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精神障害者雇用への新たな段階への期待
―精神障害者の雇用の促進等に関する研究会スタート―

下川悦治

雇用率適用見送りと研究会の設置

 今年の国会に提出された「障害者雇用促進法」では、精神障害者への雇用率適用は見送られました。その理由として、労働政策審議会意見書は次のように指摘をしています。
(1)今後、雇用義務制度の対象とする方向で取り組むこと。
(2)対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立。
(3)採用後、精神障害者を含む精神障害者の実態把握等制度適用に必要な準備。
 以上が今回の研究会が設けられた主な理由だと思います。さらに、国会の附帯決議も早期に雇用率適用実施のための方策を求めています。

精神障害者の雇用実態

 私は、福岡県で4か所の作業所・施設の運営にかかわっていますが、ここでは、てんかんの人と精神障害者が一緒に働いています。精神障害者等の社会資源はきわめて貧弱であり、主な「社会復帰施設」は小規模作業所であり、全国で1500か所を超えているものと見込まれています。法定外の作業所が増え続けているのに対して、法内施設が著しく不足しています。大都市でさえ通所授産施設がないところさえまだあります。雇用につなげるためにも「新障害者プラン」での基盤整備が望まれます。
 障害別が雇用されている人数は表1の通りですが、精神障害者5万1000人のうちの3万8000人、75%が採用後に発病したという数字があります。てんかん協会が昨年調査した結果では、就職以前の発病が8割を超しており、精神障害者全体とは傾向が違うようです。同調査での、就労率は37.7%であり、第1回調査の1984年よりも低下しています。さらに、就職時に「てんかんと話した」人が42%と、告知しての就職が増えてきています。
 このように障害者施策の進展に伴い、精神障害者のハローワーク・障害者職業センターの利用が進み、雇用を望む人も増え続けています。「働きたい」「結婚したい」という当たり前の希望が出されるようになりました。

表1 障害別雇用数

障害の種類 雇用者数
身体障害者 396千人
知的障害者 69千人
精神障害者 51千人

(労働省「平成10年度障害者雇用実態調査」より)

当事者団体としての研究会への期待

 当事者の願いを支えるのが制度だと思います。研究会への期待も大きなものがあります。研究会の課題は、次のようなものかと思います。

(1)「採用後精神障害者」の実態把握

 「採用後精神障害者」という聞きなれない用語ですが、他の障害でいう「中途障害者」にあたります。この人たちを雇用率にカウントするかどうかが主な論点になっています。この人たちが相当数いるので、カウントすれば雇用率は達成されるだろうということや、「掘り起こし」になり人権上の問題も出てくるということです。私は、就職後に発病した人を雇用率の対象とするべきかどうかは疑問だと考えます。その理由としては、
 1.発病の原因は多様であり、疾病として回復可能な範囲の人と雇用支援策の対象となる障害をもつ人は分けるべきだと思います。
 2.慢性化していない人は産業保健・医療の対象であり、法の対象にはなじまないのではないかと思います。これは他の病気と同じ扱いでよいのではないでしょうか。
 3.慢性化していない人を対象に含めれば、精神障害者の雇用は進みません。確かに事業主が処遇に困ることもあるでしょうが、それは雇用率問題とは別の問題だと思います。

(2)いわゆる「掘り起こし」の問題

 精神障害者にとって告知の問題は依然として大きな問題となります。しかしながら、先のてんかん協会調査でも「就職時に話した」人が4割程度あり、徐々にではありますが増えつつあります。告知するかどうかについては、社会の障害に対する理解の広がりが期待されますが、同時に自ら告げることで切り拓いていく姿勢も必要ではないかと考えます。

(3)社会の理解

 精神障害者に対する理解は進んでいません。施設開設時の地域住民の反対は根強く、長年蓄積された精神障害者観があります。しかし、支援する人たちも確実に広がっています。小規模作業所が増え続けていることでも分かります。目の前にいる人を見ないと理解は進みません。理解が進んでから受け入れるというのは空論であることは明らかです。職場でも、精神障害者を受け入れることでしか理解は進まないというのが実感です。

自助努力という仕打ちが続くのか

 私は37年余サラリーマンとして働いてきましたが、日々発作不安との格闘の連続でした。当時は、てんかんと告げての就職など考えられない時代でしたから、黙って就職しました。当然発作があり、解雇されるかどうかという局面に立たされたこともありました。公的な支援がなければ、個人の「努力」に任されます。これは、当事者に厳しい負担を強いることになります。個人の努力と能力のみに任せられていることは、ここに私があることを否定しているように思えました。制度的な援助なしにどのように生活をしていけばよいのでしょう。
 てんかんの人にとっても雇用率適用は悲願です。今回のような雇用率の問題が生まれてきている根本には、3大カテゴリーでくくられた障害者基本法の限界があると思います。

(しもかわえつじ 社団法人日本てんかん協会副会長)