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介助犬と生活して

木村佳友

1 はじめに

 日本で介助犬の育成が始まったのは1990年頃からであり、その後10年余りを経て、2003年1月現在で実働している介助犬は29頭と報告されています(厚生労働省調べ)。
 私もそのうちの一頭を使用する障害者として数えられており、介助犬との生活を始めて約7年になります。私の実体験などを通して、介助犬の現状と課題について述べたいと思います。

2 障害の内容および生活状況

 15年前(27歳)のオートバイ事故で首の骨を折り(頚髄損傷・C6B2)、車いすの生活を余儀なくされ、下半身はもちろんのこと、腹筋や背筋だけでなく手の指も動かなくなりました。
 3年半の入院・リハビリ訓練を経て自宅での生活を始めました。自宅は車いすで生活ができるように、床のフローリング、天井走行式リフト・昇降機の設置など、バリアフリー改造を行いました。現在は在宅勤務のコンピュータープログラマーとして、自宅でコンピュータ関連の仕事をしています。妻との二人暮らしですが、日中は妻が仕事に出かけるため、一人の状態となります。

3 介助犬導入の経緯

 私のような頚髄損傷者にとって、通勤の必要がない在宅勤務は最適ですが、日中一人では、フロッピーやキーボードをたたく装具を落としただけで仕事が中断してしまい、自分が車いすから落ちると床に転がったままになるなど、効率の悪い勤務状況でもありました。
 そこで、 介助犬を希望した際に、転倒時の連絡手段として電話を持ってくること、仕事中に落としたもの(フロッピー、キーを打つ装具など)を拾うこと、指示したもの(リモコン、新聞など)を持ってくることなどを要望しました。
 介助犬の仕事は対象となる障害者によって異なります。現在、介助犬であるシンシアが私のために行っている介助動作の一例を表1に示します。
 介助犬の介助動作は、犬の身体、口、前足などを用いてできることであり限界があります。そのため、私の障害レベルでは介助犬の補助だけで自立するのは難しいものがあります。しかし、日中を一人で過ごすための手助けなら十分補ってくれます。介助者の負担も減り、仕事の効率もよくなりました。

表1 介助犬による実際の介助動作

1.落下物の拾い上げ 鞄、装具、フロッピィ、ペットボトル、導尿用のカテーテル、リモコン、お金など
2.指示した物をもってくる 携帯電話、電話の子機、リモコン、冷蔵庫の中のジュース、陳列棚の商品など
3.衣服を脱がせる 靴、靴下、上着の袖を引っ張る
4.ドアの開閉 扉や冷蔵庫に付けた紐を引っ張る
5.スイッチボタンの操作 エレベーターのボタン、電気のスイッチなど
6.自動発券機のチケットを取る
 その他

4 介助犬の訓練

 介助犬は使用者が障害者であるため、声の指示や合図だけで動くよう訓練されている必要があります。
 私のように手も不自由で肺活量も低下している障害者は、犬を力ずくで従わせたり、大声で叱ったりできません。犬自身もやりたいと思えなければストライキを決め込むこともできるのです。したがって、介助犬は、使用者にほめられることが犬自身の喜びとなるよう訓練されています。

5 合同訓練

 介助犬は適性のある犬を選択して訓練し、障害者とのマッチング評価を行ったうえで合同訓練を行います。合同訓練とは、障害者が訓練士から指示の出し方や犬の管理方法などを学び、介助犬との信頼関係を築く期間です。
 私の場合、シンシアの基礎訓練終了後、訓練士がわが家に泊まり込み、私の生活圏内で合同訓練が行われました。当時、介助犬の育成も始まったばかりで、医師や医療従事者のかかわりもなく手探り状態であったため、訓練士にも身体的なことが十分に把握できず、また訓練計画も整備されていなかったことから、慣れない生活に疲労し熱を出して寝込んでしまうこともありました。シンシアが初めて私の指示だけで的確に行動してくれるまでに約3週間かかりました。
 また、他団体の介助犬使用者からも、「医療従事者の関与はまったくなかった」「自宅での合同訓練期間は2時間だけだった」「アフターフォローを依頼しても、対応してくれない」などの意見があり、使用者への訓練やアフターフォローが不十分な実態が見受けられます。

