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ウオッチング支援費制度

療護施設からみた問題点

儀藤敦

 支援費制度がスタートして3か月が経過しました。
 「身体障害者療護施設」という重度の身体障害のある方々と関わる施設の中で、私なりに感じているこの制度の問題点について、3点ほど述べたいと思います。
 まず第一に、療護施設の看護師配置の問題があります。療護施設は「重度の障害により家庭では生活をすることが困難な方を受入れ、治療と養護を行う」ことを目的にしています。療護施設が制度化された昭和47年以降、50人定員の施設を例にとると、看護師の配置定数は2人のまま据え置かれてきました。近年、利用者の医療的ニーズは多様化しており、たとえば平成12年以降に開設した療護施設は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の受入れ体制の整備を義務付けられています。
 私の施設を例に挙げますと、利用者52人中(ALS2人を含む)胃瘻または経鼻的経管栄養を実施している方が7人、膀胱瘻または留置カテーテルにより排泄管理をしている方が7人、常時サクションにより痰の吸引を必要とする方が5人、夜間のみ人工呼吸器を使用する方が1人など、何かしらの医療的ケアを必要としている方が多数を占めています。また専門医療機関に受診をしなければならない方も多く、昨年度中に延べ765人が外部医療機関に受診をしており、看護職でなければ対応できない通院援助も業務の中で大きなウエイトを占めています。
 支援費制度での看護師の配置については、「定員50名を超える療護施設では常勤換算方法で3名以上で且つ常勤職員が1名以上」とされましたが、実態は措置費制度時代とほとんど変わりがないと言えます。あとは各施設での経営努力次第ということになるのでしょうが、それだけでは解決できないほど利用者の医療ニーズは高いと言えます。
 全国の療護施設のほとんどが加盟している「全国身体障害者施設協議会」では、療護施設の「看護師の24時間配置の義務化」を国に要望しています。平成14年12月に策定された「新障害者基本計画」の中では、「入所施設は、地域の実情を踏まえて、真に必要なものに限定する」と明記されています。ここで言われている真に必要なものとは、今までよりもより重度・重症の方が利用対象となるケースのことであると考えられます。そのためにも療護施設での看護師の配置増を図り、利用者の医療ニーズに応えることが急務と言えます。
 第二に、支援費制度のもう一つの柱である「施設から在宅へ、施設から地域へ」という流れを実現していくために、在宅サービスの充実が必要不可欠です。身体障害の分野では、居宅支援生活サービスとして、「ホームヘルプ」「デイサービス」「短期入所」の3種類があります。この中で、特に「短期入所」については、介護保険制度と比較をすると極端に単価が低く設定されています。障害が1番重い方が該当する「障害程度区分1」の単価は8,180円であり、介護保険制度の「要介護5」の11,230円とでは、1日当たり3,000円以上の開きがあります。この「障害程度区分1」の単価は、介護保険制度における「要介護1」の8,410円と「要支援」の7,970円の中間でしかありません。重度障害者の実態に則した単価設定が必要であると考えます。
 また、現行では施設利用者のみを対象としている重度重複障害者加算について、居宅支援の領域にも適用すべきではないでしょうか。
 第三に、「扶養義務者の負担」という問題があります。支援費制度になっても措置費制度とほぼ同様に利用者の収入に応じた「応能負担」と、負担限度額に満たない場合は「利用者と同一の世帯に属しかつ生計を同じくすると認められる配偶者又は子」に扶養義務者として負担が生じることになりました。利用者が自らの意思に基づき、自らのニーズに合致したサービスを選択できるようになるためにも、扶養義務者の負担のあり方についての検討や見直しが必要だと思います。
 このほかにも、障害者にとって支援費制度が有効なものになるためには、改善されるべき問題が多々あります。支援費制度の「自己決定に基づき自らのニーズに合致したサービスを選択し、事業者と対等な立場で契約を結び、より良い生活を確保する」という目的を真に達成させるべく検討・要望を重ねていく必要があると考えております。

(ぎとうあつし 身体障害者療護施設屈足わかふじ園施設長)