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地域代表者会議
―アジア太平洋地域の聴覚障害者が
抱える問題をどう解決するか―

小椋武夫

 地域代表者会議(10月22日~23日、バンコク)からアジア太平洋地域の聴覚障害者の現状を述べたい。
 まず、昨年、最終年を迎えた「アジア太平洋障害者の十年」(以下「十年」)について参加した各国の反応は、多くの代表者から十年の「行動課題」および行動課題実施のための「73の目標」や「107項目」などの情報が、政府から各国のろう協会に十分に伝わっていないという驚くべき報告があった。本来ならば、各国の政府がそれぞれの言語に翻訳して国内に発表することを承認され、その責務を負っているはずだが、政府関係者はそれを果たしていないのではないかという問題が上がった。
 マレーシア代表「ESCAPなどにマレーシアからも政府の代表者が出席しており、障害者に関する条約などを知っているはずなのに、本国のろう協会には知らされていないことが多い。」
 フィリピン代表「これまでフィリピンろう協会は、政府から十年に関する情報を提供されることがなく、国内の障害者運動から取り残されている。国内で十年に関する障害者の集会に参加しても、通訳者が配置されていないため、情報の格差がある」。
 このような重要な問題を受け、地域事務局として、これからの新たな十年では、各国のろう協会が国連などからの情報をいつでも正確に受けることのできる組織体制を確保し、情報の格差を無くすことをめざす活動方針を決めた。また、十年に関する課題だけでなく、各国のろう者が現在、直面している問題にはどんなものがあるかを確認した。
 フィリピン代表「政府が安定しておらず、横領や不正などが多発している。また、内閣がよく変わり、それに従って障害者に対する方針がよく変わるので、福祉の向上がなかなか進まない。」
 タイ代表「今までの10年間で、ろう者が運転免許を持てるようになるなど障害者を取り巻く環境が大きく変わり、生活環境が整備されてきた。しかし、手話通訳者に関してはまだ課題が残っている。」
 中国代表「ろう者の運転免許取得が認められている地域と認められていない地域がある。しかし、自動車は高価であり、まだ一般的に浸透していないので現実的な問題とはなっていない。」
 インドネシア代表「全体的にろう者の状況はまだ良くない。ろう運動はジャカルタ島が中心になっており、その他の辺境や諸島ではろう者が集まりにくいため組織作りは困難である。十分な教育も受けられず福祉も受けられない状態であり、都会と地方との格差が著しい。駅では肢体障害者に対する配慮がなされるようになったが、乗り換えや到着駅の案内などを知らせる電子掲示板が設置されていない。交通機関でも同様であり、ろう者の事故が起こっているので改善が早急に求められている。」
 フィジー代表「労働賃金に格差があり、ろう者は健聴者に比べて給料が低い。」
 シンガポール代表「交通機関に関してはろう者を配慮した法律は定められているが、特殊教育に関する法律がなく、ろうの子どもが特殊教育を受ける保障がなされていない。」
 マレーシア代表「各国の情報を集めて整理し、監視する組織や体制が必要ではないか。それも、ろう者だけに焦点をあてた情報が必要である。」
 パキスタン代表「多くのろう者が読み書きができないという問題がある。提案だが、同言語のベテラン教師を他国から招いて指導してもらうという方法はどうか。」
 モンゴル代表「現在、協会活動がなかなか進まない状態。活動のあり方を勉強したいので、地理的に近い中国と、これからお互いに協力しあって活動するのはどうか?」
 イラン代表「昔は女性に対する社会的制限が多かったが、今は改革が進んであらゆる場で男女平等になっている。いまだ女性は顔を覆わなければならず、クラスでも男性とは席が分けられてはいるが、差別的な抑圧はほとんどない。イランろう協会の理事会にも女性の理事がいる。裁判には手話通訳者の同席は認められて通訳者に対する諸費は政府から支給される。ただ、政府から通訳者が保障されているのは裁判のみであって、学校などの通訳には政府からは謝礼金の支給はない。」
 ラオス代表「ろう学校が首都にあり、職業訓練が受けられるが、首都以外の地域に在住しているろう者の情報が把握できないので、全国的に集まることが難しく、ろう協会もまだ設立されていない。学校へ通えるのは全体の30%。」
 ミャンマー代表「ろう協会を設立するのはまだ難しい状態。ろう学校はあるが、卒業しても就業できずに再びろう学校に戻ってくるろう者が多い。」
 このような問題が解決されるためには政府の大きな助けが不可欠であるが、これからは地域事務局として外務省、JICA、各国政府等にアジアのろう者の置かれている状況をきちんと説明し理解をいただき、一日もはやく解決していく方法を見出したい。
 最後に、現在検討している障害者の権利条約の中に、「障害を持つ人々及びこれらの人々の家族、支援者などが、代表権の確保と自力活動を行うために、独立した組織を作ることを認めなければならない。国がこのような組織を認め、経済的支援をする。従って市民的、政治的権利の実現が前提な条件である」という条項が書いてある。これは多くのアジア太平洋地域のろう者の最大の願いである。地域事務局としても、この条約の早期実現のためにアジア太平洋地域の関係者と共にこの活動を推進していく所存である。

(おぐらたけお 全日本ろうあ連盟アジア太平洋地域事務局担当)