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移乗機器
移乗の介護を軽減するために

青野雅人

 移乗の介護負担を軽減するための機器には、手すりやスライディングボードなどの移乗補助具や、身体を吊り上げたり、持ち上げたりするリフトなどがあります。ここでは、身体を吊り上げて移乗するリフトについての導入事例を紹介したいと思います。
 リフトの種類には、天井走行式リフト、据置式リフト、固定式リフト、床走行式リフトなどがあります。天井走行式リフトは、天井に固定設置したレールに沿って身体を吊り上げる装置が移動するリフト、据置式リフトは建物に対する工事が必要ないように、架台を組んで、その架台に対してレールを設置するリフトです。固定式リフトは建物の壁や床などに設置固定して使用するリフト、床走行式リフトはキャスターが付いて任意に移動することのできるリフトです。
 次に、リフトの導入事例を紹介します。

【事例1】脳性マヒ・四肢マヒのYさん(26歳)

 両親と3人で暮らし、主な介護者は母親ですが、父親も介護には協力的です。週3回知的障害者更生施設に通所し、それ以外は家で過ごしています。移動・移乗介助は全介助で両親が行っており、寝室、居間、浴室間および、外出時の駐車場への移動と、各部屋でのベッドと車いす、車いすと床の移乗、浴槽への出入りなどがあります。本人の身体が大きくなり、体重も40Kg近くなってきたことから介助負担が大きくなり、両親の移乗・移動介助負担軽減を目的にリフトの導入を行いました。
 導入したリフトは「かるがる(株式会社竹虎)」です。寝室、居室、浴室、駐車場それぞれの天井にX―Y方向自在に移動することのできる面移動タイプの固定式リフトを設置し、居室と浴室・駐車場間は天井走行式のレールで結んでいます。このリフトの利点は、鴨居にレールを通すための穴を開ける必要がなく、各部屋間、あるいはそれを結ぶレールをベルトの架け替えによって移動可能なことです。
 また、X―Y方向自在に移動可能な面移動タイプは、据置式リフトでよく使用されているもので、据置式のほうが工事費は安くなる場合が多いのですが、架台が邪魔になったり、目立ったりすることがあります。この事例のように天井にレールを設置すると、天井補強の工事が必要になりますが、架台が邪魔になることは少なくなります。本体架け替えタイプの欠点は、身体を吊り上げる際にハンガーだけではなく、本体が降りてくるため、スリングシートを掛ける際に、本体が邪魔になりやすいことがあります。また、身体を起こすと頭が本体に近づくこと、「かるがる」は3点吊りのため、吊った姿勢が寝た感じの姿勢になりやすいことなど、本人の身体機能によっては注意が必要です。
 このリフトの設置によって、これまで両親2人で行っていた浴室への移動介助が母親1人の軽介助で可能になり、浴槽への出入りも楽になったとのことです。その他の移乗・移動動作も介助負担が軽減し、母親は次のように述べられています。
 「26歳の脳性マヒの息子と、夫と3人家族。息子を介護するにあたって、リフトは私には関係ないものと思っていました。リフトは施設等で使うものと、頭の中に凝り固まっていたのです。そして、荷物みたいと思い、嫌だったのです。でも、最近、夫と肩幅が同じぐらいの息子をお風呂に入れると気持ちよさそうにしている顔を見ると、毎日息子をお風呂に入れる夫が整形外科や接骨院へ通う姿に、このままでは家族が崩れてしまうかなと危うくなってきたので、一日でも長く家族一緒に暮らしたいと思う一心で、公的機関へ相談しました。1人で費用はどのくらいかかるのか? いろいろと悩みましたが、そのたび、専門の方々が、私が納得できるように、説明やまた一緒に考えてくださいました。取り付ける段階に入り、私がどのようにイメージしているのか聞かれましたので、息子の生活動線にすべてレールを付け、1回リフトに乗ったら外にまで抱えることなく外出したり、お風呂に入れたりしたいのですと説明すると、担当の方が、「いいと思いますよ」と答えてくださいました。本当にそんなことできるのかと驚き、また期待していましたが、できあがってみると、本当に私のイメージ通りに部屋から外へ出たり、部屋からお風呂に入れたりと、ただ感心するばかりでした。リフトをみて、わが家に来る小さな子どもが史ちゃん(本人)のイスと言われ、私の以前の古い考え方に苦笑しました。今ではわが家になくてはならない大切なリフトです。息子もリフトに乗ると、大好きな朋(通所の場)に行くことができると思ってきょろきょろしています。介護する者が具合い悪くならない一歩手前で考えなくてはいけないと思います。一つひとつ福祉器具を利用しながら、そして支えていただきながら、一日でも長く一緒に生活できたらと思います。毎日同じことができる幸せに感謝します」

