音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

支援費検討委員会の
当面の問題と今後の課題

大濱眞

1 当面の緊急課題

 平成15年1月、上限問題に関する混乱で障害者団体と厚労省が話し合いを重ね「国庫補助金配分基準に関する考え方」が示された。しかしこの基準は、実質的に支給量の上限と類似した数値(財源無くして支給量はない)と都道府県、市区町村は捉えている。また将来的に国庫予算削減の可能性が高いと地方自治体は予測し、支援費制度は円滑に動いていない。「利用者本位」の選択できる制度で「自己決定の尊重」と厚労省が言う言葉は現実的に絵空事になりつつある。実際、ホームヘルプサービス(身体・知的・精神)の16年度概算要求額は、15年概算要求額342億円とほぼ同水準となっており、この費用が国の義務的経費でなく裁量的経費であることを考慮すると、16年度予算が15年度より厳しいことは今から予測される。
 最近の情報では、4、5月分の都道府県よりの予算要望額を年度予算換算ですでに10%を上回っている。従って、配分不足分への対処、補正予算を組めるか、厚労省の内部予算でやりくりできるか、全く予断を許さない状況である。今後の対応次第では、厚労省に対する不信感が強まる可能性がある。16年度概算要求額満額でも、16年度は予算不足であろう。
 さて支援費に関する検討委員会の課題としては、最低次の8点程度あろう。
 (1)サービスメニュー、(2)施設から地域へ、(3)相談体制、(4)介護保険との関係、(5)財源問題、(6)医療類似行為、(7)就労支援との関係、(8)事業者基盤整備(パーソナルアシスタント・ダイレクトペイメント)である。
 これらは、互いに関係しているが、すべての検討は時間的に無理だ。委員会でどこに絞り込み議論し意見を纏(まと)めるのか、早期での整理を要するが、この稿では、現時点での重要課題について言及する。

 ここで財源問題だが、冒頭で述べたように、財源無くして支給量はないため、財源論は支援費制度の根幹である。この財源確保は、厚労省と財務省の交渉事であるため委員会の役割にも自ずと限界があるが、なぜ、支援費制度に移行後もこの制度に対する予算が「裁量的経費」で「義務的経費」でないのか?  委員会で議論し、委員会として結論を出し、より法的制約のある社会保障審議会や厚生労働委員会へこの検討委員会の意見を反映させる必要がある。

(参考)身体障害者福祉法の「裁量的経費」と「義務的経費」について

 身体障害者福祉法三十七条二項2「国は、政令の定めるところにより、第三十五条の規定により市町村が支弁する費用のうち、(中略)市町村が行う居宅生活支援費又は特例居宅生活支援費の支給に要する費用に限る。」については、その十分の五以内を補助することができる。

 支援費移行後も、「施設訓練等支援費を国は負担し(義務的経費)」「居宅介護支援は補助することができる(裁量的経費)」の文言では納得できない。地域移行を謳(うた)った新障害者プランとも相容れない。
 私たち障害者はまた再び厳冬の中、厚労省を包囲するような抗議行動をしなければならないのか?

2 介護保険との関係について

 平成17年(2005年)介護保険の見直しに向けて、この障害者の支援費制度と統合させる動きがある。このような動向を踏まえ、当面のポイントとなる検討事項をここで整理する。

●支援費を介護保険に組み込んだ場合の問題点

 介護保険の場合に問題なのは、幅広い障害者特有の支援ニーズ、ライフステージに対応した支援や、重度障害者の自立や社会参加への支援ができなくなることである。それはADL中心の要介護度認定での支援サービスは、この多様なニーズを想定した仕組みとなっていないことによる。
 現在一部で提案されている、「2階建て方式」は、保険の部分で要介護度5(月額35万8千円)までを1階部分とし、不足する介護支援に要する費用(2階)は税でという仕組みである。しかし、現実問題として、2階の税によるところが介護保険に移行し、必ず担保されるという保障はない。現在の支援費と同様、先細りとなる可能性が高い。
 また「2階建て方式」の欠陥は重度障害者の場合、1階より2階部分が大きくなる施策は、現実的ではない。国際的にもドイツ以外、障害者の福祉施策は、税による施策である。日本の障害者施策の根幹である支援費を保険で賄うとの考えは、福祉施策の理念から後退し、制度的にもその基本を逸脱している。

3 最後に

 このような国内外の施策を俯瞰(ふかん)し、介護保険の2分の1が国税である現状も勘案し、国民全体の合意として消費税による福祉目的特定財源での財源確保も視野に入れ、議論する必要に迫られている。
 「障害者が地域で自立し普通に暮らす」という当たり前のことを実現していくために、介護保険に組み込むことで本当に実現できるのか。各種障害者、障害者団体と共に考え、多くの障害者団体と協同し連携のとれた体制で、すべての障害者が結束することがその前提条件である。

(おおはままこと 全国脊髄損傷者連合会副理事長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年12月号(第23巻 通巻269号)