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聴覚障害者のコミュニケーション機器
聴覚障害をもつ方のコミュニケーション
を支援する機器やシステム

山田弘幸

1 はじめに

 本稿の主な目的は、聴覚障害をおもちの方のコミュニケーションを支援する最新機器等をご紹介することです。さらに、ここに登場する機器やシステムなどの多くは、障害をおもちの方のみならず、他の多くの方にとっても何らかの有効性や関連性があるという考え方についても知っていただければと思います。
 では、関連機器等を、補聴器のように「2 聴こえの低下に直接働きかけるタイプの機器など」と、電子メールのように「3 主に聴こえ以外の感覚を利用するタイプの機器など」に大別し、順次ご紹介していきます。

2 聴こえの低下に直接働きかけるタイプの機器など

(1)補聴器

 電子回路を用いた補聴器は、1900年代半ば頃からある機器ですが、最近の動向としては、小型化、デジタル化が進んでいます。
 デジタル補聴器では、従来型の補聴器のように音の増幅だけでなく、複雑な音響信号処理が可能なため、聴覚障害の種類や程度において補聴器の役立つ範囲が広がります。たとえば、とりわけ高音が聴こえ難いタイプの難聴であれば、デジタル補聴器に取り込まれた音声に信号処理を施し、本来の高音を低音に変換して増幅することも可能です。

(2)人工内耳

 手術で内耳に挿入した電極が、内耳に代わって聴神経に刺激を与え、聴こえの感覚を生じさせるというもので、補聴器とは根本的に異なる発想の装置です。
 実用化されて約25年経つ技術ですが、最近の傾向としては、対象児・者が低年齢化していること、中途失聴の方のみならず、乳幼児期に発症して成人した方も対象として増えていることなどがあります。

(3)音声電話機をめぐる工夫

 1876年にグラハム・ベルが特許申請し、136年を経た現在、電話は社会生活には欠かせないものとなりました。飛躍的な発展の結果、単に「電話」というだけでは、もうその特性を十分に表現できないので、便宜的に「電話システム」を「2―(3)音声電話機をめぐる工夫」、「2―(4)電話ネットワークをめぐる工夫」、そして「3―(3)テレビ電話機等」の三側面からとらえて、まず本節では「音声電話機」について述べることにします。
 音声電話機は、小型化、高音質化、高機能化、低コスト化を遂げ、特にここ最近は携帯電話の普及、発展が非常に著しい状態です。しかし、いくら最新型であっても音声のやり取りに関する限り、聴こえの悪さによる不便さはなくなりません。
 そこで、固定電話機用の音声を増幅するための補助装置、補聴器や人工内耳と直接コードで接続でき、増幅機能も内蔵した電話機などがあります。また、携帯電話機用の補助装置もあります。

(4)電話ネットワークをめぐる工夫

(a)ファックス

 ファックスは、電話回線を音声通信以外に利用した先駆けと言えます。聴覚障害をもつ方をターゲットに開発されたわけではありませんが、聴覚障害をもつ方の有力なテレコミュニケーション手段としても普及しました。
 技術面では、目新しいものではありませんが、パソコンに組み込むファックス通信ソフトウエアがあります。これによって、ファックス用の機器を用いることなく、送られてきたファックスを電子データとしてパソコン画面に表示する、データとして保存する、紙に印刷せずに画面に表示されている文書などをそのままファックスとして相手に送る、といったことが可能です。

(b)インターネットへのアクセス

 ファックスを先駆けとすれば、電話ネットワークに関わる最大の工夫は、インターネットへの接続経路としての機能を持ったことではないでしょうか。自分のパソコンとプロバイダー(インターネットへの接続業者)のサーバーコンピュータとの間を接続するのに、既存の電話ネットワークがうまく活用されたのです。その結果、電話ネットワークは、当初からの音声通信に加えて、データ通信網としての機能の重要性が非常に高まっています。現在では、ADSL(asymmetric digital subscriber line)という技術や光ファイバー網を用いて、個人でもインターネットへの高速通信回線による常時接続が低コストで可能となりました。
 このネットワーク機能を利用した電子メールなどのサービスについては、次の第3節で述べます。