【事例2】脳出血・四肢マヒのFさん(64歳)

 奥さんと2人暮らしで、介護者は奥さんです。退院後、入浴時の介助負担を軽減するために、リフトを導入しました。入浴は、入浴サービスと自宅の浴室利用が週1回ずつです。普段はベッド上で生活していることが多く、脱衣室までは車いす(介助)で移動しています。脱衣室と洗い場の洗体いす間の移乗、および浴槽への出入りにリフトを使用します。リフトは使用場所が脱衣室と浴室に限られているため、固定式リフトの「マイティエース(株式会社ミクニ)」を使用しました。
 このリフトは、多関節のアームが付いたブラケットの先にリフト本体のユニットとハンガーが付いており、ブラケットを壁に固定設置し、アームを動かすことで、脱衣室、洗い場、浴槽間を移動できます。天井にレールを取り付けるタイプに比べて本体価格が比較的安いため、移乗する場所が限られている場合に使用します。このリフトはまた、本体ユニットをアームから取り外し、居室など他の場所に設置したブラケットや支柱に取り付けて使用することもできます。しかし、アームの移動範囲が限られているため、移乗場所とアームの到達範囲をよく考えて、リフトの設置場所を決めなくてはなりません。また、アームの先からハンガーが垂直に上下するもの(株式会社ミクニ「マイティエース」等)と、アーム自体が弧を描くように上下するもの(株式会社モリトー「つるべー」等)があり、使い勝手が違いますので、使用環境に合わせて選ぶことが必要です。
 このリフトの設置によって、奥さんの入浴介助負担が軽減され、特に難しかった浴槽への出入りも可能になりました。

【事例3】脳性マヒによる四肢痙性マヒのHさん(20歳)

 両親と姉の4人暮らしです。移乗・移動は全介助で、主な介護者は両親です。週2回デイサービスを利用し、週3回作業所に通っています。デイサービスやショートステイなどの社会資源を有効に活用していますが、自宅での入浴は父親の全介助で、洗体は床上、浴槽への出入りは抱きかかえ介助で行っており、介助負担が大きいためリフトを導入しました。入浴はデイサービスで週1回と自宅浴槽利用が週1~2回です。リフトの導入にあたって、浴室を0.75坪から1.25坪に増築し、シャワー用車いす(オーダーメイド)を作成し、浴室までの移動に使用しています。設置したリフトは、「パートナー(明電興産株式会社)」です。レールを天井に取り付ける固定式リフトで、面移動タイプを用いました。リフトの使用場所は浴室内に限られるため、懸吊時にハンガーのみが降りてくる吊り姿勢の自由度が高いリフトを選択しました。
 このリフトの導入によって、父親が行っていた介助を母親が行うことができるようになり、自宅での浴槽利用頻度が週2~3回に増えました。
 以上、三つの事例を紹介しました。リフトは初めて使う場合に使いにくいと感じる人が多く、導入をためらいがちです。ただし、複雑な操作が必要なわけではなく、慣れれば手軽に使用できる機器です。事例1でYさんの母親は、リフトで人を吊ることに初めは抵抗を感じていました。しかし、実際にリフトを導入し、使っているうちに、体調を崩しながら無理をして介助するより、機器を使いながら家族が健康で一緒に生活できるほうがよいと言われるようになりました。
 リフトにもいろいろな種類があり、ここでは紹介しきれませんが、それぞれのリフトの特徴を理解し、本人の身体機能、介護者の使い勝手、建物との適合などを考えて、上手に利用することで介護負担を軽減してほしいと思います。
 最後に、ここ数年のリフトの動向は、レールや本体の小型化、形状の細かな改良などが中心で、今後もこの傾向が進むと思われます。今後、リフトに期待する点としては、旅行等で手軽に使用することができる軽量・コンパクトなリフトが挙げられます。外出先での移乗介助負担が大きいと、外出をためらいがちになります。社会参加を推進するうえで、外出時に利用できるリフトの充実が求められます。

(あおのまさと 横浜市総合リハビリテーションセンター企画研究室)