用のハードやソフトが次第に供給されなくなったことによる。しかし、その後Windows用のスクリーンリーダが相次いで開発され、互いに競い合って機能の向上が図られたことに加え、インターネットの普及で電子メールの送受信やWebページの閲覧など、パソコンの魅力ある用途が新たに生まれたことなどもあって、視覚障害者のパソコン利用は、DOS時代よりも盛んになった。
 とはいえ、それはまだ十分に普及したとは言えない。普及を妨げている最大の要因は、Windowsパソコンやインターネットが極めて視覚的なために、視覚障害者にとって習熟が容易でないことだ。社会参加の促進で重要な役割を果たすこれらのコミュニケーション手段を多くの視覚障害者が利用できるようにするために、その教育やサポートに、今後もっと力が注がれる必要がある。

(ながおかえいじ 筑波技術短期大学)