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ワールドナウ

ベトナム
ベトナムの母子保健、障害児対策事業への協力

板東あけみ

はじめに

 障害のある子どもたちにとって、医療・社会福祉・教育の社会的保障は当然のことである。これは世界的に共通の課題でもあり、子どもたちがその人生を謳歌できるために、当然権利として保障されねばならない。しかしまだまだ十分な状況にあるとはいえず、いかなる国においても日々多くの人たちの努力がなされているが、人々、特に施政者の意識や資金の不足が大きな一つの壁となっている。
 当会は、1990年から以下に述べる取り組みを進めてきている。最近ベトナムのベンチェ省において会議をする時には、医療分野から医療局・母子保健センター・CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)委員会の代表、福祉の分野から人口家族児童委員会の代表、教育の分野から教育局・局内の障害児課の代表が、担当副知事と共に出席されるようになり、その3分野が同席して横軸として事業を考えるようになった。また母子健康手帳の導入により妊娠期から就学までの過程を縦軸として見据えて取り組みがなされるようになった。このような縦と横のつながりの中で、行政が障害のある子どもたちのケアを考える基盤ができてきたことは大変大きな意味がある。加えて、私たち日本側にとっても、現地の熱意や住民のネットワーク作りなど大いに学ぶ点がある。

NGO「ベトナムの子ども達を支援する会」の設立

 1989年にベンチェ省人民委員会は初めて障害児実態調査を実施、1059人の存在を確認した。ベンチェ省人民委員会はその実情の厳しさに省内初の障害児学校の建設を計画し、独自で資金を貯め始めていた。1990年に初めてベトナムを訪れた筆者はその計画に共感し、NGO「ベトナムの子ども達を支援する会」(以下会という)を設立した。当会は以降13年間全国の会員や協力者、郵政公社の国際ボランティア貯金の資金提供や専門家の技術協力を受けながら、以下に述べるベンチェ省人民委員会の事業に協力をしてきた。

ベンチェ省での障害児対策事業並びに母子保健改善事業

 ベンチェ省では第1次、第2次事業を経て、現在第3次事業に入っており、継続的な事業発展を成し遂げている。この一連の事業は、まずベンチェ省人民委員会から事業提案がなされ、それを会で協議し、双方の合意の上で事業が展開されている。ベンチェ省人民委員会が事業主体であるので、省資金の投入、事業村の選定、地域住民の事業協力者ネットワークの構築、医療専門家のための講習会の参加要請等は、行政として組織されている。会からは、関連分野の専門知識の技術協力に加えて、資金や機材協力をしている。

■第1次事業 1990年~1996年(核を作る時)

 ベンチェ省人民委員会は、1989年の障害児実態調査に基づき、障害児学校と病院の建設に取り組んだ。当会はその資金面での協力と合わせて、村々で障害児の診察活動をした。

活動:ベンチェ省立障害児学校の建設資金、備品購入資金協力、ベンチェ省立伝統医学病院の建設資金、備品購入資金協力、障害児の診察活動協力

成果:現在この病院と学校は、障害のある子どもたちの医療や教育活動の中心的な機能を果たしている。特に障害児学校は、ベトナム政府も注目し、他省の教員養成研修の場になってモデル校としての機能を果たしている。さらに2003年9月からは、ベトナムで初めての障害児のための高等部を設置する学校になる。
 会は、第1次事業で診察した多くの障害児が在宅であることに着目し、地域での取り組みが重要であると考えていた。ベンチェ省はCBRの事業省となり、会はCBRに協力することを決定した。

■第2次事業 1997年~2001年(量的展開をする時)

 会は、第1次事業で診察した脳性マヒ児の中に妊娠期、出産期、新生児期に適切なケアが不十分で障害を負ってしまったことが可能性として考えられるケースが多かったため、CBRに加えて母子保健改善事業(以下MCHという)を会の活動の柱に加えた。また、現地の専門家養成を兼ねて、装具や車いす修理、心臓疾患児の検診活動を実施した。

