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関連会議ダイジェスト
“障害者差別禁止法”を考える国際フォーラム

川内美彦

 2000年10月にワシントンDCで開かれた障害者差別禁止法に関する国際会議に、私たちLADDは2人のメンバーを送り込みました。そこで、世界の40か国以上ですでに障害者差別を盛り込んだ法律ができているという衝撃的な事実が明らかになったのです。ADA(障害のあるアメリカ人に関する法律)ができて10年あまり。私たちはアメリカの背中を追うあまり、世界の大きな潮流の変化に気付かなかったのです。
 こうして障害者差別禁止法を作ることが喫緊の課題となって急浮上しました。折しもDPI世界会議札幌大会の主要テーマとして障害者差別禁止法と差別禁止条約が掲げられており、この機会を逃す手はないと、私たちはNHK厚生文化事業団に「“障害者差別禁止法”を考える国際フォーラム」を提案しました。そして、NHK厚生文化事業団とDPI日本会議の共催で10月12日に大阪、19日に東京で国際フォーラムが開かれました。
 私たちLADDは企画面で深く関与し、大阪、東京フォーラムとも前段に海外の情勢の講演を入れました。わが国では伝統的に「医学モデル」として障害を捉えており、既存の法制度もそれを中心として組み立てられています。しかし世界的には「社会モデル」へのシフトが着実に進んでいます。その海外の風を入れることが前段の大きな目的でした。
 後段は日本からの出演者によるパネルディスカッション。ここでは障害者差別禁止法への理解の裾野を広げることに力点をおき、以下の3本の柱を立てました。
1:今、「平等」について考える
  ~「何もしないことが平等」という誤解~
2:今、「障害者基本法」を問いなおす
3:そして、どういう社会をめざしていくのか

1:今、「平等」について考える
  ~「何もしないことが平等」という誤解~

 レストランが「今日から人種差別をやめます」と言えば、今まで差別を受けていた人種の人たちも入れるようになります。しかし「今日から車いすを使う人もどうぞ」と言われても、入り口に階段があったりトイレが整備されていなかったりしたら、実質的な利用はできません。このように、障害をもとにした差別を実質的になくすためには、なくす方策を積極的に行う必要があります。差別とは意図的に排除したりすることだけではなく、だれも悪人はいないのに、それでも社会参加できないという深刻な状況があるのです。

2:今、「障害者基本法」を問いなおす

 障害者差別禁止法の話になると必ず、現行の障害者基本法ではなぜ駄目なのかという質問が出ます。2では障害者基本法について、それが国と自治体の役割分担を調整する法律であり、障害のある人を権利の主体としては捉えていないため、改正ではとても乗り越えられない根本的な価値観の違いがあることが明らかにされました。これについてドイツのテレジア・デグナー教授は、差別禁止法と基本法は対立したものではなく、役割分担しながら両方とも必要であると述べています。

3:そして、どういう社会をめざしていくのか

 ここでは、差別禁止法によってどのような社会をめざそうとするのかが語られましたが、単に世界での流れを追うという意味ではなく、冷静に差別禁止法の可能性と限界を明らかにしていく必要を強く感じました。アメリカからのメアリー・ルー・ブレスリンさんは、障害者差別禁止法で問題が解決すると考えてはいけない。それはスタートであって、それぞれの分野で実質的に差別をなくす法制度が整って、初めて実効性のあるものになると述べています。
 フォーラムは好評の内に終わりました。札幌のDPI世界大会も大成功でした。これからそこで語られた精神を具体化する作業を始めなければならないと思います。

(かわうちよしひこ LADD:リーガル・アドボカシー―障害を持つ人の権利―代表)