3 主に聴こえ以外の感覚を利用するタイプの機器など

(1)アラーム、呼び出し機等

 ドアチャイム、電話の着信音など、音を何らかの大切な合図として用いる機器類は非常に多くあります。音は、視野外の情報も伝えてくれるし、何か他のことをしていても、はっと気付くことができるので、合図としてとても便利です。ただ、便利なだけに、聴こえが悪いためにそれが利用できない不便さはとても大きなものです。
 そうした不便さを補うものとして、さまざまなセンサーからの信号を、携帯型の無線端末機に通知してくれる装置があります。たとえば、ドアチャイムのボタンが押されたとか、ファックスが着信したとか、隣の部屋で赤ちゃんが泣いているとかいった状況を、携帯端末機のバイブレーター(振動)などで通知してくれるものです。センサーが感知できるものについてしか通知してくれませんが、それでも複数の情報を一括して把握することができ、無線なので屋内での身動きが制約されません。
 また、機能が単純化され、呼び出し機能に特化した装置もあります。たとえば、銀行や病院などの窓口で自分の名前が呼ばれるのを待つことは、聴こえの悪い方にとってはとても大変なことですが、呼び出し用の無線携帯型端末機を身に付けていれば、バイブレーターの振動で自分の順番がきたことを楽に知ることができます。これも、やはり聴覚障害の方だけでなく、高齢者はもちろん、やかましい場所での呼び出しであればだれにとっても便利なものです。
 据え置き型アラーム、リストウォッチ型アラームは大音量ベルやバイブレーターを備えた目覚まし時計、およびバイブレーター式アラームを内蔵したリストウォッチです。このウォッチは聴覚障害がある方の目覚ましアラームとしても有効ですが(寝相が悪くても振動が確実に伝わるため)、健聴者にとっても、周囲に迷惑を掛けないアラームとしてとても有効です。

(2)電子メール

 電子メールは、当初はインターネットの中で発展を続けてきました。しかし、携帯電話の普及とともに、携帯メールがインターネットメールと融合し、一層便利になりました。
 現在のように電子メールが普及する以前は、オンラインの双方向同時通信(手書き図形や文字のリアルタイムのやり取り)用の専用端末機もありましたが、今では、携帯電話で十分といったところです。
 大がかりなパソコンではなく、携帯電話で電子メールが扱えることのメリットは健聴者にとっても非常に大きいので、携帯メールは広く社会に普及しました。その結果、作文・読解能力さえあれば、聴こえの悪さは全くハンディとならないため、聴覚障害をおもちの方のコミュニケーションツールとしても非常に有効で便利なものとなりました。

(3)テレビ電話機等

 電子メールが扱える、また、多少動画の動きが遅いものの、一応テレビ電話機能も備わってきたことなどから、もはや携帯電話は単なる電話機ではなく、コンピュータだということがご理解いただけると思います。
 今後さらにコンピュータとしての携帯電話機の性能が向上し、ネットワーク関連技術も向上すれば、携帯端末(電話)を用いた手話による会話も近いうちに実用レベルで可能になることでしょう。
 そうなると、両手を用いる手話に適した携帯端末のデザインとは、どのようなものなのでしょうか? 手話使用者に限らず、両手フリーで、しかも携帯端末で、リアルタイムの動画による同時双方向通信が可能となれば、いろいろな面白い使い方があるはずです。一般に広く普及することで、聴覚障害をおもちの方の利便性も高まるのですから、携帯電話の技術者やデザイナーの方には、ぜひそのような発想の製品を生み出していただきたいものです。少し話がそれてしまいますが、聴覚障害をおもちの方に有効な字幕放送をもっと普及させるうえでも、同様な発想が必要なように思います。
 固定電話型のテレビ電話機としては、普通回線用、ISDN回線用のほか、インターネットを利用するIP電話方式のテレビ電話機もあります。
 その他、まださまざまな機器がありますので、「こころWeb」(http://www.kokoroweb.org/)、「聴覚障害者情報提供システム」(http://www.jyoubun-center.or.jp/)、「インターネット福祉機器情報サービス」(http://www.hcr.or.jp/)、「(財)テクノエイド協会」(http://www.technoaids.or.jp/)などのウェブページをご参照ください。

4 おわりに

 今後、機器の開発に際しては、各種障害に応じた個別的あるいは専用の技術開発と並行して、逆方向からのアプローチ(すでに広く普及した技術の取り込みや発掘、あるいは普及しそうな技術にうまく仕掛けを仕込む発想など)も大切だと考えます。そのためには、開発者はユーザーの意見に敏感になっていただきたいし、「ATACカンファレンス」(http://web.sfc.keio.ac.jp/~e-ito/atac/index.html)をはじめ、いろいろな場やメディアを利用して、ユーザー自身がアピールすることも大切だと考えます。

(やまだひろゆき 九州保健福祉大学)


【文中掲載】
(株)自立コム
 http://www.jiritsu.com/products/
(株)タイムズコーポレーション
 http://www.times.ne.jp/
(株)東京信友
 http://www.shinyu.co.jp/
(株)ワールドパイオニア
 http://www.wpl.co.jp/
(株)コンパル
 http://www.compal.to/