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ハイテクばんざい!

開発リポート「しゃべる触地図」

小林和正

◆はじめに

 「地図がしゃべる」と言うと、どんなイメージをお持ちになりますか?
 カーナビのようなGPSを使ったハイテク、最先端のイメージでしょうか? パソコンで操作するデジタル地図のイメージでしょうか? 残念ながら、視覚障害者の方がこれらのハイテクで地図を利用する、というところまでは至っていないのが現状です。
 しかし今、紙に印刷された触地図と電子技術を組み合わせた、個人向けの「しゃべる触地図」が開発されつつあります。ハイテクでありながら、視覚障害者の方や高齢者の方にも無理なく利用できる簡単なインターフェースになっています。
 開発元は、株式会社地理情報開発という地図製作の専門会社です。

写真1
写真1 音声を登録中です。左手で録音ボタン、右手で音声登録する位置をタッチしています

◆装置の概要

 装置は、触地図をセットするボード状の部分と、菓子箱のような装置部分でできています。ボードの部分のタッチセンサーで地図上の座標を認識し、菓子箱の部分で座標に対応した音声を登録・再生する仕組みです。パソコンを接続する必要はありません。装置に電源を入れ、地図をセットするだけです。
 駅などにある大がかりな装置ではなく、個人が家庭などで外出前に利用する、あるいは学校での地図学習などを想定した小型装置です。
 しかも、地図上の好きな位置で、音声をメモとして自由に登録できる機能も持っています。また、地図を差し替えれば、対応する音声に自動的に切り替わります。

写真2
写真2 装置説明

◆地図と音声

 地図は、晴眼者用の一般の紙地図上に、透明の点字や凸記号を付加して制作されています。ベースとする地図は、専門技術を生かして制作された本格的なもので、文字や色遣いは、高齢者や弱視の方にも見やすくなっています。
 一方、点字と凸記号は、背景の地図上の位置に合わせて、建物や道路や信号などを表現していますので、位置関係や距離感、方向などが正確につかめます。
 上の写真で白いまんじゅうが並んだように見えるのが、実は透明な凸記号や点字で、道路や公園を表しています。
 道路上の大きいまんじゅうは、点から点まで20mを表しています。五つ数えれば100mであることが分かります。地図上の点字や凸記号を指先で軽く押し込むと、そこに登録された音声が再生されます。
 たとえば、鉄道路線図では、駅の記号のところを押し込むと、駅の名前はもちろん、何線に接続しているかなどをしゃべります。路線の記号をたどりながら、「あれ、これは何線だっけ?」というときには、その位置で指先を押し込むと、「大江戸線です」などとしゃべってくれます。
 道路であれば、「何々通りです」とか、「音声付きの信号があります」とか、バス停名やバスの行き先、「付近にはコンビニがあります」などとしゃべってくれます。
 駅の構内図では、改札口の位置はもちろん、駅員のいる位置、トイレの位置などを案内しています。とくにトイレには、「右が男性用、左が女性用、中央が多目的トイレです」という案内も入っています。
 これらの情報は、晴眼者用の紙地図でもよほどの拡大図でない限り表現しきれないものです。このように音声によって、印刷された以上の情報を得ることができるわけですから、晴眼者にとっても大変役立ちます。
 メモリーの容量にもよりますが、駅やバス停の案内に、時刻表のデータを入れてしまう、などということも可能です。あるいは、この装置を駅やバス停の時刻表に組み込んだり、デパートなどのフロア案内板に組み込めば、細かい文字が見えにくくなった高齢者や弱視の方のためにも役立ちます。

写真3
写真3 点字と凸記号(新宿区戸山町付近図の部分拡大)

◆音声案内の例
♪トイレがあります。右は男性用、左は女性用、中央に、多目的トイレがあります。
♪信号「馬場口」です。音声付き信号です。
♪バス停です。「早大正門行き」バス停です。
♪この道路は中之島通りです。
♪神保町駅です。新宿線、三田線、半蔵門線に接続しています。
♪13、14番線への階段があります。上り方向右側には階段昇降機があります。
♪触地図があります。京王線駅構内の触地図です。

