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ピア・カウンセラーの活動とこれから

秋山浩子

 ピアとは仲間、障害をもつ仲間の自立支援を行うのがピア・カウンセラーです。相談者一人ひとりの本来持っている力を引き出し、エンパワメントするのが役割です。そのエンパワメントの方法にピア・カウンセリングがたいへん有効だということは、多くの人に知られるようになってきました。「障害とはなんだろう」、「障害があるとはどういうことだろう」と、自分自身の障害に対する認識をもう一度見つめ直し、自分の存在に自信を取り戻していきます。そして、人間はお互いサポートし合っている関係だと気づき、人間信頼に基づいて関係を立て直します。障害者も社会の中で対等な存在であることを知り、積極的に社会に働きかけることができるようになります。このようにピア・カウンセリングには、“自己信頼の回復”“人間関係の再構築”“社会の変革”という目標があります。
 多くの障害者は障害を理由に、さまざまな経験をする機会を奪われています。「あなたにはできない」と決めつけて、まわりの人が過剰に保護し、障害者自身の力を抑えてしまっているのです。施設を出てアパートで暮らしたいと、60歳を過ぎてから自立の決心をした方のサポートをしていた時のことです。施設の職員さんが自立生活センターにやって来て、「ご飯をちゃんと食べているか心配だから、泊まっている体験室の場所を教えてほしい」と言うのです。その時、相談者は自立生活のトレーニングとして、介助者を使って宿泊体験をしていました。本当にその人のことを考え支援したいと思うなら、見守ることも大切なのです。失敗を含めた経験を積む中で、自分のできることやどんなサポートが必要かということがわかってくるのです。その相談者は現在、アパートを借りて念願の自立生活をしています。
 母親など家族と一緒に自立の相談に来るケースも少なくありません。このような時によく見られるのが、ついてきた周りの人が本人に代わって話してしまうことです。それに対し本人は不満そうな顔をしても何も言えないか、感情を爆発させて落ちついて話ができなくなってしまいます。つい周りの人の顔色を見てしまったり、あきらめてしまうのです。そうした人でも、ピア・カウンセラーと一対一で話をすると、自分のことを否定や批判をされずに真剣に話を聞いてもらう(=傾聴)ことで、安心して自分のことを話せるようになります。信頼と注目をもらうことで、自分自身の問題に向かう勇気がもてるのです。ピア・カウンセリングでは「自分の問題は自分で解決する力を持っている」と考え、ピア・カウンセラーはそれをサポートする人なのです。
 自立や生活相談のほかに、「ピア・カウンセラーをしているが、どのように相談を受けたらいいか悩んでいる」または「仲間の支援をしたいがどうしたらいいか」という相談を受けることがよくあります。そのような相談があった時は、まずは自分自身でピア・カウンセリングを体験することを勧めています。ピア・カウンセリングの本来の意味を知り、自ら有効性を実感することで、支援の場に生かすことができるのです。
 また、ピア・カウンセリングの中に『感情の解放』というのがあります。これは抑圧してきた感情を解き放すことで、過去に受けた傷を癒し回復されることにより、より合理的な思考を取り戻し、理性的に考える力を呼び戻してくれる手段・方法です。しかしこれをすることがピア・カウンセリングの目的と、誤った理解をしている人が少なくありません。そうした方にも理論を聞き体験してもらうことで、感情の解放の意味に気づき、3つの目標へとつなげていけるのです。
 このように理論と実践の両方を学び、意味と有効性を知っている障害者が広げていけるものです。そして障害者が障害者を支援する意味を、障害者だけでなく、障害者と一緒に働いている人たちにも知ってもらうことが重要であり、こうした活動をしていくピア・カウンセラーを増やしていくことが課題になっています。
 今、ピア・カウンセリングは日本からアジアやアフリカへ広がり始めています。韓国では2001年より日本からピア・カウンセラーが行き、ピア・カウンセリング講座が10回以上開かれています。また韓国の障害者たちが、日本にピア・カウンセラー研修に来るなどの成果で、韓国にもピア・カウンセラーが増えてきました。タイでは、昨年は自立生活プログラム、今年はピア・カウンセリングとどちらも30人の参加があり、関心が高まってきています。この他の国でも、日本でピア・カウンセリングの有効性を実体験し、自国の仲間に伝えるよう尽力をつくしている人たちもいます。私自身韓国やタイへ行き、障害者の抱えている問題の大きさを実感しながらも、改めて障害者のパワーとピア・カウンセリングの可能性を再認識しました。障害者一人ひとりのエンパワメントが重要であり、それぞれの意識の変革が障害者を取り巻く環境を変えていく力となるのです。

(あきやまひろこ 自立生活センター日野)