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肢体不自由児の姿勢を正しく保持するために

繁成剛

■はじめに

 一日の生活の中で、私たちはさまざまな姿勢をとっています。それは休息、作業そして移動といった活動を、より効率よく快適に行うために自ら身につけた行為です。しかしながら姿勢というのはその字が示す通り「姿に勢いがある」もので、常に微妙なバランスをとりながら一つの姿勢を保持しています。
 肢体不自由児は中枢や神経系に問題がある場合、または筋疾患がありますと、座位や立位など重力に逆らって一定の姿勢を保つことが困難になります。このようなお子さんに対して、日常生活を営むうえで必要となる姿勢を保持するテクノエイド(補助器具)が開発されています。たとえば、補装具に指定されている座位保持装置などを活用することによって、食事や排せつ等の日常生活活動(ADL)がスムーズに行えるように支援できます。

■姿勢保持の役割

 姿勢保持の役割を三つの側面から説明します。まず、治療的な側面として、重度障害のあるケースに生じやすい脊柱・四肢の変型や関節の拘縮を予防することがあげられます。さらに、重症の場合は廃用症候群の予防や、異常な姿勢反射や筋の緊張を抑制する必要があります。また、さまざまな姿勢を保持することによって、運動・感覚機能の向上や循環器系・呼吸器系の活性化を図ることがあります。
 訓練的な側面として、さまざまな姿勢を体験させることによって、抗重力的伸展活動を促し、頭部・体幹・上下肢の支持性を高めることに目標を置きます。食事では、上肢の使える場合は自力で摂食できる能力を高め、介助の必要な場合は、誤嚥(えん)を防ぐ姿勢を考えます。さらに、個人のコミュニケーション能力を高め、自発性を引き出すためにも姿勢保持は重要な役割があります。
 生活の中での姿勢保持の役割は、家族とのコミュニケーションを増進すること、ADLの自立を支援し、家族や施設職員の介護を軽減する役割があります。その他、一人ひとりの遊び、学習あるいは趣味などの活動を広げるために姿勢を考えることも重要です。いずれにしても、自宅で長時間快適に過ごすことを考慮し、姿勢保持によって三次元的な広がりを提供することが基本的な役割と言えるでしょう。その結果、本人と家族のQOLの向上を図ることが最終的な目標となります。

■姿勢保持の方法

 人間の身体は数百万年の進化の過程で、二足歩行に適した機能と形態を持っています。つまり、立位が最も自然で無理のない姿勢と言えるでしょう。特に脊椎は多くの骨が連なってダブルS字カーブを形成しています。その上に重たい頭が乗っかっていますから、背中と頭を真直ぐに保つことは、高度の姿勢制御が必要です。脊柱を支えているのは骨盤です。座位は骨盤がベースになります。骨盤を安定させることで、姿勢も安定します。また椅子等に座ると骨盤の座骨が飛び出ていますので圧力が集中し、褥瘡(じょくそう)をつくりやすくなります。座位保持のポイントは骨盤をいかに安定させ、圧力を分散し、脊柱の自然な彎(わん)曲を保って体幹と頭部を保持するかにあります(図1)。
 障害が重くなりますと、重力に逆らって体幹や頭部を支えることが困難になりますので、座面や背もたれを後傾させて安定を図ります。また、左右への倒れを防ぐために背もたれとヘッドレストの形状を身体に合わせて成型したり、側面にパッドを加えます。

