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精神障害者家族相談員の活動と課題

中村光子

あやめ会の電話相談

川崎市精神障害者家族連合会(あやめ会)で行っている家族相談活動を紹介しながら、課題点をまとめてみたいと思います。
 あやめ会での電話相談のスタートは、平成8年9月です。当初事務所がなかったため、携帯電話を使い各地の保健所等のスペースを使って開始しました。市政だよりやタウン誌などに掲載して宣伝をしました。週1回からはじめて、平成12年3月には、相談事業援助として市から福祉公共施設の一室の提供を受けて現在は週2回、2人体制で行っています。
 専門家による相談とは違い、家族相談活動は家族の置かれた苦しい状況の中から、自然発生的に生まれました。家族は孤立無援の状況に置かれて、だれにも言えない、どこに相談してよいか分からない、医療や精神保健の現場から十分な情報が得られず、苦しい状況にあります。相談の圧倒的多数は病気自体のことです。

相談内容

 相談の内容は、大きく分けると3つに分類されます。まずは生活全般のことです。学校や仕事での対人関係、家庭内の人間関係、家族の理解の問題。家族内部・外部社会の「偏見」、将来の生活不安など、つらさとストレスを相談員に吐き出します。2つ目は病気や医療・薬についてです。情報源が増える一方で個別の疑問や不安が増えています。医療機関・医療関係者への疑念や不信感があります。3つ目は社会の諸制度です。障害年金、扶養共済、生活保護等の利用に対する理解と気持ちの整理、社会資源全般の情報、親亡き後、危機介入、緊急医療体制(家族が孤立して苦しみに耐えて乗り越えているケースが多く、最も深刻な相談が多い)のことです。
 その中から、親や当事者から寄せられる相談をいくつかご紹介します。
 当事者本人から:「もう生きることに疲れた。ゆっくり休みたい。いつかいいことあるよと言われても繰り返される病気の波、再発と入退院の繰り返し。精神科医療は延命治療ではないですか」。こちらは最初「つらいですね、よく分かりますよ」としか言えません。でも悩みを聴くうちに「今日はいろいろ話を聴いてくれてありがとう」と言われ、こちらも「電話をくれてよかった。力になれなくてごめんね」。
 親から:「高齢で疲れ果てて、子どもが退院しても引き取る気力がない。私が死んだ後、子どもはどうなるのでしょう?一生病院にいるのでしょうか」。「長い間大変でしたね。お母さんが亡くなってからのことは心配なさらないで。きっと何とかなりますよ!子どもさんには相談できる場と人のネットワークをできるだけ広げておいてあげてください」などと、ほとんどカラ元気を奮い起こして答えている。
 兄弟姉妹から:老いた親が亡くなるまで他の子どもに迷惑をかけまいと必死で何十年と面倒を見てきた後、ある日親が亡くなり、突如、兄弟姉妹に保健所か病院から連絡が入る。同居を迫られた兄弟から「当事者の人権云々と言われるが、親兄弟の人権はだれが保護してくれるのか?」。私は「それでも昔の精神病者監護法から精神衛生法、精神保健福祉法と、少しずつ前進・改善してきています」。彼いわく「その時代のほうがよかった」。当方は絶句します。それほどに今家族が背負っている荷は重いのです。
 近隣者から:どうやら近隣家族の理解しがたい言動に疲れ果てた住民からの電話。長々と苦情を聞かされ、当事者の家族として「すみません、返す言葉がございません」と謝ったうえ、精神障害者(外見では分からない)自身の生活のしづらさ、家族の大変さ、どこにでもそういう人が100人に1人は生活しているのだと、少しでも精神障害者のことを分かってくれればと、いろいろ説明しています。

家族相談員の意義

 私は、家族相談員の意義を次のように考えています。同じ体験を分かち合えることで、安心感、親近感をもって相談ができ、かつ体験の共有者としての出会いをもたらします。専門家や医学書では分かりにくかったところ、受け入れられなかったことが体験者としての家族から具体的な情報を得ることにより納得でき、また病気・障害の「受容」への手助けが得られ、苦しみの中に慰めと希望を見出すことがあります。お互いを助け合う育て合う場の発見ともなります。

家族相談員の限界

 しかし、限界もあります。体験共有者ゆえの巻き込まれ、個人的体験の押し付けには極力注意が必要です。傾聴と受容が重要なことはもちろんですが、相手が必要としている点を把握・整理して医療・保健関係者に結びつけることが最も大切です。また、分からないことは「分からない」とはっきり伝えるべきです。

むすびにかえて

 今後、社会全体が取り組む課題として、「精神障害者の世話は家族が全面的に担う」という従前の家族扶養の前提に代わり、「地域社会全体で保障する」という前提に立ったいろいろな機能が想像され実現されれば、相談の内容も変化し前進することができる、そういう目標に向かってあらゆる努力が積み重ねられていくことの必要性を感じています。

(なかむらみつこ 川崎市精神障害者家族連合会)