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当事者団体も事業所の指定を受け、
サービス提供機関へ
―自薦ヘルパー推進協会の取り組み―

蔵本孝治

 来年4月より支援費制度が始まります。自薦ヘルパー(パーソナルアシスタント制度)推進協会[以下、推進協会]はこの制度の導入に対する当事者団体の取り組みとして発足しました。
 98年から99年にかけての社会福祉基礎構造改革の議論の中で支援費制度の概要が示された時、この制度は当事者運動にとって評価できる点と課題とすべき点がありました。
 支援費制度では、障害者が福祉サービスの消費者として、自分の好みにあった福祉サービス(事業者)を選ぶことができます。これは自立生活運動をはじめとした障害当事者運動が長年求めてきたことであり、その点では評価できます。
 しかし、問題点として次のことが指摘されました。
1.利用者に対して支給される支援費が、手続き的には利用者本人に直接支払われるのではなく事業者に支払われること(代理受領方式)
2.ホームヘルプサービスについて(市町村が事業指定を受けず)民間の指定事業者のみが提供することが予想され、自薦ヘルパーや全身性介護人派遣事業の介護人を市町村に登録している地域では、自薦の形態がとれなくなる恐れがある。
3.介護保険の要介護認定に見られるようなアセスメントが支援費を決定する際に組み込まれる可能性があり、その場合、現在保障されている社会参加部分が今後も保障されるかどうかという懸念がある。
 支援費制度の概要が示された当時、行政と交渉して24時間のホームヘルプサービスを勝ち取り、障害者自身が推薦するヘルパー(自薦ヘルパー)の派遣を受けることで、介護の必要な重度障害者が生活できる地域が拡大していました。また、障害者自身の組織である自立生活センターがホームヘルプサービスの委託を受ける地域も出始めていました。
 推進協会はこのような実践を支援費制度の中に位置づけるために厚労省と協議を重ねてきました。
 1については、代理受領ではない支援費直接支給方式を提案し、社会福祉法の成立の際に衆参両院の付帯決議に「バウチャー方式をはじめとして支給のあり方について検討を行うこと」とする一文が入りました。また、償還払いという形態で支援費の直接支給が認められました。さらに、後述するように当事者団体が指定事業者となることで、代理受領であっても当事者の主体性を確立することができると考えています。
 2、3については、各地域で当事者が介助サービス提供団体を設立しホームヘルプサービスの指定事業者になれるような仕組みと、社会参加を含むニーズに応じた24時間のホームヘルプサービスを支援費の制度として要望しました。
 厚労省と協議する中で、アセスメントについては、介護保険のような要介護認定・ケアプランの方式はとらず、市町村が利用者のニーズをもとに決定するということになりました。
 また、現状の障害ホームヘルプではヘルパー資格を義務づけておらず、当事者団体も障害者の介護は個別性が高く、既存の研修による資格は必要ないと主張してきました。介護保険ではホームヘルパー3級以上の資格が必要であり、支援費においてはこれがどのようになるかが大きな課題の一つでした。この問題については、2003年3月31日までにホームヘルプの従事経験があり都道府県が必要な知識と技術を有すると認めた者は支援費のヘルパーの対象とするという通知が出され(2002年7月16日付事務連絡「厚生労働大臣が定める居宅介護従事者の資格要件の取り扱いについて」)、また、支援費導入以降については、“日常生活支援”という新しい類型が設定されることで、自薦ヘルパーを念頭においた新たな研修課程が設けられる予定です。併せて、“日常生活支援と移動介護を専ら行う”事務所については事業者指定基準も緩和されています。
 このような厚労省との協議と平行しながら、制度を裏づける実態を作るために、各地域で当事者主体の介助サービス提供団体を設立しホームヘルプサービスの指定事業者になれるような基盤を作っていくこと、また、支援費導入までになるべく多くの地域で24時間の介護保障を確立することに取り組んでいます。
 昨年度は、自立生活センター等の当事者サービス提供団体がない県にまず1か所の拠点を作ることを重点目標としました。これは支援費制度になった際に、最低都道府県に1か所は自分で確保した自薦ヘルパーを登録できる事業所を確保するためです。
 空白地域に対して、いろいろなネットワークを通じて呼びかけをするとともに、現地に赴いて初級研修会や説明会を開催し、支援費制度の概要やこれから地域で取り組むべき課題について、自立生活センターの歴史・理念、先進的なCILの活動等について情報提供をし、問題意識を高めてもらうことを第一段階のねらいとしました。
 次に、研修会を開催し、介助サービス、ILP、ピアカウンセリング等の具体的な方法、介護制度をのばしていくための行政交渉、団体の資金計画などのプログラムを行いました。現在のところ、地方では札幌・秋田・山形・盛岡・名古屋・滋賀・広島・福岡・宮崎で研修会を実施しています。加えて、個別の研修が必要な団体については、東京での個別研修や税務・会計研修を実施しました。
 CILのない空白県の個人・団体に対しては研修会の参加費補助などの支援も行うことで、地域の障害者団体・個人の掘り起こしが進み、47都道府県にネットワークを作ることができました。現在は、各地の取り組みの状況にあわせたきめの細かい支援が必要な段階になっています。
 同時に、介助サービスを開始するための資金援助を希望する団体には、事前に事業計画書、事業予算書を提出してもらい、推進協会との協議を経て事業に必要な資金援助を行っています。これまで27団体に対して資金援助を行いましたが、これらの地域の多くでは、介護保険の指定事業者になる、障害ホームヘルプサービスを受託する等、当事者主体の介助サービス提供を目指して本格的な取り組みが始まっています。
 また、コンサルティングサービスとして、「NPO法人申請」「介護保険指定申請」「介護労働助成金申請」の手続支援を中心に行い、昨年度はそれぞれ45団体、22団体、28団体を手がけました。事業開始の際にさまざまな申請手続きが必要になりますが、各団体がこの手続きを一から始めるには負担が大きく、本来の活動に支障をきたすことがあるため、ノウハウをもった推進協会がこれらの手続きを支援することで、各団体の負担を減らそうとするものです。その他、各団体のかかえる個別のテーマに沿った情報提供、助言を行っています。
 支援費制度導入に向けてあと半年となり、指定事業者になって事業に参入しようという当事者団体の動きが活発化しています。支援費制度の中で、より多くの当事者団体が地域でホームヘルプサービスを開始し、地域で制度交渉や自立支援を展開することができるよう推進協会もバックアップしていきたいと思っています。
 なお、当会の支援を必要としている地域は今後も拡大していくため、研修の人材確保、運営資金の確保も重要な問題となっています(※当会は日本財団からの助成金と各加盟団体の会費で運営をしています)。当会の活動に賛同いただける方には是非ともご支援をよろしくお願い申し上げます。

(くらもとこうじ 自薦ヘルパー(パーソナルアシスタント制度)推進協会事務局)