図1 骨盤の位置で姿勢が変わる

図 骨盤の位置で姿勢が変わる

■姿勢保持装置の種類

 姿勢を保持する補助器具として補装具に指定されているのは座位保持装置です。立位や臥位を保持するものは制度の中には入っていませんが、昨年(2001年6月)の交付基準の改定で「座位に類似した姿勢」という一文が入りましたので、座位がとれない場合は、座位保持装置として申請することも可能です。
 座位保持装置は制度上、身体支持部と構造フレームに分けられ、必要な製作方法や完成用部品を加えて製作することになっています。身体支持部は1.平面形状型、2.モールド型、3.シート張り調節型、に分類されています。構造フレームは従来の金属や木材を使ったもので、リクライニング機構のほかにティルトや昇降機構を加えることが可能になりました。リクライニングは背もたれだけが倒れる方式ですが、ティルトは座面と背もたれが一体となって角度が変わります(図2)。その結果、どの角度でもパッドやベルトの位置がずれません。その他、座位保持装置のフレームとして車いすを選ぶこともできます。その場合、リクライニング機構は車いすのフレームを優先します。
 立位保持具は、身体の全面で支えるプロンボードと背面を支えるスタンディングフレーム(スーパインボード、ティルトテーブル)があります。いずれも角度調節やテーブル、パッド、ベルトなどの高さ調節ができます。スタンディングフレームは長下肢装具を併用することがすすめられます。
 臥位保持具を適用するのは座位保持が困難な重症児になります。呼吸や血中酸素飽和度(SpO2)の改善を図るため、腹臥位や四つ這いに近い姿勢で保持することがあります。家庭では使いづらいので、多くは施設や医療機関でセラピストが訓練場面で使っています。

図2 リクライニングとティルトの違い

図 リクライニングとティルトの違い オフセットジョイント 背もたれリクライニング 下肢支えの角度調節 ティルト

■座位保持装置の適用のポイント

 座位保持装置は前述したように、さまざまな形状や構造がありますが、それぞれの特徴を十分に把握したうえで使用することが大切です。成長や発達の著しい幼児期には平面形状型、またはモジュラー型が適しているでしょう。これは成長に対応した調節ができるからです。しかし、変型や緊張が強くなってくると、モールド型でないと適合が難しくなります。
 モールド型は身体との接触面積が増えるために、体圧分散はよくなりますが、通常のウレタンフォームやレザーで製作したクッションは通気性がないため、夏場はたいへん不快になります。また、あまりにもトータルコンタクトを強くしたり、矯正を強くした姿勢で保持すると、長時間の座位が苦痛になります。そこで姿勢が崩れないように3点支持のポイントを押さえて、圧力が集中する部位(座骨、腰椎など)の徐圧を考慮した素材(低反発ウレタンなど)と形状を採用することが必要です。

■機器を使う際の注意点

 座位は食事、学習あるいは遊びといった日常生活のなかで最も長くとる姿勢です。人間の身体は、常に動くことで正常な機能を保っていますので、長時間同じ姿勢で固定することは身体的、精神的に大きな苦痛が伴います。どんなに身体に合った座位保持装置や車いすを作っても、長時間同じ姿勢をとることは心身に過酷な状況になっています。最近、20歳前後の学生を対象に長時間座位の実験をしましたが、全く同じ姿勢を保つ限界は、20分から30分でした。したがって、理想的には30分に1回は体位変換をすることがすすめられます。多くの座位保持装置には、リクライニングやティルトなどの角度調節できる構造があります。これを活用して、30分に1回は角度を変えて、体圧を分散し、気分を変えることが大切です。
 次に、座位保持装置を使う子どもは成長、発達や障害の状況、体調の変化が早いので、毎月1回は適合チェックをすることがすすめられます。担当のセラピストと製作した技術者が立ち会って、使用している子どもの状況をチェックし、フレームが合っていないときはその場で調整するか、身体が接しているクッション部は修正を加えます。座位保持装置の耐用年数は3年ですが、その間に故障、破損した場合、あるいは身体に全く合わなくなったときは修理申請ができます。手続きや負担額は最初の申請と同じで、指定医の意見書が必要です。

■まとめ

 個人の能力と身体の特徴に合わせた姿勢保持を提供することは、自立を支援するための基本です。無理なく身体を安定させることで、食事やスイッチ操作などの作業に集中できます。姿勢保持がうまくいけば、移動やコミュニケーションもスムーズに行えるでしょう。これらの三要素を療育や日常生活のなかで個人の能力に合わせて整えることによって、自立したこころを育てる基盤ができます。一人ひとりのニーズを満たすために、どのような技術的な支援が必要かを考えることは、今後ますます重要となるでしょう。障害児の療育に携わる多くの関係者が、姿勢保持と技術支援に注目し、日々の実践に取り組んでいかれることを願って、結びに代えたいと思います。

(しげなりたけし 近畿福祉大学)


【引用文献】
(1)ベンクト・エングストローム、「からだにやさしい車椅子のすすめ」、三輪書店、1994
(2)繁成 剛、「座位保持装置」、POアカデミージャーナル9(1)、2001