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第14回世界ろう連盟(WFD)
アジア太平洋地域事務局代表者会議

大杉豊

 世界ろう連盟には各地域ごとに事務局があるが、アジア太平洋地域事務局はその設立以来、全日本ろうあ連盟が続けて事務局を担当している。アジア太平洋地域で世界ろう連盟に加盟しているろう者の組織は19か国とまだ少ない。貧困を主な理由として、ろう児への教育が十分ではないとか、ろう者への福祉施策がとられていないとか、アジア太平洋地域全体のろう者を取り巻く環境はまだまだ厳しい。日本で私たちは手話の社会的な認知と手話通訳の制度化をめざして運動を続けているが、アジア太平洋地域のある国では、ろう児の就学率が10%を切るところも珍しくはないのである。
 2002年は「アジア太平洋障害者の十年」最終年にあたり、大阪でRNNキャンペーン会議が開催されるため、この会議と連動して事務局代表者会議を開催したいというアジア太平洋地域事務局からの要請があった。そこで、第14回世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局代表者会議の開催を全日本ろうあ連盟が引き受け、10月17日から19日までの日程で実施した。国際障害者の十年を記念して建てられたばかりの国際障害者交流センター「ビッグ・アイ」(大阪府堺市)を会場としたが、当センターには国際手話奉仕員養成講座の企画、職員の聴覚障害者についての研修などと、協力をいただいた。また、郵政互助会、JICA、ダスキン愛の輪運動基金などからも協力をいただいた。
 会議開催のための準備を全日本ろうあ連盟事務局で担当したが、職員それぞれが会議の位置付けと目的を自覚し、職員同士の確認を徹底する作業を進めていったことは、大変よい経験となった。会議を無事に成功させた安堵感とともに、職員全員がアジア太平洋地域のろう運動を裏から支えていく責任感を改めて感じとったことと思う。
 さて、会議そのものは19か国中16か国から代表が出席し、未加盟の5か国もオブザーバーが出席するなど、21か国51人の参加と盛り上がった。以下、日本代表の一人として参加した筆者の感想になるが、各国のろうあ者を取り巻く状況についての報告、情報交換を通して、アジア太平洋全体の状況を皆で確認できたことはこの会議の成果であったように思う。ベトナム、カンボジア、フィジー、ミャンマーからの参加者が国レベルのろう者組織を作りたいと力強く述べたその姿が強烈な印象に残っている。これらの国での組織化に協力できるよう、アジア太平洋地域事務局がさらに力を発揮できることを願っている。
 手話は各国で違う。そのため、会議では皆がお互いに理解できるよう、わかりやすい手話を使ったが、このスタイルの手話を「国際手話」と呼んでいる。最近は日本手話を理解するリーダーがアジア太平洋地域に増えてきたために、日本手話も頻繁に使われてきたので、全日本ろうあ連盟が世界ろう連盟から招待した来賓も国際手話に日本手話を交えて、わかりやすい講義とアドバイスをしてくださった。
 世界ろう連盟カウピネン理事長は、国連の障害者人権条約制定に向けての動きを国際障害同盟の活動も併せて説明してくださった。アクィリン事務局長は世界ろう連盟の多彩な活動の解説を担当してくださった。二人の共同によるワークショップでは、それぞれの国で政府を通して国際機関に要望を伝えていく方法を演習の形で指導してくださった。アンダーソン前理事長は、WHOの国際生活機能分類(ICF)の新しい枠組みとろう者個別の問題との関わりを講義してくださった。英語文献しかリソースのなかったアジア太平洋地域のろう者にとって、国際手話とパワーポイントでの講義は大変貴重な経験となったであろう。
 ろう者をめぐる問題はまだ多い。手話の社会的な認知と手話通訳の制度化に向けて運動を続けること、情報交換をさらに密なものとするなどの活動方針を確認し、最終年記念フォーラム大阪宣言案とアジア太平洋障害者フォーラム設立案についての議論をも深めたこの代表者会議の運営を、全日本ろうあ連盟事務局が支えられたことを改めて誇りに思う。

(おおすぎゆたか 全日本ろうあ連盟本部事務所長)