写真4
写真4 大阪会場周辺図。2002年10月のブラインドサミット用に作成したものです

写真5
写真5 高田馬場駅周辺図。地図には点字ブロックの敷設状況も入っています

写真6
写真6 東京地下鉄路線図。墨字では地下鉄の全路線を表現していますが、触図としてはJRと都営地下鉄の計5路線を表現しています

写真7
写真7 新宿駅西口・東口案内図。情報量が多いため、点字は最小限にとどめ、ピンポイントの凸を多用して音声案内を中心にしています

◆音声の登録

 音声登録は、図面上のどの位置でも自由にできます。スイッチを録音モードに切り替え、録音ボタンを押しながら、登録したい位置で指先を押し込んでしゃべるだけです(写真1)。
 どの位置に登録したか、あとで分からなくならないように、凸状のシールなどを貼っておきます。音声登録をしない場合でも、自宅の位置や自分の覚えておきたいポイントにシールを貼っておけばよいでしょう。

◆ユニバーサルデザインの地図

 このように作成された地図は、晴眼者と視覚障害の方が一緒にのぞき込んで使えますから、まさにユニバーサルデザインの地図と言えます。
 今のところ、装置は持ち運べる大きさではありませんが、家庭や学校の机の上で使うには不便のない大きさです。外出時には、紙の触地図だけを持ち出せば、いざというときに周辺の方にヘルプを受けることができます。
 カーナビのように現在地を知らせたり道案内ができるわけではありません。
 しかし、現在のGPS技術では、実際に街なかで視覚障害の方が知りたい、何m先の角とか、どこのお店の前、など非常に細かい道案内ができるほどの精度はありません。
 「やはり、人によるヘルプに勝るものはありませんし、今回の触地図が、そうした人によるヘルプを引き出しやすいものになってほしい」と開発者は思っています。

◆既存の図面も活用できる、授業に楽しさが生まれる

 この装置で使う地図は、必ずしも専用の地図に限られるわけではありません。
 学校などで、これまで先生方が教材として手作りされていた、立体コピーによる地図があれば、それをそのまま利用して音声登録してしまうことも可能ですし、生徒自身で録音すれば、地理の授業の楽しさが倍増するかもしれません。
 あるいは、「しゃべる触地図」の印刷技術を利用すれば、自治体等が作成して住民に配布している地図に、点字や凸記号を付加して触地図化してしまう、ということも可能です。
 さらに、この凸の印刷は、紙に限らず、プラスチックやガラスのようなものにも印刷できますから、屋外での利用も十分可能です。

◆地図ばかりでなく…

 さらに地図ばかりでなく、理療科で使う人体図にツボを表現して、音声を登録することもできますし、点字をこれから覚えようという生徒のためには、点字教材そのものを音声化してしまえば、立派な自習教材となります。
 このように、「しゃべる触地図」は、現在さまざまな活用法を、各方面の専門の方々にご相談しながら、開発が進められています。
 読者の皆様も、「こんなふうに使いたい」とか、「こんなところにあったら便利」などのアイデアがありましたら、どんどん開発元にご連絡ください。

(こばやしかずまさ 株式会社地理情報開発)


※「しゃべる触地図(Talking Tactile Map)」は、「視覚障害者用地図認識音声装置」として特許出願されています。(特願 2001-377898)

【「しゃべる触地図」のお問い合わせ先】

●株式会社地理情報開発 担当:小林
 〒102―0076 東京都千代田区5番町12―6―6B
 電話 03―3556―9908 
 FAX 03―3556―9909
 E-mail:info@chiri.com
 URL:http://www.chiri.com
●有限会社トウハン企画 担当:城田
 〒228―0021 神奈川県座間市緑ヶ丘4―19―3
 電話 046―252―2341
 FAX 046―252―2344
 E-mail:touhan-k@a3.ctktv.ne.jp
 URL:http://www3.ctktv.ne.jp/~touhan-k