6 介助犬の現状

 現在、実働している介助犬は約29頭と少数であり、介助犬に対する理解も進んでいません。
 介助犬同伴でレストランやスーパーを利用できないことも多く、鉄道や航空機の利用においては、事前の書類審査、面接、試乗試験を合格したうえで、ようやく乗車許可が得られるといった状況で、介助犬とともに社会参加するどころか、介助犬がバリアの原因ともなっていました。
 そのような中、補助犬関係者の努力が実り、2002年10月、身体障害者補助犬法が施行され、障害者の補助犬同伴が法的に保障されました。しかし、民間の職場や住居においては補助犬の受入が努力義務になっており、補助犬使用者の就職や住居探しには問題が残りました。また受入拒否についての罰則規定もなく、補助犬の普及に向けてひきつづき働きかけが必要だと考えています(法律の詳細は、「身体障害者補助犬とは」を参照してください)。

7 補助犬の質の確保

 そのほか、補助犬の質に関する課題もあります。補助犬を認定する法人についてです。認定法人は補助犬の質と信頼を獲得するための重要な機関であり、その設立は一定の水準を保てるための要件を満たすことができる組織によらなければなりません。
 今回の法律では、盲導犬はこれまで通り国家公安委員会から指定された団体が認定を行うとしていますが、介助犬と聴導犬は厚生労働大臣が指定する「認定法人(公益法人または社会福祉法人)」の審査によって認定を受けるよう定められました。現時点で実働している介助犬、聴導犬はすべて暫定犬となってしまう問題があります。
 また育成に関しては、育成団体になるためのハードルを高くすると、弱小な団体が多い現状ではその担い手が限られてしまうため、「第二種社会福祉事業の届出」で育成が行えるようになりました。また一部の育成団体より厚生労働省へ、育成も認定も自団体で行いたいとの陳情があり、本来社会福祉法人の設立に求められる1億円の資産要件は、介助犬と聴導犬の育成団体においては1千万円に引き下げられることが決定しました。
 しかし、私は介助犬使用者として第三者認定が必要だと考えています。この法律では育成団体と認定団体が同一であることを認めていますが、自分で育てて自分で認定するというのは、外部からの信頼が得られないと考えるからです。補助犬の質と信頼を保つためには、第三者認定が必要ではないでしょうか。また簡単に認定法人になれるようでは、介助犬の質が保証されず障害者も安心して介助犬を希望できませんし、受け入れ側である施設なども大きなリスクを抱えることになりかねません。

8 医療従事者との連携

 「5 合同訓練」でも述べましたが、介助犬使用者の中には、医療従事者の関与がないまま介助犬を受け取った人も少なくありません。
 介助犬の場合、身体障害者の障害内容は多様であり、育成団体だけで障害者の障害内容やニーズを的確に把握することは難しく、リハビリ医療関係者との連携が重要です。
 補助犬法においても「訓練事業は、身体障害者補助犬としての適性を有する犬を選択するとともに、必要に応じ医療を提供する者、獣医師等との連携を確保しつつ、これを使用しようとする各身体障害者に必要とされる補助を適確に把握し、その身体障害者の状況に応じた訓練を行うことにより、良質な身体障害者補助犬を育成しなければならない」とされており、障害者の障害・ニーズの把握、訓練計画の作成、合同訓練、認定審査には介助犬の訓練士だけでなくリハビリ医療従事者の関与も重要です。
 さらに、障害者が自立更生のためのリハビリ訓練を行っている段階で、自立手段の一つとして介助犬を選択できるよう、介助犬との合同訓練や認定が行えるリハビリセンターが増えてくれることを望んでいます。

9 終わりに

 介助犬が社会に受け入れられ適切に普及するためには、国や自治体における啓発が欠かせません。また、一般の方々の心のバリアフリーによって補助犬をあたたかく受け入れていただきたいと思います。

(きむらよしとも 日本介助犬使用者の会事務局長)