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会議

「国際障害者シンポジウム
―アジア9か国の障害者と語り、
ネットワークを作ろう!」に参加して

山岸かな子

 去る6月22日に戸山サンライズで行われた国際障害者シンポジウムに参加しました。これは、アジアと日本の障害者のリーダーたちが集まり、それぞれの国が抱える障害者問題について考えようというワールドワイドなシンポジウムです。以前から世界の障害者の動向については興味がありましたが、日本の福祉が影響を受けた欧米ではなく、今回は身近なアジアからの発信です。今、アジアの福祉はどうなっているのか? これは聞きに行かなあかん! ということで、はるばる兵庫県は西宮市から参加しました。会場には予想以上の観衆が集まり、かなりの期待感が高まっていました。
 実は今回のシンポジウムに深くかかわっている活動があります。みなさんはダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業をご存知でしょうか? 今年で4回目を迎えるこの育成事業は、アジアの障害をもつ若者を日本に受け入れ、日本語をはじめ障害者の自立運動や障害者施策について勉強して帰ってもらうというものです。その研修生が中心となって今回のシンポジウムが進められました。
 インドネシア、韓国、スリランカ、中国、ネパール、パキスタン、フィリピン、マレーシア、モンゴルからの若い障害をもったリーダーたちが、このシンポジウムの大きなテーマである「私たちの挑戦~全ての人の社会を目指して~」という内容を話し合い、発表しました。その際のコミュニケーション方法はどうなっているか? というと、彼らは約1年の研修の間に習得した日本語(日本手話)でスピーチするわけです。決して流ちょうな日本語ではありませんが、私のカタコト英語より、余程上手にしゃべっています。そして、慣れない日本語がここまで上達する苦労がよくうかがい知れるのです。しかし、日本人のようにうまく話そうとするよりも、簡単な言葉でいいから自然体で話すほうがその意味は重く響き、深く伝わることがわかりました。
 アジアの福祉を進めるうえで、一体何が問題となっているのでしょうか? ここで、それぞれの国の置かれている状況と問題が浮かび上がってきました。
 インドネシアにおいてはまず、教育が不足しています。多くの障害者は学校に行きたくても行けない状況がまだまだあるようです。とても離れた場所に養護学校があって、近くの普通学校は入れてもらえないし、人々の理解は少ないそうです。障害のある人とない人とが一緒に勉強することはできないのです。
 二つ目に経済状況が悪く、貧困を抱えているということです。障害者年金というような一人ひとりに対する社会保障のない国がほとんどですから、仕事がないためにホームレスになってしまう人がいたり、病気のワクチンが買えないため、ポリオの障害者が多いのもアジアの障害者の特徴なのです。
 三つ目に、障害者を隠そうという社会の偏見。この考え方はまだまだ根強く、自国に重度の脳性マヒ者がいないため、日本に来て初めて出会った、という人もいました。これには私たちも非常に驚きました。おそらくいないのではなくて、家の中で暮らしていて外に出られないのでしょう。また、外出の手段である車いすも十分にありません。軽い障害者の中には、街頭で歌を歌ったり物乞いをして日銭をもらう人もいるそうです。
 このように、きちんと教育を受けられないことや、仕事がないために暮らせないこと、偏見や差別により、アジアの障害者の状況は厳しく、課題だらけなのです。一方、戦争や地雷のために障害者の数は増えているのだそうです。 
 次に、私がのぞいたグループ・ディスカッションの模様をお伝えします。ずばり、障害者運動についてです。私たち障害者はなぜ運動するのか? そしてどうやって運動するのか? それをどのようにネットワークとして広げていくか? これらのことを一つひとつ問いかけながら、スピーカーとして関西の障害者リーダー尾上浩二さんが日本の当事者運動の歴史について、そしてモンゴル、韓国、フィリピンから、それぞれの国でどのように障害者運動を取り組んでいるのか、発表をしてもらいました。
 私たちはその中で、二つのビデオを見ることになったのです。それは日本と韓国の障害者によるデモの映像でした。日本のそれは70年代半ばの、韓国のものはここ数年内に作られたものです。どちらも障害者が移動の権利を求めて、乗車拒否に対し運動と呼ぶにふさわしい過激な交渉劇を行っていました。背景には権利を認めさせるんだという自身の声があります。特に、線路の枕木に韓国の障害者が横たわり命懸けで抗議する姿に、私たちは圧倒されました。こんな時代がかつてあったからこそ今の日本の自立運動があったし、その最中に韓国はあるのだなと強く感じさせられました。
 国によって状況はさまざまですが、アジアの障害者が強くなるためには、不足している情報と経験を共有して、自信をつけることが大切だと思います。そのために今回、アジア太平洋自立生活ネットワークが作られました。アジアとしての日本の役割は、アイデアやノウハウを伝え、サポートしていくことです。それは私たちがやっていく問題でもあるのです。
 アジアの障害者たちは面白いです。どういうふうに? と聞かれると、非常に違う文化を持っていて一人ひとりが個性的でフレンドリーであるからです。しかし、やがてそれぞれの国に帰った時、日本にいる時は感じなかった苦労が甦り、元の不便な状態に戻るでしょう。車いすの人のために道路が整備されてないことや、戦争、情報の不足、大変な状況とも言えます。しかし、彼らは決してかわいそうではないし、困難があっても楽しみながら切り開いて行く術をもっていると思います。そして、困った時は仲間である日本の障害者たちが助けられるでしょう。今度は世界の障害者を訪ねに行ってみようかな。きっとほかでは味わえない面白さがあるでしょうね。

(やまぎしかなこ メインストリーム協会)