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京都
コンタクト・パーソン方式による
権利擁護システムモデル事業
―社協とNPO法人との協働―

岡野英一

1 社協とNPO法人との協働の取り組みとして始まったコンタクト・パーソン活動方式の導入

 宇治市社会福祉協議会(以下「市社協」)と精神保健にかかわる現場の精神保健相談員、共同作業所職員、病院職員、研究者等によって組織された、NPO法人「宇治市精神保健をすすめる会 かわせみ」(以下「かわせみ」)は、「かわせみ」が法人格を取得する以前から協力して、精神障害者の問題を地域で理解し、地域福祉の実践活動に結びつける働きかけを継続していた。
 社会福祉の基礎構造改革が推進され、福祉の理念が変化してくる中、痴呆性高齢者、精神障害者、知的障害者をはじめとする、さまざまなハンディがある人々が、自らの主導性や自己決定性のもとに暮らしていくことが重んじられるようになった。そこで、スウェーデンにおけるコンタクト・パーソン制度を参考に、日常継続的なマンツーマンによる「友人兼助言者」として、かかわりを通じた取り組みを開始させた。
 今回、このコンタクト・パーソン活動方式の導入を構想した背景には、知的障害者、精神障害者、痴呆性高齢者の、1.生活関係の広がりや豊かさ、2.コミュニケーション力の発展、3.権利擁護の意欲発展、4.ボランティアと当事者による相互学習の視点の広がり、5.当事者の気持ちのよりどころの確保という目標を、地域福祉活動の中で進めていこうとする意図があった。

2 コンタクト・パーソンの活動の実際

 コンタクト・パーソンと利用者との関係の象徴的なものの一つがマッチングにある。たとえば、結婚する前にお見合いをする、それと同じような形で、コーディネーターが仲人のような立場をとり、互いに自分の思いや自分の特徴、自分の趣味など、自分を表現するものを持って、コンタクト・パーソンと利用者が会うことにした。そこでいろいろな話しをして、互いにいったん家に帰って、少し考える時間を持ち、「やっていけるかな?」「あの人と相性があうかな?」「付き合っていけるかな?」ということをじっくり考えたうえで、何日間か時間を置いて、その答えをもらうという方法を採った。「活動を始めてもいいですよ」「あの人だったらコンタクト・パーソンとして受け入れてもいいです」という返事を受けたうえで活動を開始させた。したがって、活動の成立をあまり急ぐことなく、どちらも断る権利がある、選ぶ権利があるというようなことを大切にしながら、マッチングをしていくというかかわりをつくった。
 この活動のもう一つの重要な点として、人間としての尊厳を大切にする視点を担保することである。知的障害者の地域交流や地域生活支援活動が地域でも数多く進められるようになっているが、残念ながら、知的障害者が一般のコミュニティ活動の中で企画に参加したり、実施している地域活動事例はほとんどないに等しい現状がある。
 いろいろな要因はあると考えられるが、その一つの大きな要因として、「当事者一人ひとりの顔が見えていない」そういう思いがあった。
 コンタクト・パーソン活動は、当事者が何を思い、何を望んでいるのか、何をしようとしているのかをしっかりと確認しながら、友人として、あるいは助言者としてかかわっていくことにポイントを置いて臨み、かつ細心の注意を払った。活動を積み重ねたコンタクト・パーソンの口から「メール交換や喫茶店での会話を通して、このごろようやく友人兼助言者になってきたような実感がある」という言葉がでてきたのも、互いを対等に理解しあえる瞬間を持つことができるようになったという実感からであろうし、当事者からは「コンタクト・パーソンさんと会っているときは、とても楽しい」という言葉も多く聞くことができた 。
 現在、市社協で地域参加型(Bタイプ)リハビリテーションや “ふれあいサロン”活動などを通して、社会的な孤立をなくしていこうという取り組みを行っている。しかし、社会の中でふれあうことに対する意欲に欠ける人に対し、一緒に散歩したり、喫茶店で話しをしたりという、積極的かつ意識的に接近していく持続的な取り組みによって、ふれあいの機会をつくっていくことのできる可能性も確認できた。

3 コンタクト・パーソン活動の今後の課題

 いろいろな課題も残されている。その一つ目は、コンタクト・パーソンの技量をどのように高めていけばいいのかということである。そのケース、ケースでいろいろな検討を重ねたり、勉強をしていくということを地道にやっているが、コンタクト・パーソンの技量をどのように高めていくのか、その方法論をもう少し科学的に明らかにしていく必要がある。
 二つ目の課題は、バトンタッチ、あるいは終わり方の問題である。物事の終わりは新しい出発、発展だと言われるが、それをうまく次の新しいステップにつなげていけるようなかかわりが必要だということである。「ハイ、終わりました」というような感じで事務的に終わるのではなく、それをどのように進めていけば当事者にとってはいいのか、というしっかりとした評価が必要である。まさにそういう意味では、コンタクト・パーソン活動におけるコーディネーターはソーシャルワーカーの視点が求められ、細やかな配慮とともに冷静なかかわりが求められてくる。
 三つ目の課題は、今まではモデル事業として行ってきたので、任意に、このケースはコンタクト・パーソンに見合ったケースなのかな?という感覚で取り上げてきたが、この取り組みをもう少しオープンというか、社会的なものにしていった場合、コンタクト・パーソンのニーズとは何なのか、ということを明らかにする必要がある。
 当事者自身が自分の考えなり、意見を表明できるような粘り強い環境づくりが、これからの障害者の地域生活支援が、地域福祉の一つの主要なテーマになってくるという意味で、今後の地域福祉計画等に反映されていけるような活動実績と方法論の確立が求められている。

4 新たなNPO(事業主体)づくりにむけて

 今回の取り組みを通じて、「友達兼助言者」としてのコンタクト・パーソン活動の意義の確認や、障害者を地域で支える社会資源づくりに対するニーズの高さ(特に知的障害者の余暇活動サービス等)が改めて検証された。
 市社協は、これまでの取り組みを総括しながら、市民活動として定着させ、新たな事業主体(NPO)づくりを進めていく計画である。

(おかのえいいち 宇治市社会福祉協議会事務局長)