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フォーラム2003

有効値から大きくかけ離れている
社会福祉施設・法定事業実施事業所
―すべての市区町村対象に実態調査―

藤井克徳

 きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)は、障害がある人びとのための社会資源の設置状況について、市区町村を対象に悉皆(しっかい)調査を実施した。調査時点は2002年3月31日で、政令指定都市を含む3246すべての市区町村より回答を得て昨年12月その概要を発表した。新基本計画・新プランならびに支援費制度の施行直前ということもあって、報道機関などから高い注目を集めた。以下、概要の一部(政令指定都市データを除く)を紹介する。

■地域生活を支える通所型施設・事業所のゼロ市区町村14.5%

 成人期障害者を対象とした法定の社会福祉施設制度・事業は40種類以上に及ぶが、これらのうち地域生活を支えるための基幹となる社会資源は次のとおりである。
 まず施設についてであるが、これは通所型施設と言われるもので、1.身体障害者通所型施設(3種類の授産施設)、2.知的障害者通所型施設(3種類の授産施設、通所更生施設)、3.精神障害者通所型施設(3種類の授産施設)が設けられている。
 事業は居宅生活支援事業と言われるもので、1.身体障害者を対象とする居宅介護等事業(以下、ホームヘルプ事業)、デイサービス事業、短期入所事業(以下、ショートステイ事業)、2.知的障害者を対象とするホームヘルプ事業、デイサービス事業、ショートステイ事業、地域生活援助事業(以下、グループホーム事業)、3.精神障害者を対象とするグループホーム事業(ホームヘルプ事業、ショートステイ事業については、2002年度から実施されたばかりで、本調査から省いている)である。合わせると、10種類の通所型施設と8種類の居宅生活支援事業ということになる。これら10種類の施設と8種類の事業を実施している事業所が設置されている自治体数を見ていくと、すべてを設置しているところが31市(1%)、逆に全く設置されていないところが469(14.5%)となっている(グラフ1参照)。

グラフ1
画像 グラフ1

■通所型施設のゼロ市区町村73%

 10種類の通所型施設に限って見ていくと、これが1か所でも設置されている市区町村は872(27.0%)である。市区町村別の設置状況では、市478(72.4%)、区21(91.3%)、町339(17.1%)、村34(6.0%)となっている(グラフ2参照)。社会資源の設置状況の全体に言えることであるが、市区と町村とではかなりの開きがある。

グラフ2
画像 グラフ2

■グループホームのゼロ市区町村73%

 地域生活支援策の切り札とされているグループホームについて、知的障害者対象もしくは精神障害者対象のいずれであってもこれが1か所でも設置されている市区町村は869(26.9%)である(グラフ3参照)。これを市区町村別に見ていくと、市424(64.2%)、区20(87.0%)、町390(19.6%)、村35(6.2%)となっている。なお、通所型施設とグループホームについて、どのような組み合わせであれこれを1か所以上併せ持っている市区町村は、504(15.6%)である。市区町村別では、市341(51.7%)、区19(82.6%)、町141(7.1%)、村3(0.5%)となっている。

グラフ3
画像 グラフ3

■精神障害者社会復帰施設が一つもない市区町村89%

 身体障害や知的障害と比べて大きな遅れをとった精神障害者を対象とした社会福祉施設制度(精神保健福祉法では社会復帰施設と称されている)であるが、その種類は1.生活訓練施設(援護寮)、2.福祉ホーム、3.通所授産施設、4.小規模通所授産施設、5.入所授産施設、6.福祉向上、7.地域生活支援センターから成っている。これらが1か所でも設置されている市区町村は、11.3%にとどまり、他の障害と比べて極端に低い設置率にある(グラフ4参照)。都道府県別に見ていくと、最も高い設置率は東京都の55%で、逆に5%を割っているのは佐賀県、高知県、宮城県となっている。

グラフ4
画像 グラフ4

■法定の施設・居宅生活支援事業実施事業所、都市部で優位

 全体的な傾向として、法定の施設ならびに事業所の設置率が市もしくは区部で優位になっているが、改めて人口規模別でこれをとらえてみたい。たとえば、通所型施設(10種類)で見ていくと、これが1か所でも設置されている市区町村は、人口10万人以上(234)で221(94.4%)、5万人以上10万人未満(227)で152(67.0%)、5万人未満(2,773)で499(18.0%)となっている(グラフ5参照)。

グラフ5
画像 グラフ5

 これについては、グループホームについてもほぼ同じ傾向にあり、同じく1か所でも設置されている市区町村は、人口10万人以上(234)で193(82.5%)、5万人以上10万人未満(227)で145(63.9%)、5万人未満(2,773)で531(19.1%)となっている(グラフ6参照)。

グラフ6
画像 グラフ6

■自治体財政力と相関する法定の施設・事業実施事業所の設置状況

 地域生活を支えるための主要な施設ならびにこれらの事業を実施している事業所の設置率を市区町村の財政力指数との関係で見ていくと次のようになる。
 まず、財政力指数トップ100(財政状態が比較的良好な自治体)の市区町村での設置率については、通所型施設51%、グループホーム50%、地域生活支援センター34%の割合で整備されている。一方、財政力指数ワースト100の市区町村では、それぞれ2%、3%、0%と著しく低下している(グラフ7参照)。人口規模の大小によっても障害関連の社会資源の設置率が相関していたが、財政力の影響はそれ以上であることがうかがえる。

グラフ7
画像 グラフ7

■むすび

 障害がある人びとのための社会資源の設置状況について、全種類にわたってかつ市区町村を対象としたこのような悉皆調査はおそらく初めてのことであろう。政策立案の前提となる正確で定期的な実態把握が国において成されていないこと自体、重大な問題なのである。
 さて調査結果についてであるが、ある程度は予想できていたとはいえこれほどまでに劣悪な状況にあるということについては、大きな驚きであり、嘆かわしく思う。「(入所)施設から地域生活へ」「支援費制度導入によって選べる福祉を」を政策スローガンとしてきたこの間のわが国における障害者政策であるが、現実はこうした政策方向とはおおよそかけ離れているのである。地域生活を成り立たせるための基幹的な施策となるのが法定の通所型施設制度であり、居宅生活支援のための事業(ホームヘルプ事業、デイサービス事業、ショートステイ事業、グループホーム事業)であるが、これらの量的な貧寒ぶりが改めて裏付けられたことになる。

(ふじいかつのり きょうされん常務理事)