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みんなのスポーツ

障害者乗馬への扉を開いて

小笠原かおり

1 「一度は」の夢

 「馬に乗ってみませんか?」と私がもしあなたにお誘いしたとしたら、あなたはどんなお返事をくださるでしょうか?「そんな高尚なスポーツなんて私、タイプじゃないわ」「背の高い馬に乗るだなんて、危ないじゃない」「なんだか恐いから、ちょっと…」なんて否定的な答えが返ってきそうです。でも、次の言葉はおそらく「一度は乗ってみたかったんだ…」。
 その言葉はきっと、乗馬への扉を開くきっかけになるはずです。

2 競技の内容

 障害者乗馬の競技では、大きく分けて二つの競技があります。フィギアスケートと同じように、規定の経路を演じる「規定課目競技」と、音楽に合わせて経路を自ら組む「フリースタイル」と呼ばれるものです。どちらの競技も、馬と一体になって、正確さを競います。健常者の場合、騎乗姿勢を採点に取り入れますが、障害者乗馬では騎乗姿勢は採点の対象にはあたりません。
 はじめから無理に競技をめざす必要はありません。実際のところ、健康や情緒療育のために騎乗していた方々が、技術の上達に伴って、徐々に競技会に参加される場合が多いと言えるでしょう。競技も遊びの部分が濃い、簡単な内容の競技から経験できるのが特徴です。このように乗馬は、乗り手に合わせていくらでも難易度を変えられるスポーツなのです。
 しかも、乗ることだけが乗馬をすることの楽しみではありません。大切なパートナーである馬に語りかけ世話をすることは、また違った楽しみのひとつです。実際、騎乗はできなくても、馬の世話は大好きという方もたくさんいらっしゃいます。

3 実際に乗るには

 乗馬施設側では騎乗者の障害の種類や程度、身長や体重によって、さまざまな安全対策や騎乗内容を考慮する必要があります。ですから、本当は希望する乗馬施設に直接出向き、担当者とよく相談するのが理想です。「乗馬」する以上「落馬」の可能性は絶対にあるわけですから、わたしたち、乗馬施設側が徹底的にこだわるのが安全面です。直接お会いすることによって、安全に騎乗していただくには何人の補助が必要か、どの馬が適当か、どんな補助具が必要かがはっきりとわかるのです。しかし、騎乗者が受ける揺れや振動が、障害の種類によっては危険な場合もあります。念のために、騎乗する前には主治医に相談されるのも必要であると思います。
 障害の種類や程度によって、騎乗するスタイルはさまざまです。たとえば股関節に障害があり、開脚してまたがるのが難しい場合は、馬の背中に腹ばいになって騎乗します。この腹ばいでの騎乗スタイルは、座位を保つことが難しい騎乗者や、緊張のある騎乗者にとって無理なく乗馬を楽しむことのできる方法です。また、マヒや切断といった障害の場合、騎乗者が快適に騎乗できるように工夫された特殊な馬具を利用することもあります。
 騎乗をする場所も、用途によって使い分けることができます。開放感に満ちた屋外で騎乗することで、風や太陽を感じながら楽しむことができますし、反対に視覚障害をもった騎乗者にとっては、屋内の馬場は大変都合がよいものです。なぜなら反響する馬の足音を聞いて、自らの位置を確認することができるからです。日本を含め世界には複数の全盲の騎乗者が見事に馬を操って競技に臨まれています。
 騎乗する馬のタイプも安全面や障害の程度によって選択する必要があります。馬は基本的には大変おとなしい動物ですが、その反面、臆病であるということが言えます。騎乗技術が未熟であったり、経験が浅い時期は、落ち着いた性格の馬がよいでしょう。
 性格のほかにも、馬の固体による体格も重要なポイントです。股関節の稼働域が狭い騎乗者にとっては、背幅の広い馬よりも狭い馬にまたがるほうが負担が少ないと言えます。また、座位を保つことが難しい騎乗者には、騎乗者の両サイドを人が支えて一緒に歩く場合があります。その際に、背の高い馬を選ぶと、介助がしづらく、危険を伴いますので、背の低い馬を選択します。
 馬には脚の長さや骨格によって、乗り手が受ける振動に違いがあります。上・下肢に障害がある場合、馬体をしっかりとはさむことができませんので、振動の高い馬よりも低い馬の方が騎乗には適していると言えるでしょう。
 馬もある程度の訓練は必要です。障害をもった騎乗者の場合、乗り下りに時間がかかる場合が多いのですが、馬がモゾモゾ動くようでは困ります。辛抱強く待つことや、不用意に体に当たる装具に耐えること、ゲーム類で使用する道具に驚かないように慣れることなどを覚えて初めて、信頼のおけるあなたのパートナーとなりえます。経験豊富な馬は、経験の浅い騎乗者にとっては、良い先生でもあるのです。

4 競技会に参加してみよう

 前にも述べましたが、乗馬は騎乗者の技術に応じて、いくらでも難易度を変えられるスポーツです。
 日本障害者乗馬協会では、年に一度全国大会を開催しております。細かく分けられたクラスで、たくさんの騎乗者に参加していただけるように工夫しています。また今年は、初めてのアジア大会ということで、海外からの選手も参加する予定です。アテネパラリンピック、そして今年ベルギーで開催される世界大会を前に、乗馬もこれからが熱くなってきそうです。まだまだ競技人口の少ないスポーツですが、それだけに今後の成長が楽しみなスポーツと言えるのではないでしょうか。

5 最後に

 日本では、障害をもった騎乗者を受け入れている乗馬施設はまだまだ少ないのが現状です。日本障害者乗馬協会では、1県に一つの割合で支部を作ることができればと努力しておりますが、まだまだ目標には達しておりません。一般的な受け入れ先としては、乗馬クラブ・観光牧場といったところです。受け入れ側でも、障害者乗馬に関する情報が少ないために、受け入れを躊躇(ちゅうちょ)しているということが言えるでしょう。しかし、需要があるところには供給はあるはずです。大切なことは需要があるということを、しっかりアピールしていくことであると考えています。これは日本障害者乗馬協会の力だけではとても弱いものでしかありません。この文章を読んでくださっているあなたが「私も乗ってみたい」とおっしゃってくださる必要があるのです。そして近隣の乗馬施設に問い合わせをしていただきたいと思います。その時は「受け入れは行っていません」という返事が返ってくるかもしれません。それでもアピールすることはできます。その電話をきっかけに、その乗馬施設は検討をはじめるかもしれません。
 障害の有無にかかわらず、たくさんの方々に乗馬というすばらしいスポーツを楽しんでいただくことが日本障害者乗馬協会の本当の目標です。

(おがさわらかおり 日本障害者乗馬協会事務局)

●日本障害者乗馬協会

  • 〒674―0035 兵庫県明石市大久保町松陰1126 明石乗馬協会内
  • TEL 078―935―8900
  • FAX 078―935―8950
  • 担当/三木薫・小笠原

●競技会情報

◆第11回全国障害者交流乗馬協会、第1回アジア大会
日程/平成15年11月15日(土)~16日(日)
場所/三木ホースランドパーク(兵庫県)
◆ベルギー世界選手権大会選手選考会
日程/平成15年6月21日(土)~22日(日)
場所/三木ホースランドパーク(兵庫県)