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アジア太平洋ブラインド・サミット会議
―人権に根ざした障害者運動の展開を!―

山口和彦

 去る10月19日、20日の両日にわたりアジア太平洋ブラインド・サミット会議が、「新たな十年に向けた視覚障害者の挑戦」をメイン・テーマに、日本盲人福祉委員会と世界盲人連合アジア太平洋地域協議会(WBU―AP)の共催により大阪市で開催された。
 19日は、アジア太平洋地域13か国の代表者により各国レポートと情報交換が行われた。
 20日は、クア・チェン・ホックWBU―AP代表とキキ・ノードストロームWBU会長を招き、国内外から200人を超える参加者を得て盛大に開催された。まず、アジア太平洋地域で視覚障害者の福祉増進に貢献した人を顕彰するために設けられた岩橋武夫賞が、日本ライトハウス会長の岩橋明子氏によってマレーシアのアイバン・ホ・タック・チョイWBU―AP事務局長に贈呈された。
 基調講演で国連特別報告者のベンクト・リンドクビスト氏が、「障害者権利条約をめぐる国連の動き」と題して講演した。午後には、「障害者の人権擁護」と「教育、就労、人材育成」についての分科会が開かれ、活発な論議が交わされた。
 アジア太平洋地域内ではいまだに多くの視覚障害者が、十分な医療、教育、福祉サービスを受けられずに放置されていると報告された。しかも世界的な経済不況の影響もあり、職業訓練や就業機会にも恵まれない厳しい側面も浮き彫りにされた。それに加えて、貧困や社会的因習、宗教、性的差別など個人の尊厳を汚す要因が社会に深く根ざしていると指摘された。
 こうした状況のなかで、ブラインド・サミット会議では、決議のなかで障害者の尊厳を確保し、その人権を保障することをアジア太平洋地域各国政府に要請した。具体的には障害者差別禁止法の制定を要請し、その実現のために、権利擁護、あるいは人権救済のための適正な機関を各国に設置することが求められた。また、国連において差別禁止条約制定に向けて協力し合うことが必要であると確認された。

平等に教育を受ける権利の保障

 教育においては、各国の実情に合わせて、盲学校の設置や統合教育システムの確立など、学校教育にかかる施設・設備を整備することが強調され、専門的知識と経験を持つ教員の養成を図るとともに、政府が必要な教育現場へそうした教師を派遣できるようなシステム作りを構築することが求められた。視覚障害児の就学を促進するためには、性別、年齢、居住地、財産などに関係なく、平等に教育を受けられるように施設や設備、プログラムなどの整備が肝要であると指摘された。

働く権利の確立と就労の拡大

 視覚障害を理由とする雇用、就業上の差別があってはならないし、逆に視覚障害の特性、個人の能力に合わせた職業訓練および職業リハビリテーションなどのサービスの充実を図ることが求められた。視覚障害者の就業機会の拡大のために、政府機関や民間企業への雇用を促進するとともに、福祉工場の設置やワークショップの増設などが重要な課題とされた。
 一方、アジア太平洋地域において視覚障害者の主要な職業となっているあんま・マッサージ・指圧などの手技療法については、技術習得、ならびに研修の必要性が求められた。日本の国際協力事業団(JICA)が来年から実施が予定されているあんま・マッサージ・指圧などの研修プログラムに強い期待が寄せられた。

社会参加の促進と情報アクセス権

 視覚障害者の自立と社会参加を促進するために、各国政府に対し、すべての視覚障害者が文化的な生活を送る権利を有していることを決議文において明確にした。視覚障害者が自力で読み書きできる文字としての点字の重要性を認識し、各言語に対応したブライユ式点字を開発・普及させ、学校教育において教科書をはじめとする点字図書を作成し、貸出そのたの方法を通じてその普及に努めることは、視覚障害児が平等に教育を受けるためにも必須なことであるとされた。
 音声媒体としての録音図書については、これまでに蓄積したアナログ録音資料の十分な活用と、国際標準となりつつあるDAISY版による図書資料の充実が求められた。
 コンピュータとインターネットを活用した情報化社会において、すべての視覚障害者がこれらにアクセスできるように、ソフト・ハード両面から施策を実施するとともに、その利用技術の普及に努めることが各国政府に要請され、特に、情報アクセス権については、各国規定に合わせて、それぞれの国の著作権法を早急に改正することが求められたことは注目される。
 今後、新たなアジア太平洋障害者の十年を通して、アジア太平洋地域各国の視覚障害者関係団体が、相互の連帯と協力を通じて、生活全般の向上を図ることが必要であると痛感した。

(やまぐちかずひこ 世界盲人連合(WBU)執行委員)