音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム2002

「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる
特定建築物の促進に関する法律」
(ハートビル法)の改正について

野村歓

 国会で審議中であった「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律(以下ハートビル法と称す)」が、7月初旬に成立したので、ここにその改正内容を紹介します。

■法律改正までの経緯

 平成6年に「ハートビル法」が制定され、これを契機に都道府県レベルではただ1県を除いて「福祉のまちづくり条例」が整備されています(平成14年4月現在)。これらの法的整備によって、高齢者や障害者の生活環境整備の必要性に対する意識が向上し、すべての人々の生活を豊かにさせるものでもあるという認識が広まってきました。実際に、現在のハートビル法は努力義務であるにもかかわらず、対象建築物のおおよそ70%が整備されている状況にあります。
 一方、障害者も増加し、また高齢化の進展は予想以上に早く、建築物バリアフリー化の推進方策については一層(いっそう)の措置が必要であることから、建設省(現国土交通省)は平成12年10月に私的検討部会を設置し、平成13年1月に法改正に関する報告書をまとめました。この検討委員会の報告を受けて、平成13年10月に社会資本整備審議会建築分科会内に「建築物バリアフリー対応の推進に向けた対策部会」を設置して検討を重ね、平成14年1月末に答申を行いました。国土交通省は、この答申を受けて法改正に取り組み、平成14年3月8日の閣議決定を経て、国会に上程され、このたび国会で法改正案を全党一致で可決しました。

■主な改正点

 主な改正点について、以下に記します。

□特定建築物の範囲の拡大

 今回の法改正では、これまでの対象建築物に、新たに学校、事務所、共同住宅等の建築物を対象建築物に加えました。
 その理由は、現行の「不特定かつ多数の人が利用する建築物」となっている対象範囲を「不特定または多数の者」と考え、そのうえで、介護老人保健施設や社会福祉施設、学校、共同住宅等多くの国民が利用する建築物または建築物の部分も対象とするなど、できるだけ広範なものとすることが望ましいと位置づけたからです。さらに、障害者雇用促進法に基づいて障害者の雇用率が設定されている現状に鑑みると、働く高齢者や障害者についても対象に含めていくことが望ましいと結論づけたからです。

□適合義務の創設と条例との連携

 今回の法改正では、
1.対象建築物の一定規模(2000平方メートル以上)の建築物を建築する場合は適合の義務を課す。
2.地方公共団体は、条例で必要な制限を付加することができる。
3.違反者に対し、是正命令等の規定を設ける。
としました。
 その理由は、できるだけ早い時期に、一定の用途および規模の新築建築物についてバリアフリー対応の整備を行うことを、法律によって義務化することが必要であると考え、一方で、地方公共団体の条例で付加基準を定めることができるようにしたのは、各地域の歴史、気候、建築様式等によって必要と考えた建築物等に条例を適用し、ハートビル法と福祉のまちづくり条例との間に連携が可能としたのです。

□既存建築物の努力義務化

 今回の法改正では、対象建築物の廊下、階段、エレベーター等の修繕または模様替えをしようとする者は、利用円滑化基準または条例で付加した制限に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないことになりました。
 その理由は、既存建築物は現に地域の生活環境の一部を構成し、そのストックが大きく、生活環境のバリアフリーを推進するうえで重要な要素となっていることから、既存建築物の所有者等にもバリアフリー対応のための努力義務を課すことが妥当と考えたからです。ただし、これには物理的にも経済的にも大きな困難を伴うことから、改修の規模等に合わせた部分的なバリアフリー措置や段階的なバリアフリー措置が行えるようにするなり、改修によって増加する床面積に関する建築基準法の容積率制限等の緩和、改修費用に対する補助、融資等の公的支援措置の実施など、効果的な整備の促進を図る必要があると考えています。

□認定建築物に対する支援措置の拡大

 今回の法改正では、
1.誘導基準に適合する対象建築物の延べ面積には、廊下、階段、エレベーター等の特定施設の床面積のうち、通常の建築物のこれらの床面積を超えることとなる一定の面積は、算入しない。
2.対象建築物、その敷地又はその利用に関する広告等に、当該建築物が計画の認定を受けている旨の表示を付することができることとし、この場合を除き、何人もこれと紛らわしい表示を付してはならないものとする。
 その理由は、誘導基準を満たす建築物の整備推進を図るには、「個別建築計画の認定制度」「建築確認手続きの簡素化」「補助・融資・税制特例による支援措置」「認定マークの交付」等の現行支援制度について引き続き推進することが重要であり、各種支援措置の充実についても検討する必要であると考えたからです。

□所管行政庁(建築主事を置く市町村または特別区の長)への権限の委譲に

 今回の改正では、義務化にあたって個別建築物について基準への適合を審査および検査をするとともに、遵守しない者に対する罰則等、実効性を確保するための措置を併せて講じることとします。
 その理由は、現行制度では事務執行体制として指導・助言や計画認定等の権限は都道府県知事等に与えられていますが、「整備の努力義務」「建築計画の届け出の義務づけ」「指導・助言・勧告」という強制力のない制度的枠組みから脱却し、法律改正が実効性あるものとするために、都道府県知事から所管行政庁(建築主事を置く市町村または特別区の長)に委譲し、厳しく対応しようと考えたからです。

■さいごに

 この法律をさらに実効性あるものとするには、建築物の設備や構造の整備といった法改正にとどまらず、非常時の避難誘導や日常の案内等の人的な対応、さらに福祉機器の設置と介護の実施等ソフト面の対応との連携など、効果的に施策を推進するとともに、国民一人ひとりが安全で安心できる生活、ゆとりと潤いのある生活を実現するために、建築物と併せて道路、公園等の公共施設や交通機関のバリアフリーの推進など、面的な広がりをもった地域の総合的なバリアフリーを推進する必要がある、と考えます。

(のむらかん 日本大学理工学部教授)