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It’s up to you!

高村真理子

 わたしの好きな言葉にこういうのがある。「だれもあなたの幸せと成功のために責任はとれないのです。やりたいことがあれば、夢があれば、どんなに大変であろうとも、その夢のためにあきらめないでやること。すべてがあなた次第なのです」。あなた次第…英語でIt’s up to you! という。わたしがアメリカに留学していたころ、何度この言葉を聞いたことだろう。何か事をするときにどうしようか、迷っていたときに、アメリカ人の友人に聞こうとしたところ、「わたしは意見は言えるけれど、決断はしない。それはあなたが決めることだから。It’s up to you! そしてあなたが決めたことに、だれも文句を言わせる必要はないわ。あなたの人生なのだから」。
 わたしはこのIt’s up to you というフレーズを聞いたとき、とっても楽になった覚えがある。肩の荷が下りたような、自分のほんとにやりたいことをけってまでも、何もひとに合わせる必要はないんだ、と。そのかわり、自分で決定したことに責任をもたないといけないから、最後までしっかりやろうと、かえって責任感が強くなった。
 今年の春にインドネシアヘ行ってきた。すべてがゆっくりと時間を気にせずに歩く姿、敬けんなイスラム教徒のひかえめな態度、恥じらいをみせながらもまっすぐにむけてくるつぶらな瞳。短い滞在期間でありながら、異文化の違いよりも心地よさを感じた。
 ひとりのインドネシアのろうの女性がいる。名前をガルーという。聡明でありながらも冗談の通じる大変明るい女性だ。ジョグジャカルタの大学では、ただひとりのろう者として勉強している。昨年日本で1年間、リーダーシップトレーニングに参加した成果として、帰国後、インドネシアの遅れたろう教育事情を変えたい、ろうセミナーを開催したいと夢を語った。夢を実行するためにはさまざまなリスク、費用がかかる。実行したい、でも、ほかのろう者たちが協力してくれない、やめようか、でも夢としてやりたい、彼女は揺れた。ガルーに強制的にやれとは言えない、だからIt’s up to you! そして日本にいるガルーの親友の多大なる励ましによって、とうとう夢は実現した。セミナーの講演者としてわたしを含めた日本人4人が招かれた。手話がろう教育には必要不可欠であること、芸術(劇やダンス、歌)に手話を入れることで手話の魅力、必要性を訴えるといいこと等を話した。最後にメンバー4人で手話ソングをプレゼントした。はじめて見る手話ソングに喝采。セミナーは満員で、成功のうちに幕を閉じることができた。It’s up to you! で決断したガルーは、責任を果たし、今後の活動にもつなげていくことができると、信じている。
 あなたにも「It’s up to you!」

(たかむらまりこ つくば技術短期大学非常勤講師、WE代表)