聴覚障害
越智大輔
1996年から始まった「障害者プラン」であるが、当初は聴覚障害者福祉とはあまり縁のない施策と受け止められていた。聴覚障害者にとっての主要施策であったコミュニケーション保障事業は、すでに都道府県から区市町村において手話通訳の養成・設置・派遣、また要約筆記者の養成・派遣の形で実施されていたし、その他においても聴覚障害者の基本的生活において必要な事業はほぼ整備されていたからである。実際、東京都の「福祉のまちづくり推進協議会」でも最初は聴覚障害者の委員は必要ないと思われていたくらいである。
しかし、障害者プランで示された「QOLの向上」「心のバリア」という理念は、表面的な情報保障で満足していた聴覚障害者にとって新たなステップを示唆するものであった。エレベータや点字ブロックといった物理的なバリアフリー化だけでなく、人間関係やコミュニケーションなどの心理的なバリアフリー化の必要性への理解が徐々に広まり、多くの福祉関係者も情報障害や聴覚障害について理解を示すようになったし、インターネットや携帯電話、字幕放送などの文字情報の普及により情報社会への参加の道が開かれたのは聴覚障害者の社会参加を劇的に変えた。
大きな会社でろうあ者の管理職が誕生し、健常者の部下にメールや電子会議で指示をするという一昔前では考えられなかった現象も起きており、会議等における情報保障への配慮も数年前と比べて進んでいるように思える。これらは「ノーマライゼーション7か年戦略」と無関係というわけではないだろう。しかし、具体的な施策である地域での自立支援事業では聴覚障害者が直接かかわることは少なく、これらの事業所が中心となる介護保険や、来年から実施される支援費制度のケアマネジメントで聴覚障害者への配慮が足りないのではないかという心配の声をよく聞く。現在、聴覚障害関係団体が中心になって運営している自立支援事業所は大阪など全国でも数か所しかない。
平成15年からの実施を予定している「新障害者プラン」においては、「情報の共有」すなわち「情報のバリアフリー」についての具体的な施策が必要であろう。具体的には「音声情報の視覚化」「視覚情報の音声化」「言語的な配慮」があげられる。言語的な配慮というのは、外国語を使用する人や言語の認識障害、そして聴覚障害者の中にはその教育環境から文章の読み書きが不得手な人が存在するという認識のもとに配慮を行うということである。また、具体的な数値目標として、一日の利用者が何人以上の交通施設には電光文字掲示板と音声案内機器の設置を義務づけるといった方法も考えられる。
情報障害者がこれらのネオ情報化社会において取り残されることなく、逆にそれを利用して、さらなる社会参加が実現できるような施策を取り入れた新障害者プランを期待したい。
(おちだいすけ (社)東京都聴覚障害者連盟事務局長)