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相談員として信頼される人間性

前田保

相談員としての経験

 身体障害者相談員は、県知事から委嘱されて身体に障害をもつ人の相談に応じて支援活動を行うことがその役割です。
 私は昭和25年2月、17歳で左足切断の手術を受け身体障害者となりました。団体の役員をやり日常的に障害者とかかわり、行政とのパイプ役でもあります。私の相談員歴は20年になります。

 障害者からの相談は、電話相談・自宅相談・福祉会事務局での相談・喫茶店での相談・相手方の自宅へ訪問しての相談など多様です。

〔Kさんの場合〕

 Kさんは、初めて施設でリハビリを行いたいという電話相談でした。翌日、自宅を訪問することにしました。まず「あなたは身体障害者手帳を持っていますか」と聞いたところ、「まだ持っていない」ということでしたので、身体障害者手帳交付申請のため、私の知人の医師に診断してもらい、結果は1級の認定になり3週間程で手帳交付ができました。Kさんは青森に帰省していた時、脳出血で倒れ、その後遺症で身体障害者手帳が交付されたのです。ご両親からは、医師から病院でのリハビリは終わったので、後は別な施設で行うよう言われ、どうすればよいかの相談でした。
 次に前もって知人の園長がいる身体障害者の施設に連絡をしておきましたので、家族と本人と一緒にお願いに行き、1週間に2回のデイサービスに通い、リハビリを行うことになりました。これが3年前のことでした。
 帰省している時に突然倒れた一人息子のことを思うご両親の心痛を思うと、これが運命なのかと思わされました。お母さんは、夫が心臓病で通院しているのに息子が急にこうなってしまって…と嘆いていました。お父さんは、自分も病身ではあるが息子をこのまま残して死ねない、もう少し頑張らねばとふんばっておられました。
 私は、お母さんの笑顔で皆で一生懸命頑張るしかないと言っていた毅然とした姿に胸を打たれたと同時に安堵し、相談にのってあげて本当によかった、自分が信頼されていたことに気づいて満足感が湧き、次のスタートができる確信を得ました。障害年金も支給されることになったという電話がありました。

〔Aさんの場合〕

 Aさんは、足に軽い障害があり福祉会の役員も務めていて、結婚生活に入り幸せな日々を送っていました。Aさんは製杙所で働いていたのですが、ある日、車の荷台から落ちて脊髄損傷の重度障害者になってしまいました。子どもが小学校2年生の時です。勤務先では一向に労災の手続きをしてくれないという相談でした。私はその会社に出向いて話をしてきたのですが、誠意を持ってやってくれる様子でもなかったので、関係書類を全部持って、病院、労働基準監督署へと足を運び手続きを済ませました。Aさんは幼少から障害があったので障害年金を支給されており、今回の事故によって労災の障害年金との年金生活に入り、何とか子どもを高校卒業させることができました。
 Aさんは、子どもが就学前から福祉会の行事によく連れてきていました。その子どもは今、26歳になり会社勤務をしています。中学・高校と成績も良く、一時期音大に入るんだという希望を持ったようですが、家庭の事情を考えると無理だと相談を受けたこともありました。社会に出て一人前になるにつれ、障害をもつ両親を思う自分の生き方を考えるようになったのでしょう。
 Aさんから最近、子どもの様子がおかしいので相談にのってくれないかと言われ、自宅に行って話を聞いたところ、自分から精神科医に相談に行っていることを話しました。ある日、医師から「親に話すことがあるから病院に来るように」と言われたのですが、Aさんは体調が悪く入院していたので、代わりに私に病院に行って話を聞いてもらえないかと連絡があり、医師の所に2人で行きました。医師から、「この人は自分の意志で病院に来ているからよいほうだ。しかし、薬がなくなっても病院に来ない場合が続くと大変なことになってしまうから、薬は絶対切らさず飲むこと、そして気軽に話し相手になってくれる人がいないとだめだ」と言われました。
 その後は、私の家内が看護師として精神病院勤務の経験もありましたので、自宅で話し相手になったり、中学・高校で合唱部にいて、日中はヘルパーもやっているスナックのママさんに話し相手になってもらい、カラオケを歌ったり、できるだけ人とのコミュニケーションをとるようにしてきました。最近、電話で体調を聞くと良いということですが、薬だけは止めないようにと言い聞かせています。

 相談を受けた時、まず相手の話を最後までじっくり聞くことが、相談員としての第一条件です。また、民生児童委員との意見交換、情報交換が大切です。現在、相談員には、障害者名簿を公開してくれません。相談員が居住している地域にどんな障害をもっている人がいるのか、相談員が把握できないのが現状で、相談が来るのを待っているしかないというのが実態です。このことを乗り越えるのも相談員の大きな課題となっています。

(まえだたもつ 財団法人青森県身体障害者福祉団体連合会会長)