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ビクター・ウーゴ・フローレス氏に聞く
(メキシコ大統領執務室長)

インタビュアー 藤井克徳
(日本障害者協議会常務理事、本誌編集委員)

―ビクター・ウーゴさん、来日されるのは初めてですか?
 ええ、初めて日本に参りました。アメリカの文化とはずいぶん異なっているという印象を受けました。たいへん美しく、清潔な感じがしました。また、日本の方々はいろいろな面で非常にオーガナイズされていて、アレンジが上手であるように思います。

―今回の来日は大阪フォーラムへの参加が主な目的であるようにうかがっていましたが、少しは滞在できるのでしょうか?
 残念ながら大阪フォーラムに参加して、すぐに帰国しなければなりません。滞在期間は、10月20日から1週間です。本当は、もう少し日本のみなさんと交流したかったのですが。

―早速ですが、簡単にウーゴさんの自己紹介をお願いします。
 私はメキシコの北部に生まれました。メキシコの北部にありますバハカリホルニア大学で教えておりました。現在43歳です。21歳の時に自動車事故に遭遇し、以来障害のある人の仲間入りということになり、現在も車いすでの生活を続けています。
 私は、ONGという障害者の団体に属しています。2000年の大統領選挙において、現大統領のフォックス氏が選出されたわけですが、その直後に大統領府より招請がありました。大統領府の中に障害分野に関する特別の委員会が設置されることになりましたが、私に責任者就任の依頼がありました。以来、障害分野を専門的に扱う委員会の長として、大統領府の中にあります執務室で仕事をしております。
 新しく大統領府に設けられた特別の委員会といいますのは、大統領に直接つながっている権限のある部署で、障害者問題に関する基本的な指針や基本プログラムを策定する機関です。具体的には、障害のある人々の社会的統合の促進をめざしていく視点から、とくに教育や雇用の分野に重点を置いています。もちろん、以前から障害のある人々に対する社会的な援助というものはありましたが、正式な仕組みとしては不十分であり、また権限という点からも効果的なものではありませんでした。それが今回は大統領府の直属となったのですから、政治的にも大きな意味を持つことになりました。

―昨年の国連総会でのフォックス大統領の演説は、日本でも大変関心を呼びました。障害者権利条約の採択に向けての動きが、国連の表舞台に登場するきっかけをつくってくれました。ところで、大統領はなぜこんなにも障害分野に関心が高いのでしょうか?
 フォックス大統領は、選挙に出馬したときの公約として、社会的にハンディがある人々の課題に取り組むことを掲げました。具体的には、三つのテーマについて特別の体制を作るというものでした。一つ目は、移動労働者への対応です。アメリカを中心に年間2000万人もの労働者が他国に流出していますが、これは大きな社会問題です。二つ目は、高地に住む人の課題を解決することです。そして、三つ目に障害のある人々に焦点を当てようということでした。大統領を支持する中にたくさんの障害のある人々が含まれ、大統領も障害についての課題を基本問題の一つとして認識しているようです。大統領に就任後、公約どおり三つのテーマについて特別の体制(オフィス)が設けられたのです。

―大統領府の中の障害分野についての委員会は、どのような体制になっているのでしょうか?
 現在のスタッフ数は22人です。そのうち、12人が企画担当として政策の立案に携わっています。先ほども言いましたように、私がこの部署の責任者を務めています。

―さて、障害者権利条約に関連してもう少し詳しくうかがいたいと思います。昨年12月19日に国連総会は、特別委員会の設置を含め障害者権利条約を本格的に検討していくことを決議しました。その牽引車となったのがメキシコ政府であることは、私たちも承知しております。これを受けて本年7月29日から8月9日にかけてニューヨークの国連本部で第1回の特別委員会が開かれました。ウーゴさんは、この特別委員会での検討状況をどのように評価しておられますか?
 ただ今の質問にお答えする前に、昨年の国連総会に至るまでの経過について簡単に話しておきたいと思います。
 国連総会でのわが国大統領演説で障害者権利条約の必要性が唱えられ、本格的な議論の端緒がつくられたのですが、それには前段があったことをお分かりいただきたいと思います。昨年8月から9月にかけて開かれた、南アフリカのダーバンでの国際会議でメキシコ政府は障害者権利条約の必要性を提唱しました。この提唱には、障害者の人権を保護するために適切な国際条約を策定するために、国連の中に特別委員会の設置することを含め、強制力を備えた国連の対応を求めるものでした。
 このような経過をたどって、ご承知のように昨年秋にフォックス大統領が国連であのような演説を行ったわけです。そして、12月19日の国連総会での決議によって、特別委員会の設置を含め、障害者権利条約を国連として本格的に検討していくことを決定したのです。
 本年夏の国連本部での特別委員会は、検討が始まったという意味では歴史的な意味がありますが、内容面ではこれからということになるのではないでしょうか。

―権利条約についていよいよ内容面での議論に入っていくと思いますが、最低の要素として何を盛り込むべきであるとお考えですか?
 要素になるかどうか、そのポイントは三つあるように思います。第一は、各国での法律や規則の水準を、またすでに作られている国際的な宣言や規則の水準を下回らないことです。第二は、拙速ではなく、じっくりと作っていくことです。第三は、発展途上国、たとえばアフリカとかラテンアメリカの国々などでは、まだまだ障害のある人々への対応が遅れており、これを支援するものでなければなりません。そのためには、人権保障と社会発展、それに人種差別の解消の方向などの要素をバランスよく網羅していくことです。

―メキシコ政府は、障害者権利条約の採択には一貫して熱心であり、本年6月には国際専門家会議を主催しておられます。メキシコ政府として、条約採択の促進に向けて、当面どのような戦略を考えておられるのでしょうか?
 第一の戦略でありますが、フォックス大統領自らが各国の首脳に直接働きかけることを考えています。国際会議などで海外に出るときに積極的にこうした活動を行うよう私も進言しています。第二は、各地域ごとに作業グループを設置することです。主として、アジア太平洋地域、そしてアフリカ地域、ラテンアメリカ地域、またEU地域でも設けることです。ここでの討論を活発にすることが非常に重要になってきます。
 そして、第三にこれが最も重要なのですが、条約を作っていく過程で世界のNGOが積極的に関与していくことであり、そのための仕組みを作っていくことです。NGOの関与や支援によって、内容が豊かになっていくのではないでしょうか。

―最後になりますが、日本のNGOへの期待を一言お願いいたします。
 日本のNGOはたいへんいい仕事をしていると思います。今回の大阪フォーラムなどもそうですが、歴史的な企画だったのではないでしょうか。当面は、障害者権利条約の採択に向けてまずはNGOが互いに連携しあい、合わせて条約の必要性を世論に訴えていってほしいのです。また昨日、日本の方から国会レベル、民間レベルで交流がもっとできればという提案がありました。わたしも賛成で何ができるか考えてみたいと思いますが、NGOのみなさんも努力してほしいと思います。新しい関係の中でおもしろい連鎖反応のようなものが起こればいいですね。

―今後のウーゴさんのご活躍を期待しております。これからも交流が深められればと思います。貴重なお話をありがとうございました。