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補助犬とリハ専門職との関わり
―米国での介助犬使用者調査・トレーナー研修を経験して―

比嘉悦子

 日本での介助犬の健全な育成と普及を目的に組織づくられた日本介助犬アカデミーは、昨年、リハビリテーション従事者を対象に介助犬トレーナーの研修を企画・助成する試みをスタートさせました。
 医療従事者にとって全く異次元な犬のトレーニングですが、障害のある方の自立を助ける介助犬が育成される課程において、医療従事者はその専門性を反映させる役割を担っていく責任が課せられています。
 この研修を経験し、リハ従事者が介助犬育成・普及にどのようにかかわっていけるのか常に自問自答してきました。明確な正答はまだ模索中ですが、この研修での話を交えながら、介助犬の課題や展望についてまとめてみたいと思います。

介助犬先進国アメリカの事情

 米国には2000頭以上の介助犬が活躍していると推定され、数の上では日本と比べものになりません。また、1990年に制定されたADA法(Americans with DisabilitiesAct―障害をもつアメリカ人法)に基づいて、補助犬同伴での公共施設・公共交通機関の利用の権利が保障されています。
 しかし一方で、介助犬の明確な判定基準やトレーナー資格、使用者資格、育成方法、譲渡方法、継続訓練などの統一化がなされておらず、また医療関係者が介助犬の育成課程に関与しているということもほとんどありません。そのようなことからさまざまな問題を抱え、相談が寄せられているというのが現状です。アメリカの実情を知ることは、今後の在り方にいろいろなヒントとなってくると思います。

アメリカ研修内容 その1

―使用者にうかがう―

事例1:20代男性、L1脊髄損傷、左上腕骨骨折後偽関節形成

 5年間使用してきた介助犬をつい先日ガンで失い、次の介助犬を探しているということでした。1頭目の育成団体に相談したところ、125ドルの申請費用に2週間の合同訓練に際しての費用もすべて自己負担であると言われ、その工面をどうしようかと悩んでおられました。
 過去5年間、彼と介助犬はその団体のPR活動を積極的に行い、彼は生活の糧の一部を得ていたため、次の介助犬にも外見重視、一緒にスポーツを楽しめるような活動的な性格を希望すると話しておられました。
 医療者に対しては不信感を抱いており、偽関節を来している上肢のケアは全くなされておらず、炎症での腫脹・疼痛を認めていました。

【考察】

 費用について:育成にかかるお金は各団体によって異なり、費用の標準化が必要だと考えます。また、遠方での合同訓練となると、仕事の調整や宿泊・移動のための費用などが嵩み、使用者にとって精神的・経済的負担が大きくなります。取得後の継続訓練のことも合わせて考えると、地域ごとに適切な育成施設があることが望まれます。

 取得目的の適正化:彼の場合、介助犬へのニーズが本来の介助犬の目的には沿っていない点があります。お利口なペットがほしいのか、自立のために介助犬が有益となるか、客観的な使用者適性評価は社会へ介助犬が正しく浸透していくうえでとても大切です。
 リハ従事者は、最初の段階で、使用希望者の身体機能評価や精神機能評価、ニーズ、医学的情報を把握し、使用者としての適性があるかどうかを判定する役割を果たさなくてはなりません。

事例2:40代女性、脳性マヒ

 10歳の介助犬はそろそろ引退の時期にきていました。杖と車いすを併用して生活していますが、時に車いすを引いてもらったり、電気のスイッチを操作したり、物を拾うことを助けてもらっているそうです。介助犬と暮らし始め、彼女は外出することを楽しめるようになり、社会活動へも関心を持つようになっていったそうです。生活保護を受けていますが、犬の世話にかかる費用負担の助成要請を行政へ意見するほど自分自身に自信が持てるようになったということです。医療・福祉関係者に期待することとして、介助犬が自分にどれだけ有益となっているかを一緒に訴えてもらえると心強いと話しておられました。

【考察】

 公的援助に対する期待:使用者責任として介助犬の健康管理や衛生管理が義務づけられていますが、そこに必要な費用の捻出も使用者にとっては重要な課題です。米国では盲導犬にかかる医療管理には公的な助成がありますが、その他の補助犬には認めていません。唯一、モンタナ州において、行政と医療関係者との連携により介助犬育成費用の第三者負担が実現しています。また、専門家により介助犬の「最終、実働前評価」が実施されています。今後、日本でも補助犬の医療管理に対する補助も検討していってほしいと願っています。

 介助犬の有効性:介助犬は機能的援助のみならず、彼女のように心理的サポート・自尊心の向上に繋がることが大いにあります。
 Allenらの報告でも介助犬により障害者の自尊心、自制心の向上が見られ、通学および通勤状況の改善が認められただけでなく、人的介助時間および費用の削減が認められたとあります。介助犬がいることで人的介助を全く必要としなくなるという障害者は少ないのですが、短時間でも介助者なしで過ごせる時間が確保できることは、介助者の負担を軽減できると言えるでしょう。さまざまな視点から介助犬の有益性について調査・検証を図り、介助犬の存在価値を学術的に高めていくことも医療従事者の果たすべき責務だと考えています。

