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支援者と一緒につくる地域生活

黒田隆之

 私がこれからの十年で研究をすすめていきたいと考えているテーマは、「コミュニケーションが困難な障害のある人とその生活支援者が一緒になってつくりあげる地域生活」についてです。
 私は、学生の頃から、自立生活理念に興味を持ち続けています。身体障害者を中心とした運動からスタートした自立生活理念は、「自分の意思を明確に持っていて、それを他者に伝えることができる人にはよいけれども、知的な障害のために自己決定を行いにくいか、もしくはそれを表明しにくい人はどうしたらいいのか」という課題を投げかけられます。その課題に対する私の立場は、「身体障害者が介助サービスを受けながらも自分の意思で決定して生活することを自立ととらえるように、知的な障害のある人の場合も人の支援を受けながら理解、判断し、自分の意思に基づいて生活していくことは可能である」というものです。
 私が関わりを持っている施設に、西宮市社会福祉協議会が運営する青葉園があります。そこでは実際に、重複障害のためにコミュニケーションが困難な障害のある人が、いわゆる「自立生活」のスタイルで生活しています。生活支援者は、毎日の日中活動や家族、地域社会との関わりとそれらの長年の積み重ねから、本人の主体性を引き出し、理解し、そして生活支援に結びつけていきます。このような話を聞くと、本当にそんなことができるのだろうかという疑問を持ってしまうのですが、実際にしばらくその状況を見てみると、そうするしかなかったのでそうなったというのではなく、本人を中心とした意思に基づいて生活が動いているということがわかります。ただ、この支援活動も、まだまだ試行錯誤の段階ではあります。
 私がはじめにあげたテーマをもとに明らかにしていきたいと考えているのは、このような支援活動のプロセスです。私の専門は社会福祉学ですが、研究の役割は、単に眺めているだけでは見逃してしまうようなことをじっくりと調査、観察、分析し、そして実践活動の内容を多くの人が理解できるように概念化していくことであると考えています。
 これからの十年は障害のある人の地域生活が当たり前に語られる時代になると考えられます。しかし、理念とは別に、重度障害者の主体性をどのようにとらえ理解していけばよいのかという具体的な課題は目の前にあります。障害のある人と支援者との関係性や、支援者の専門性などの観点からの研究をすすめていくことが、障害のある人の主体的な地域生活の創造の一助となることができればと思っています。

(くろだたかゆき 神戸親和女子大学文学部人間科学科講師)