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列島縦断ネットワーキング

栃木
全国地域生活支援ネットワーク
とちぎフォーラム in あしかが

鈴木勇二

 去る6月7日に栃木県足利市において「全国生活支援ネットワーク とちぎフォーラムinあしかが」が開催され、約220人が参加しました。昨年は全国生活支援ネットワークの全国巡回フォーラムの栃木県版として「21世紀の福祉を考える」をテーマに宇都宮市で開催されました。今年からは規模は小さくなるかもしれませんが、「栃木県内巡回フォーラム」を始めることになりました。「親の会」の立場で実行副委員長をつとめましたので、フォーラムの概要を感想も交えて報告させていただきます。
 今年は「ほんとうにできるの 地域福祉」をテーマとし、基調講演、二つの講演、二つのシンポジウムから構成されたフォーラムでした。措置から契約へという新しい時代を迎え、だれもが必要とする支援を当たり前に受けながら、地域で自立した生活を送ることが本当に可能になったのか? ケアマネジメント体制は確立できたのか? 市町村は責任をもって居宅生活支援の資源やサービス量を確保できたのか? 財源問題によってニーズが切り捨てられてしまうことはなかったのか? そして利用契約は対等に行われたか? などについて確認しなければなりません。支援費制度がスタートして2か月しか経過していないので、検証は十分できないかもしれませんが、これからの地域生活支援の推進のために、みんなで考えるというのがねらいでした。
 最初の基調講演は、30年余にわたりスウェーデンで活躍してこられた大滝昌之氏の「地域福祉、スウェーデンと日本」でした。スウェーデンでは全国どこに住んでも同じ福祉サービスが受けられ、そのために国が法律で必要な権利を明確にし、これをもとにコミュニティが実施するという形があり、日本よりも高い税金できちんと取り組んでいる現状が紹介されました。わが国では「官」が何事も決め当事者の参加が弱いことが、スウェーデンとの違いの一つであり、「地域福祉」というのが当たり前であり、日本でいう「地域福祉」という訳語さえ通じないほど福祉は自治体が責任をもって実施しているという話は、日本の「地域福祉」との違いを感じるとともに、日本もスウェーデンのようになってほしいと思いました。
 講演1.は、障害者権利擁護で活躍されている弁護士の池田直樹氏による「障害のある人の人権と福祉サービス」でした。わが国では米国のADAのように障害のある人の具体的な権利や差別禁止が法律では示されておらず、現在の「障害者基本法」を具体的な権利や差別禁止を掲げたものに改正する検討が関係団体等で進められていることが紹介されました。利用者に対する施設での事件の背景も、障害者の権利が明確になっていないことが背景にあるのではないか、よかれと思う支援者の独善的態度からの権限乱用が問題であり、セルフコントロールのためのルールを公表する必要があると述べられました。知的障害者では自己決定において、自分らしさを選択する難しさがあり、権利擁護のためのNPOなどをつくることや、リスクマネジメントを確立させるために、ひやっとしたとかはっとした事例を積み重ね、障害者のさまざまな特性を知り、それに応じた目配りで現実的に対応する姿勢が必要であることも指摘されました。
 シンポジウム1の「地域生活を支えるための相談支援体制について」では、支援費制度スタート2か月の各地の状況から、知的障害者のホームヘルプの不十分さ、市町村の財政事情からの制限、市町村担当者の経験不足、ケアプランの十分な検討なしのアバウトな申請などによる混乱の一端が紹介され、ケアマネジメントの重要性が指摘されました。ケアマネジメントの検討に入る前に十分な相談による信頼関係の確立が必要であり、それらに対応するには相談担当者数や相談場所数が不十分である現状も指摘されました。東松山市が従来の障害種別縦割りから総合相談センター体制にしたことによるスケールメリットは、よりよいケアマネジメントにつながると指摘されました。また、栃木県全市町村の相談支援事業サービスを一斉にスタートさせる県の立場から、「栃木県における障害者相談支援事業実施要綱」が紹介され、コーディネーターの資格要件、業務内容、業務評価、資質向上方策を示したことが先進的な取り組みとしてシンポジウムでは評価されました。
 シンポジウム2の「地域生活を支えるサービスについて」では、知的障害への担当者の理解不足の中でのサービス量決定、苦情相談、ホームヘルプ事業の理解不足による低い申請数を実績として、今後のサービス量が設定され予算化されることに対する危惧などが親の会の立場から指摘されました。また、入所者のグループホームとは異なる「在宅者への自活訓練事業」として滋賀県障害者地域生活体験事業の紹介があり、親がかりの生活から地域での生活への移行への取り組みとして、子離れできない父親としては、興味のある事業であると思いました。地元の足利市からは、負担がないならもらえるものはもらっておこうという時代は過ぎたという指摘や、介護保険との均衡を考えた利用者負担についても述べられました。
 講演2の「これからの地域での自立生活の構築のために」では、厚生労働省社会援護局障害保健福祉部企画課障害福祉専門官の大塚晃氏から、支援費制度への移行や一般財源化に対する経緯や今後の動向が述べられました。市町村格差のある現状で、措置から契約に移行した混乱や、一般財源化に踏み切ったことによる問題点の解決方策としてのモデル事業が紹介されました。各市町村の福祉サービス体制の現状は大きな格差があり、それぞれの市町村が現状のレベルを分析し、それに応じたステップアップを図り、新しい制度を軌道に乗せてほしいと思いました。
 後には戻れません。支援費制度がスタートしたばかりの混乱を早く抜け出し、日本国内のどこに住んでも必要なサービスが受けられる時の早期到来を期待いたします。

(すずきゆうじ とちぎフォーラム実行委員会副委員長、財団法人栃木県知的障害者育成会副会長)