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障害者の暮らしを支える相談員活動
~「相談員活動状況調査」から見えるもの~

竹内正直

1 調査の目的

 「平成13年度障害者相談員活動状況調査」は、日本身体障害者団体連合会(以下「日身連」という)が社会福祉・医療事業団(以下「事業団」という)の助成を得て実施したもので、相談員制度発足(1967年・昭和42年)以来30年余を経過して初めて行った調査である。
 この制度が地方公共団体の事業として同化定着化したことを理由に、国は1998(平成10)年国庫補助事業としての相談員設置要綱を廃止して、都道府県、政令指定都市、中核市(以下「都道府県等」という)に移管したため、制度の運用、相談業務の推進状況、相談員活動の課題等の全般的な状況把握が困難になったところから、従来必ずしも明らかでなかった全国の相談員定数、処遇、経験、事績等を加えた、障害者相談員の日常活動の検証を目的に実態調査を行った。

2 調査の概要

○調査時期 平成13年11月1日~同30日
○調査時点 平成13年4月1日現在
○調査対象
1.都道府県等障害福祉課87か所(全数)、2.日身連加盟の都道府県等の団体、身体59、全日本手をつなぐ育成会加盟の知的58団体(全数)、3.身体障害者福祉法第12条の3、知的障害者福祉法第15条の2の規定による相談員1688人(都道府県等から提供された障害者相談員名簿のおよそ1割を無作為抽出したもの)
○調査方法 調査票の郵送による配布、回収

3 調査結果から見えたもの

 制度がスタートして初めて行った調査結果により明らかになったのは、相談員の日常活動や団体の活動に著しい個人差、地域差のあったことである。

(1)定数と手当

 国が相談員制度を地方に移した際、相談員の設置にかかる経費を一般財源化したことにより、相談員設置の目安(身体で、障害者およそ200人に1人の相談員、知的で90人に1人)や手当の基準額(国補事業時代の相談員手当の基準額は年額2万4500円)が外されたのを受けて、全国的にいずれも増減のばらつきが出た。
 特に相談員定数は、それまでも全国平均が身体で365人、知的で126人に1人と目安より低い水準のところへ、今回M県では77人(42%)、K県63人(30%)の身体、同上M県の39人(42%)、S県34人(29%)の知的と異例の大幅減員が行われた。障害者の累年の増加傾向を考えるまでもなく、これは明らかな障害者福祉の後退ではないだろうか。
 また同様に、相談員手当の大幅減額が2県に及んだが、それより制度ができて以来今日まで、依然旧国補基準額に満たない手当となっている地域が、身体で9、知的で20を数えていることは、制度恃(たの)むに足らずということか、制度を軽んじているということか、大変な驚きである。

(2)性別、年齢、相談員歴

 相談員の性別における配置のバランスは、わが国が男女共同参画社会の早期実現をめざしている状況から、身体の4(81%)対1(19%)の極端な男女比は比較的早い機会に適正に是正の必要があると思われる。
 また知的の4(40%)対6(60%)の配置は身体と逆の比率となっているが、知的の場合、母親としての女性が当事者の療育、保健、相談等に主体的にかかわっている現状から、極く自然な配置と考えられる。
 年齢については、60~79歳が身体で62%、知的で46%といずれも比較的高い年齢層が上位を占めているが、両者共通して団体の役職を兼ねている現役が多いためである。
 ただ法制度の改革が急テンポに進む中、今後の相談員活動に、より高い専門性や効率性が求められることから、迅速、適切にクライアントのニーズに応えていくことは大きな課題であろう。
 しかしながらこの高い年齢層には、相談員としての豊かな人生経験、広い人脈があり、加えて社会資源や地域事情などの情報に精通している強味のあることを忘れてはならない。
 相談員歴では、新任相談員の0~4年が身体で45%、知的で43%、現任の5~9年が身体で26%、知的で27%、10~19年がともに22%と同率となっていて、新任、現任いずれもがほぼ半々を占めており、新旧交替が極めて均衡よく行われていると見てよい。

(3)相談活動

 今回の個人調査によって、全国の障害者相談員の素顔が明らかにされたといってよい。

ア、相談件数

 相談員が扱う相談件数は、年間1~4件と20件以上がもっとも多く、1~4件は身体で23%、知的で73%、20件以上では身体で25%、知的で22%で、この中間はそれぞれ10件止まりであった。
 この中、知的で1~4件の73%と途方もなく高い数値は、知的障害者の相談の特徴を象徴的に表現しているといってよく、身体の相談の当事者相談、比較的単一の課題、短期処理業務と違って、知的は当事者と家族が一体の相談、医療、保健、施設等専門機関との複合的なかかわり、おしなべて長期にわたる取り組みを必要とするため、たくさんの相談を1人の相談員が抱えることのむずかしさを示している。
 相談は平均すると、1人の相談員が身体で年間19件、知的で16件と月に1件以上は処理していることになる。