活動:日本人専門家派遣(年2回)(医師、理学療法士、義肢装具士、保健師等)
村の診療所や病院へのリハビリ並びに母子保健関連医療機材購入資金協力
母子健康手帳や母親学級の資料、CBR研修用冊子作成

成果:CBRはベンチェ省内全160村中102村(うち20村は2003年事業)で実施
MCHは160村中83村(内15村は2003年事業)で実施
第2次事業終了段階で、今後の活動について日本・ベトナム両政府関係者の意見も聞き、会はベトナム全体への波及効果を期待してベンチェ省を一つのモデル省にするため、同省での活動継続を決定した。

■第3次事業 2002年~2005年(質的発展をする時)

 本事業は、現地からの要請もあり人材養成を主な活動とする。なおCBRが進む中で、一般校に障害児の学級を開設する動きも出てきたので、障害児の教育も活動の柱に加えた。

活動:年2、3回の日本人専門家派遣(医師、理学療法士、保健師、教師等)
母子健康手帳や母親学級資料、CBR研修用冊子作成
医療機材購入資金協力はひきつづき継続

成果:カウンターパートが、医療局、CBR実行委員会、母子保健センター、人口家族児童委員会、教育研修局となり、縦割り行政の壁を乗り越えて活動している。

 2002年8月には、CBRとMCHの大規模な講習会、心臓疾患児の検診を実施するとともに、障害児の学級設置予定校のうち3校で、教員と校区の障害児保護者との話し合いや学校生徒との交流会をもった。2003年には、ベンチェ省内9校の一般学校に障害児学級の開設が計画されている。

他省への展開

 最近ベンチェ省人民委員会は、他省や団体の視察や研修の受け入れ等、他省の関連事業に対し貢献をするようになっている。
 一方筆者は、1994年からベトナム児童保護育成委員会委員長であるタイン大臣からの依頼で、日本外務省草の根無償資金の協力を受けてベンチェ省での経験を活かした母子保健改善事業を推進するベトナム児童基金(以下NFVCという)の相談役として活動し、今までに3事業に関わってきた。NFVCは、2003年に北部の貧困な山岳少数民族の多いバクザン省、障害児の多いタイベン省の計20村で母子保健改善事業を実施する計画があり、その後さまざまな困難を持った2,000村で母子保健改善事業を実施する方向でベトナム中央政府に予算請求を行っている。今後前記のように各地での取り組みが進んでいけば、ベトナムの子どもたちに関する諸課題、たとえば乳児死亡率の低下、栄養失調率の低下、障害児率の低下、予防接種率の向上等に多大な貢献をすると思われる。

おわりに

 会の設立から13年余り、ベンチェ省でのNGOとしての取り組みは、ベトナム政府やWHOも評価する大きな成果を上げた。一NGOが、顔の見えるカウンターパートとして信頼の元にすぐれた現地モデルの構築に協力できたことを生かして、ベンチェ省から他省への自発的な展開、あるいは日本のODAの有効利用のモデルとしての他省への展開ができることは、大変有意義なことであると考える。国際協力をするに当たって、現地の持てる力を十分に発揮できるような協力体制を常に意識しておくこと、対象となる子どもたちや家族への視点を第一番に常に意識しておくことが重要であろう。世界のいかなる国にも障害のある子どもがおり、その子どもたちへの事業は大きな課題となっている。ベンチェ省の取り組みが、ベトナム国内はもとより他の国々にも参考になっていくことを切望している。

(ばんどうあけみ NGO「ベトナムの子ども達を支援する会」事務局長)

◆ベトナムの子ども達を支援する会
〒606―8104 京都市左京区高野竹屋町33―25
TEL/FAX 075―701―2095
E-mail:svcaban@attglobal.net
会のホームページ(7月21日更新)
http:pws.prserv.net/jpinet.svcaban