事例3:40代女性、多発性硬化症

 運動機能障害に視力障害が重なり、外出の際、杖と介助犬を歩行の捕助に用いていました。12歳になる介助犬は高齢のためか最近指示に従わなくなり、介助犬としての役割は果たしていませんでした。次の犬を探したいと考えているようでしたが、2頭目の犬が最初の犬にストレスをかけないか、もしそうなった時どう対処すればよいか、介助犬・盲導犬両方の役割が必要だが可能か、どちらかであれば盲導犬を希望したいなど、とても悩んでおられました。
 介助犬導入前、彼女の介護はご主人が担っていたそうです。介助犬を使用したいと言われた時、はじめご主人は自分に遠慮があるのか、何かいたらないのか迷い、すぐに賛同はできなかったそうです。しかし、導入後は仕事に集中することができたし、お互いを尊重し合えるようになったと話しておられました。家族としては、犬の主人はあくまでも彼女なのだという態度で接してきたそうです。

【考察】

 多岐にわたる継続フォローの必要性:高齢犬の引退については、その時期や引退後の扱いなど、動物福祉の面からも専門家の助言が必要だと思います。フォローアップ体制を整えることが、彼女のような悩みの解決の助けになると考えます。

 事前評価の必要性:公的補助を含めて考えたすえ、彼女は盲導犬に介助犬の役割も請け負ってもらいたいと考えたようですが、疾病予後や身体機能、使用者ニーズを含め包括的かつ客観的判断は医療者として必要だと考えます。ニーズを正しいかたちで満たしていくために、より適切な処方が行われるべきだと思います。

 なぜ「犬」なのか:介助者がいるのにどうして介助犬を選択するのか。ごく自然な疑問だと思います。彼女はご主人の負担になりたくないという気持ちと、一人でなんとかできる方法はないかという自立したい気持ちが介助犬取得の動機付けになりました。家族がどう使用者を支え、介助犬と接していけばいいのか、参考になった事例でした。

アメリカ研修内容 その2

―介助犬トレーナーをめざして―

 介助犬のトレーニング技術は個々のトレーナーに委ねられ、その手法や技術レベルに規定はありません。
 しかし基本として重要なことは、常に日常生活を障害者と共に過ごす介助犬に人への信頼と仕事をストレスと感じず、楽しいこととして教えていくことだと思います。犬の適性を見極め、自主性を尊重し、誉めていくことで信頼関係を築き、人に対する集中力や人が必要としている状況判断力を養うことができます。犬の性格を読み、得意・不得意を知り、犬が成功し誉めてあげられる場面設定を、トレーナーは一歩先に立って考えていく能力が必要なのです。人のリハビリと共通するところがあると思いませんか。
 犬は常に学習しています。訓練時間だけが犬の学びの時間ではありません。犬の学習原理理論や行動学という学際的に確立された分野の知識がトレーニング技術の向上に生かせていけると実感しています。

おわりに

 介助犬の育成にリハ専門職はどうかかわっていくのか。法律の中では、事前評価で使用希望者の評価を行い、合同訓練においてはチームとしての連携を図り、認定段階には介助犬が使用者ニーズに沿った介助を行うことができ、使用者もきちんと指示・管理ができているかを判定するという位置付けがあります。
 しかし、私はまず多くの医療従事者・リハ従事者に介助犬のことを知ってもらいたいと思います。障害者の自立を考えていく際、補助具や福祉機器などの選択肢に、新たに介助犬という選択肢があるという情報提供ができ、どの選択肢が障害者の望んでいる生活に適合していくのか、もし介助犬を導入するならどんな役割を果たせるのか、具体性を持たせていける専門家がもっと増えていってほしいのです。そうして介助犬の有益性を学術的に研究し、使用者がもっと暮らしやすい制度へ改革していく足掛かりを作っていきたいと願っています。
 犬学も奥のある興味深い分野です。障害者・犬双方の福祉が配慮された介助犬育成・普及に向け、それぞれの専門性を発揮し、協力しあえるよう努力していきたいと思います。

(ひがえつこ ハートライフ病院理学療法士)

【参考文献】
1)Susan L Duncan:Animals as Healthcare Interventions, 2002
2)Susan L Duncan:Delaware Developmental Disabilities Council Service Dog Project Report 2000
3)Karen Allen, Jim Blascovich:The Value of Service Dogs for People With Severe Ambulatory Disabilities.JAMA275(13):1001-1006,1996
4)高柳友子:介助犬法制化とリハビリテーションの役割、クリティカルリハ11(5):436―440、2002
5)高柳哲也編:介助犬を知る、名古屋大学出版会(2002)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年5月号(第23巻 通巻262号)