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大阪
80周年を迎えた日本ライトハウス

木塚泰弘

■障害者福祉への道

 創業者岩橋武夫は、1922年秋、自宅に点字文明協会の看板を掲げ、エスペラント辞典の亜鉛板製版印刷を開始しました。岩橋武夫は、早稲田大学専門部のとき失明し、盲学校・関西学院大学を経て英国のエディンバラ大学で修士課程を終えて帰国し、関西学院大学の英文学部・専門部講師として学究の人となりました。
 一方、英国でフレンド派(クエーカー教徒)となり、1929年、フレンド点訳奉仕会を結成し、点字図書の貸し出しも開始しました。1934年、米国のフレンド教徒の招きで4か月の講演旅行を行い、その基金などを元に、1935年、世界で13番目のライトハウスを設立し、視覚障害福祉に本格的に取り組みました。

■ヘレン・ケラーと岩橋武夫のコンビ

 1934年訪米の際、ヘレン・ケラーと出会い、来日を要請しましたが、恩師サリバン女史の看病のため、1937年にやっと実現されました。ルーズベルト大統領の信書を携えたヘレン・ケラーと岩橋武夫のコンビは、朝日新聞の後援の下に全国各地で講演し、障害者への理解と多くの感動を呼び起こしました。ヘレン・ケラーの要請で文部大臣は、盲・聾学校の義務制を約束しましたが、折から始まった日中戦争から太平洋戦争への時局の中で、実現したのは戦後の1946年でした。
 1948年に、ヘレン・ケラーの二度目の来日が実現し、毎日新聞社後援の「青い鳥キャンペーン」として、2人のコンビが被爆地広島をはじめ、敗戦にひしがれていた日本人に多くの感銘を与えました。また、身体障害者福祉法の成立と盲・聾学校義務制の普及に貢献し、現在の障害者福祉と特殊教育の発展の基盤を作りました。

■国際交流への道

 岩橋武夫は1948年に、日本盲人会連合を設立し、1953年に日本盲人社会福祉施設協議会を設立し、ともに初代会長を務めて、その後の視覚障害者運動と福祉の基盤を作りあげました。
 ヘレン・ケラーは岩橋武夫に「私は中南米とアフリカを引き受けるから、武夫にはアジアを頼む」との約束をもとに、第1回アジア盲人福祉会議の実現のため、病をおして奔走しました。当時の厚生省の松本更生課長から1955年10月実施のめどがついたと電話をもらった直後の1954年10月28日、56歳で急逝しました。ヘレン・ケラーは1955年6月に予定を変更して、岩橋武夫の弔問来日を行い、10月には第1回アジア盲人福祉会議が成功裏に行われました。
 武夫の遺志を継いだ岩橋英行はその後、世界盲人福祉協議会の副会長、アジア地域委員長を引き受け、明子夫人とともにアジアを中心とする盲人の国際交流の推進に努めました。その後、当事者団体と合併して世界盲人連合(WBU)となりましたが、岩橋明子は2000年11月のメルボルン総会でWBUの終身名誉会員に推挙されました。
 今でこそ、アジアとの国際交流はいろいろの団体や施設が取り組んでいますが、どこも取り組んでいなかった時代に先鞭をつけたのは日本ライトハウスの卓見といえましょう。

■創業80周年記念誌の発刊

 2002年は、日本ライトハウスの前身・点字文明協会が創業してから80年目にあたります。そこで、3年前から分散していた資料の収集と整理に着手しました。その作業を行っている中で、これらの貴重な資料や足跡は単に一法人の記念誌としてまとめ、関係者に謹呈するだけではもったいない、と思うようになりました。
 そこで、日本ライトハウス21世紀研究会という名の編集委員会を設け、目次の検討に着手しました。
第1部「ヘレン・ケラーと岩橋武夫のコンビによるわが国障害者福祉・教育への影響と国際交流」
第1章・わが国の障害者福祉と岩橋武夫の先駆的活動
第2章・平和と福祉の使者ヘレン・ケラーの招聘と共歩・連携
第3章・戦中・戦後の愛盲運動とライトハウス
第4章・ヘレン・ケラー二度目の訪日と身体障害者福祉法制定や障害児教育への影響
第5章・盲人福祉の国際連携と岩橋武夫
第6章・視覚障害者の国際交流の発展
第2部「視覚障害者の生活・職業・福祉及び教育・情報・文化の変遷と今後の課題」
第1章・社会・職業リハビリテーションの発展
第2章・視覚障害者のための情報提供サービスの発展
第3章・視覚障害教育の発展
第4章・障害者や高齢者に対する社会の意識の変化とノーマライゼーションの確立
 幸い的確な編集委員長と、その分野で最も識見豊かな専門家に執筆していただけることとなりました。そこで、これらの客観的歴史の中で、その折々に日本ライトハウスが果たした役割をも含めて明確に位置付けてもらうことができました。2002年10月、『わが国の障害者福祉とヘレン・ケラー ―自立と社会参加を目指した歩みと展望―』日本ライトハウス21世紀研究会編、教育出版(税抜き3,000円)から発行されました。

■その他の80周年記念事業

 財政が逼迫し、不景気の最中でもあるので、儀式的な行事は行わないことにし、次の事業を一連の記念事業として開催しました。

  1. 6月9日 第20回チャリティコンサート(ザ・シンフォニーホール)
  2. 8月30日 日本・韓国・ベトナム視覚障害者サッカー交流会(岐阜・高山)
  3. 10月4日 80周年記念コンサート(いずみホール)
  4. 10月19・20日 日本盲人福祉委員会、WBUアジア太平洋地域委員会共催のアジア太平洋地域ブラインドサミットを点字毎日新聞とともに後援(大阪国際会議場)
  5. 12月7日 80周年記念の集い(理事・評議員・全職員等)

■今後の課題

 「自立と社会参加のためのパートナーシップ」の理念を全職員が共有し、当事者である利用者の尊厳ある個人のその人らしい自立と、可能な限り積極的な社会参加を共通の目標に、パートナーとして共歩する福祉サービスを行い、ノーマライゼーション確立の拠点の一つとして、ネットワークの輪を広げていきたいと思っております。

(きづかやすひろ 社会福祉法人日本ライトハウス理事長)
【社会福祉法人日本ライトハウス】
電話 06―6961―5521
FAX06―6968―2059
URL:http://www.lighthouse.or.jp