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ほんの森

小規模社会福祉法人通所授産施設
開設のための総合ガイド

きょうされん編集

評者 蟻塚昌克

 平成12年の社会福祉法等改正により小規模通所授産施設制度が創設され、無認可小規模作業所関係者にとって新たな発展の転換点が画期されることとなった。本書は、きょうされんの社会福祉基礎構造改革に関する取り組みの分析を基礎にして(第1部)、小規模通所授産施設制度の概要と社会福祉法人設立の考え方(第2部)、社会福祉法人の規定の細目(第3部)を解説した待望の、そして関係者必携の書である。本書により社会福祉法人創設の動きは加速されていくと思うが、関連して思いつくままにいくつかの事柄をあげておきたい。
 まずは社会福祉法人と社会福祉施設経営をどのように考えるかである。これまでは社会福祉法人は施設整備補助の受け皿と観念され、いったん社会福祉施設が完成すればそこには運営費が入ってくるために社会福祉施設は独自の経営組織と錯覚され、社会福祉法人の意思が社会福祉施設を経営するという本来の構図が忘れられがちであった。このため、たとえば現場の責任者に過ぎない施設長が社会福祉法人全体の事業方針や年度報告までを取りまとめるという、他の業界では考えられないあべこべ現象が生まれていた。こうした轍は踏まないように、社会福祉法人設立をめざす関係者はその法令上の意義と限界を見極めたうえで、地域でどういった社会福祉を開発したいのか。そのためには市民や行政に何を支援してほしいのか、さらに10年、20年後には我々はどのような事業を展望するのか、こうした事柄への決意を披瀝し、夢を大いに語り、本来の社会福祉法人主体の経営の構図を描くことが必要だろう。
 もうひとつ。経営組織を社会福祉法人化するということは、自らがヒト、モノ、カネ、ジカン、バショを公に差し出し、さらに公による極めて強い指揮監督に従属することを意味する。言い換えれば、自由な社会福祉活動が法律社会福祉にがんじがらめにされるということである。社会福祉発展の理論のなかでは、法律に縛られない先駆的で自由な民間社会福祉こそが法律社会福祉を含む社会福祉全体の自己改造の原動力であると規定される。しかしながら、こうした民間社会福祉がいったん法律社会福祉に包摂されるとどういった事態が生まれるのか。場合によっては困難のなかで磨いてきた雑草魂が忘却されて、活動の原点を見失う危険が浮上してくるのである。「小規模作業所のよさ」を失わせるようなことがあっては、何のための社会福祉法人化かわからなくなってしまう(第2部)という指摘は重要である。

(ありづかまさかつ 埼玉県立大学教授)