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滋賀県における
居宅支援を中心とした取り組み

北岡賢剛

1 はじめに

 支援費制度がスタートする。社会福祉基礎構造改革の議論が始まった頃、これまでの入所施設を中心として展開された福祉が、一人ひとりの暮らしを地域ベースでサポートする福祉へと大きく代わることに、興奮を憶えた。歴史的に一定の役割を終えた措置制度が、利用者とサービスの提供者が対等な関係となり、契約を結ぶ仕組みになると聞かされたとき、ノーマライゼーションの取り組みは、初めて具現化されるであろうと考えたりもした。しかし、9月12日に厚生労働省から示された事務取扱いをみて、その興奮は冷め、私の中には「理念だけが正しい支援費制度」という感想が支配してしまった。本稿は、滋賀県における知的な障害のある人たちを地域ベースで支えるサービスについて報告をすることになるが、そういう意味では新しい制度になってさらに奮起しなければいけないとさえ考えている。

2 地域での安心した暮らしを実現するために

 知的な障害がある人たちが地域の中で安心して暮らしていくためには、さまざまなサービスが必要であることは言うまでもない。たとえば幼児期における相談支援や療育サービスをはじめ、家族の介護負担を軽減するサービス、また地域で自立した暮らしにチャレンジするために必要な機会の用意や就労に特化したスキル・マナー習得のための支援など、ライフステージに応じてさまざまなサービスが必要となる。施策としては、上記のサービスが名目上は整えられているが地域の実情はどうか。施設サービスは計画的に整備されているものの地域生活に対するサービスは、相変わらず入所施設におけるショートステイに頼らざるを得ない状態であり、障害のある本人や家族の生活の実態に迫るサービスとはなっていない。
 滋賀県では、このような地域の状況に対して、平成6年、7年の2か年をかけて障害保健福祉圏域ごとに策定された地域福祉計画において生活支援サービスの必要性が謳われた。そして平成8年、甲賀福祉圏域において、相談とサービスの拠点として障害者生活支援センターを設置し「24時間対応型総合在宅福祉サービスモデル事業」を開始した。

3 必要なとき必要なサービスを

 この事業は、ホームヘルプサービスを中心にして、対象や年齢で国庫補助対象に乗らない事業を県の補助事業として補い、緊急時の夜間対応としてナイトケアを、そして就労になじみにくい人へのデイサービス事業を一体的に提供することで、これまでなかなか焦点の当たらなかった地域生活支援を中心としたサービス事業を展開することになった。この事業の特徴は、サービスの場所や時間、派遣理由は問わないこと、24時間365日「必要なとき必要なサービス」が提供できることであり、市町村を主体とした利用契約に基づくサービス事業としたことである。利用者は市町村に登録申請は行うが、個々のサービスは、必要なとき生活支援センターにサービスの依頼を行い、センターは依頼に応じてホームヘルプサービスやナイトケア、デイサービスを組み合わせる(マネジメント)ことによって利用者の依頼に応える体制を整えた。
 さらに個々のニーズに対して行政とサービス提供機関との間で「サービス提供に関する申し合わせ事項」を設け、ニーズに応じてサービス内容を見直していくこととした。これにより、たとえば就学前の幼児については手帳所持を条件としないことや、ショートステイ利用において送迎が困難な場合はホームヘルプサービスの適用が受けられるなど、地域の実情に応じたサービス提供ができるようにしている。

4 24時間サービスの全県展開へ

 甲賀福祉圏で始まった障害者生活支援センターによる24時間対応型の福祉サービス事業は、翌平成9年に策定された県のノーマライゼーションプランに盛り込まれ、順次、七つの障害保健福祉圏域に広がっていき、平成13年にはすべての福祉圏域においてサービスが開始された。
 滋賀県においてこの取り組みが全県に広がった要因としては、滋賀県では昭和56年より複数の市町村をまとめて障害・高齢者・児童の福祉課題に対しての取り組みを進めてきたことがあげられる。対象者数や財源の問題で市町村単独で事業を推進することが困難な課題について、市町村が共同で事業を進めていく地盤があったことが大きく、早期発見早期療育の全県システムの確立や福祉圏域ごとに養護学校や入所施設を計画整備し、すべての市町村に通所施設や共同作業所を設置することで生まれ育った地域で生活していける基盤整備を行ってきた。さらに生活支援センターの事業が展開されたことで、障害のある人の生活が施設を中心としたあり方から、一人ひとりの生活を主体としたあり方へと変化してきた。
 平成14年度当初の県内の生活支援センターの利用登録者は2100人を超え、平成13年度の各サービスの実績はホームヘルプサービス約4万9300時間、ナイトケア8400時間、デイサービス延べ9900人となっている。この滋賀県の取り組みは大分市、鹿児島市など全国に波及し始めている。

5 地域ケアシステムとサービス調整会議

 生活支援センターの活動が広がる中で地域生活のニーズの広がりが見られるようになると、地域の障害児・者に関わるサービス資源の連携とニーズに基づく新しいサービス資源の開発が必要となってくる。地域の福祉機関や教育機関、行政が参画し地域のケアシステムを形作っていく「サービス調整会議」の役割も見落とせない。甲賀郡では、平成7年より取り組みをはじめ、地域の個々のニーズに応じてサービスをマネジメントしながら、地域にないサービスの開発として財産管理システムや運営委員会方式による生活ホームの設置運営、医療的ケアを常時必要とする学齢期の障害児の学校への訪問看護ステーションの看護師派遣など、生活に必要なサービスの検証と開発に取り組んできた。この地域ケアシステムも平成13年度より全県への展開に向けて、七つの福祉圏にある3障害の生活支援センターの協議会を立ち上げ、順次広がりを見せている。

6 まとめ

 このような取り組みを進めてきた基本には、措置制度に代表される施設を中心としたサービスのあり方から、利用者を中心としたあり方への転換があった。いわば支援費を先取りする形で利用契約に基づくサービスのあり方をわかりやすく利用者に提示し、それが支持されてきたといえる。サービスの支給量の上限もなく必要にあわせて提供されるサービスのあり方は、利用者の主体性を基盤に広がりを見せてきた。支援費における居宅介護の支給決定のあり方は、運用次第ではこれまで滋賀県ですすめてきたあり方から後退するかもしれない。トンチの見せどころだ。それにしても、今回の改正で地域生活移行の流れが起きることはないと思う。どこにも「地域生活移行」というインセンティブが働く気配がまったく感じられないからだ。

(きたおかけんごう 社会福祉法人オープンスペースれがーと理事長)