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列島縦断ネットワーキング

東京
テーマは「多様な価値観や意見の共存」
―バリアフリーシアタージャパンの活動―

高島琴美

 バリアフリーシアタージャパンは、1999年8月に活動を開始しました。「多様な価値観や意見の共存」がバリアフリーシアタージャパンのテーマです。いろいろな人がここちよく共有、共存するためには、そのためのシステムが必要です。観客の声、劇場スタッフの声、演劇映画の創り手などのプロフェッショナル…多様な意見のネットワーク、新しいノウハウの創造と交流と展開が、バリアフリーシアタージャパンの仕事です。活動開始当時、バリアフリーシアターというのは、耳慣れない珍しいコトバでした。それから3年になろうとしているいま、バリアフリーシアターというコトバは、web上でも300を超えるヒット数があります。
 「バリアフリーシアターというコトバを普通名詞にしたい」というのは、活動を開始した頃、最初に考えたことでした。新しい概念である「バリアフリーなシアター」の定着への基礎は、どうやら固まりつつあるようです。今後は、この意識の変化の広がりを背景にシアターからさらに集会施設一般のバリアフリーについて、実効性のある提案をしていきたいと考えています。

これまでの歩み

〈1999年8月~2000年3月〉

●バリアフリーシアタージャパンを個人事業として開始
●通産省シニアベンチャー育成事業に応募、委託事業実施
●「バリアフリーシアター」を普通名詞にするための宣伝活動開始
●観劇会開始

〈2000年4月~2001年3月〉

●組織のあり方、サポートの手法について演劇関係団体と協議 
●観光バリアフリーフォーラム等、パネリストとして提言活動開始

〈2001年4月~2002年7月〉

●組織のあり方、サポートの手法について演劇関係団体、映画関係団体、ボランティア団体と協議、NPO設立への準備開始
●バリアフリーシアターネットワークとして地域ボランティア団体との連携ネットワーク創設
●名称を「バリアフリーシアター・ジャパン」から「バリアフリーシアタージャパン」へ変更
●国土交通省が改訂する「高齢者障害者に配慮した建築設計標準」への具体的反映へ向け、この改訂に(1)日本語字幕・音声ガイド操作オペレーターが使用する「バリアフリー操作室」の設置、(2)車いす使用者が、ロビーも含めた劇場内を自由に移動できるハード整備の二点を盛り込むことを、提唱しています。
●国際ユニバーサルデザイン会議(パシフィコ横浜11月30日~12月4日)での発表「観客席の多様性への試み」
●(財)国際文化交流推進協会(エースジャパン)主催フィルムネットワーク会議in岐阜「バリアフリー分科会」(9月6日)

バリアフリーシアターに必要な要素

 集会施設のバリアフリーには、来場のバリアフリー、コンテンツのバリアフリー、上映・公演情報のバリアフリーなど、複合的な要素があります。コンテンツのバリアフリーについては、これまで多くのボランティア団体や行政が取り組んできた点字、手話による視聴覚障害者への対応は、非常に有効です。点字や手話を日常使用している人のコミュニケーション方法が多くの人に理解され、活用されていくことは、今後も必要なことだと感じます。しかし、今後、超高齢社会の中で、人生の半ばに障害をもつことになる中途障害者の増加が予想されています。この場合、中途障害者が手話や点字を体得することは、困難であったり時間がかかると予想されます。中途障害をもつ観客にとっては、視覚障害をもつ人へは音声で、聴覚障害をもつ人へは文字による情報提供が必要です。
 また、日本で独自に公会堂から変化、発展を遂げた「多目的ホール」という集会施設のあり方とそのバリアフリー化は、諸外国の専用劇場やオペラハウスなどとは異なるノウハウを必要としています。多目的ホールには、集会施設として必要な説明文と、芸術文化施設としての文学的表現という二つのコンテンツが同居しています。目や耳の不自由な人へ状況を説明する手法としての状況翻訳の確立、要約筆記と日本語字幕の違い、音声によるナビゲーションと音声ガイドの違いなど、今後、情報提供手法そのものの研究が必要です。
 現在も、目が不自由な観客、耳が不自由な観客は、劇場へ足を運んでいます。音声ガイド、日本語字幕がない場合、演劇や映画の理解にはバリアがあります。このため「同行者が隣の席で、視覚障害者には小声で、聴覚障害者には手話、そして難聴者の場合には時としてやや大きな声で、舞台の説明をする」というのが現状です。
 観客席は、舞台と一体化し、感動を創り出す場所です。静かなシーン、緊張するシーン、観客が集中できる環境が必要です。現在は、観客数が少ないことから、隣席でのサポートは、目立つ状況ではありませんが、『声がうるさい』『感興をそがれる』などの他の観客とのトラブルは、少数ですが発生しています。今後、観客の増加に伴い、サポートが必要になることは明白です。後述する「バリアフリー操作室」の設置は、この問題の有効な解決策です。

最近の活動

 これまで多様な観劇会の実施、機器モニター体験会などの試みをしました。その目的は、(1)来ていただきやすい機会を提供する、(2)劇場や主催者の方と話し会える場をつくる、(3)劇場の状況やサポート機器等の使用感について意見をいただく等です。障害のあるお客様に本当に楽しんでいただけたのか、今後の展開はどうあるべきか、といったことを、お客様のご意見から考えていきたいと思います。
 去る6月11日に早稲田大学国際会議場で行われた『「風とともに去りぬ」上映』では、イベントコーディネートを担当しました。会場内に流れる英語の主音声とサウンドトラックの音と、イヤフォンからの字幕朗読と状況説明の「音声ガイド」音をミックスして聞いていただくことで、目が不自由な方にも映画をイメージしていただくことができる上映会です。
 今回、バリアフリーシアタージャパンでは、ボランティアの研修や当日の運営などを行いました。会場でのアンケートでは「もっとたくさんの作品をやってほしい。チャンスを作ってほしい。障害をもつ方とじかに接することに意義があり、学生ボランティアに意義がある。若い人たちが理解するチャンスになる」といったご意見を多くいただきました。このような公演・上映のコーディネートをこれからも積極的に進めていきたいと思います。

(たかしまことみ バリアフリーシアタージャパン)