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ほんの森

京極高宣著
障害を抱きしめて

~共生の経済学とは何か~

評者 坂本洋一

 『障害を抱きしめて~共生の経済学とは何か~』が、京極高宣氏の著書として2002年9月に東洋経済新報社から出版された。『ノーマライゼーション』に「障害の経済学」として連載されている当時から、障害者福祉のあり方を考えるうえで、著者が経済学的な観点からどのように切り込んでいくのか、若輩の私に何らかの手がかりを与えるのではないかと関心を持ちつづけてきた。
 本書は、副題にあげられている「共生」という言葉の中に、障害を決してマイナスとして把握するのではなく、肯定的に捉え、「障害者を抱く本人」、「障害者を抱きしめる周囲の人々」、「障害を抱きかかえる全体社会」の三つの意味を含んでいると著者は述べている。
 共生の経済学を追求する著者は、共生社会を根底に置き、障害者の労働力を積極的に評価し、「重度の障害を持つ人が必ずしも生産的な活動に参加しなくても、自立生活に意欲的に立ち向かえば、広く社会経済的な意味で、大きな社会経済的な効果を生み出す」と考えている。このような視点は、現在まで、障害者は生産的な活動に従事できないという考え方を転換し、重度の障害をももつ人を抱きしめる社会を提言しているようである。
 さらに、著者は、このような共生社会において、障害者の所得保障、職業能力の開発、雇用の問題について、あるべき方向性を具体的に提起している。障害者の自立生活とは、経済的観点から、自助、互助、公助の三つの組み合わせで可能な社会を形成することにあり、障害者の所得保障体系について言及している。職業能力開発については、授産施設における工賃の概念にも論述しながら、職業リハビリテーションの意義を強調している。行政的にも、就労支援の連携を訴え、労働・厚生行政の連携施策を推進するよう呼びかけている。
 福祉環境のマクロ経済効果として、福祉用具、バリアフリー等の効果を取り上げている。このようなマクロ経済効果を従来測定することはあまりなかったように思われるが、著者は、具体的な数字を提示して、福祉環境の経済効果を展開している。また、福祉サービスの経済的特性に触れて、自立支援の理念に基づく福祉サービスを提供するべきであると強調している。
 本書は、障害者福祉における経済学の確立という大きな目標を掲げて、出発したばかりであるが、今後の発展を関係者も協力しながら、理論化していくきっかけとなる書籍である。

(さかもとよういち 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課障害福祉専門官)