イ、相談のかかわり方

 相談とどうかかわるかは相談員の最大の課題であるが、この調査ではクライアント、または関係機関からの連絡待ちが多い。そのため、この状況での相談実績は極端に少ない。
 しかし相談員の強い使命感から、意欲を燃やして自主的、計画的に個別訪問を積極的に進めている身体の相談員が37%、知的で30%活躍しているのは頼もしい。
 また相談の期日を決めて対応する、障害者団体や役場、社会福祉協議会等が行う相談事業に、身体で42%、知的で31%が参加して定期的にかかわっている向きもある。
 注目すべきところでは、相談員業務の範囲を超えて相談を進めた事例が、身体、知的とも16%あることで、相談の内訳は、異なる障害種別の相談、結婚問題調査、離婚調停の立会い、介護保険制度や登校拒否児の教育相談、高齢者の身上相談等々とその領域は非常に広く、また専門に属する相談が多い。そして、少子高齢、核家族化が進む今日、この種の階層横断的な相談が増えてくることが予想される。
 なお相談業務推進のうえで専門機関との業務の連携を計ったケースが、身体、知的とも1.5%に当たる258人に上っているが、この辺の実績も今後急速に高くなることが予測されるので、平素から弁護士会、医師会、ケースワーカー等の団体との緊密な協調が必要とされる。

ウ、研修会と記録

 都道府県等が開催する研修会への参加状況は、身体79%、知的76%とほぼ同率で大変意欲の感じられるところであるが、不参加がともに15%あるのは極めて遺憾と言わざるを得ない。
 また相談員記録の提出状況については、地方公共団体ごとに取りまとめが異なっているため、提出期別の実績評価はむずかしいが、「提出しない」が身体で17%、知的で23%あるのは看過できない。
 要綱で記録提出を義務付けているのは、身体で87団体中69(79%)、知的で87団体中72(83%)あるが、記録の未提出は明らかに契約違反に当たるし、義務付けがないとしても、公的制度にあって、障害者の暮らしと人権を守る身近な相談員として、いささか不謹慎ではないだろうか。

(4)団体活動

 調査時点における相談員連絡協議会の組織状況は、身体で設立済み59団体中43団体で73%の組織化、知的では58団体中11団体で19%の設立となっている。
 この団体のうち、身体23、知的7団体が行政や関係機関・団体から事業の委託もしくは助成を得て、相談員研修事業の定期開催、結婚、法律、就労等の相談などきめ細かな事業と取り組んで相談員活動を強力に支えていることが分かる。

表1 調査回答数

区分 相談員数 調査票送付数 回答数 回収率
身体 12,167 1,203 673 55.9%
知的 4,807 485 268 55.3%
16,974 1,688 941 55.7%

表2 都道府県等主催研修会の参加状況

区分 身体 知的
あり (79%)534
平均2.3回
(76%)205
平均1.9回
739
なし (15%)99 (15%)40 139
無回答 (6%)40 (9%)23 63

表3 相談記録提出状況

区分 身体 知的
月に1回提出 (9%)63 (9%)25 88
隔月に1回提出 (4%)27 (2%)6 33
4半期に1回提出 (30%)201 (27%)72 273
その他 (36%)241 (36%)95 336
提出しない (17%)112 (23%)61 173
無回答 (4%)29 (3%)9 38

4 まとめ

 全国1万7000人障害者相談員は、常に障害当事者やその家族のもっとも身近にいて、個々の障害者の生活、就労、医療、保健、福祉等のニーズに機敏に応じて相談・支援に当たるとともに行政や関係機関に協力して、障害者福祉の啓発、援護思想の普及に努め、あわせて地域活動推進の中心的担い手の役割を果たすことは言うまでもない。
 今回の調査を見る限り、都道府県等行政が常に制度機能のチェックと活性化を行うとともに、相談員自らも絶えず相談員の役割と責務を自覚して業務に精励することに努めたい。最後に、そのうえで次の事項を提言したい。

(1)相談員の推薦は市町村長となっているが、業務の性格上相談員の適格性を整えることが肝要ではないか。
(2)都道府県等は相談員の選任に当たって、性別、障害種別等を十分勘案して、女性や少数障害者の登用にも配慮する。
(3)相談員記録の提出は義務制とする。
(4)都道府県等が開催する相談員研修は必修制とする(法制度や相談スキルのレベルアップに努める)。
(5)都道府県等は、福祉事務所単位に事例ケース等の評価会議を開催する。
(6)都道府県等は相談員のPRを積極的に行う。

(たけうちまさなお 社会福祉法人山梨県障害者福祉協会理事長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年7月号(第23巻 通巻264号)