音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

新春メッセージ 障害者権利条約採択に向けて~NGOの仲間たち

権利条約に3つの「E」を

アドナン・アル・アバウディ
LSN(対人地雷生存者ネットワーク)ヨルダン局長
障害者権利条約起草のための国連ワーキンググループ西アジア代表

コフィ・アナン国連事務総長は、障害者の権利の推進と保護のための包括的かつ完全な国際条約の策定をめざした国連特別委員会の第2回会合で演説をし、特別委員会の発足のきっかけとなった国連総会の決議案について言及した。事務総長は、同委員会を「有意義なものである」か否かは我々全員にかかっており、それがひいては障害者権利条約の実現につながることを強調した。ワーキンググループのメンバーの多くは、長年にわたって障害者の人権に関する条約の締結を主唱してきた人間でもあり、今回の任務に取り組む姿勢は真剣である。

障害者権利条約はどうしても必要である。ペレス・デクヤエル元国連事務総長は、「障害者は毎日のように自らの人権を守るための闘いを強いられている」と述べている。

考えてもいただきたい。

障害者は、職場、学校、ヘルス・ケア施設、政府、レクリエーション施設をはじめ、社会的なあらゆる場面で差別に遭遇することが多い。およそ82%の障害者は途上国に住んでおり、その多くは深刻な貧困にあえいでいる。中には、障害者に財産の相続を認めなかったり、パスポートの所有、結婚、裁判での証言、子どもの後見人になることなどを禁じたりしている国もある。

世界人権宣言は、「すべての人間は生まれながらにして自由であり、尊厳と権利とについて平等である」と言明している。障害者も国際的な人権制度の対象であることは明らかであり、人権に関する法的文書が掲げるすべての権利を有する存在である。しかしながら障害者に対する虐待や差別は絶えることがなく、組織的に行われている。世界中で6億人とも言われている障害者の権利の保護に失敗すれば、人権の枠組み全体を脅かすことにもなりかねない。

女性や児童、少数民族など、他の社会的弱者を擁護したり、その人権を尊重したりするための特別人権条約はすでに採択済みである。これらの条約は、人権に関する基準を特定の人々にも適用する重要性を示している。今こそ我々も障害者の特別人権条約を策定・実施することで、障害者の人権を実現すべきときを迎えているのである。

ワーキンググループは27か国の政府、1つの全国規模の人権団体、12のNGOによって構成されている。2004年1月に召集され、2004年の夏に開催される次回の特別委員会のために、条約の草案を準備し、発表する権限を与えられている。私自身も西アジア(アラブ諸国)を代表するNGOとして、ワーキンググループの一員に任命された。

ワーキンググループのメンバーとして指名を受けたことは、誠に光栄である。あまりにも長い間、障害者は意思決定の場から締め出され、「専門家に任せなさい」と言われ続けてきた。その点からも、今回のワーキンググループと特別委員会のプロセスは、歴史的にも特別な意味を持つといえよう。なぜなら障害者に直接かかわる国際的な決定に対して、障害者自身がこのように広く深くかかわるのは初めてだからである。これはつまり「私たちを抜きにして、私たちのことを決めないで(Nothing about us without us)」という我々の訴えに、ついに国際社会が耳を傾けたことを意味する。

ワーキンググループのメンバーとなったNGOも、この責任を真剣に受けとめている。我々は条約の策定過程に直接かかわることができない人々の代表者として、これらの人々の意見が反映されるよう努力すべき立場にある。この新条約について話し合うための地域会合はすでに数多く開催され、多くの障害者ならびに当事者団体が参加してきた。

10月21日および22日には、ラエド・ビン・ザイド(Ra’ad Bin Zeid)殿下の後援を受けているヨルダン対人地雷生存者ネットワーク(LSN)も、ヨルダン全国障害者協議会との共催で、専門家による円卓会議および地域会議を開催し、障害者の人権に関する新条約の起草問題を取り上げた。同会議に先立って、10月18日と19日には研修のためのワークショップが行われ、当該地域の当事者団体のリーダーが参加した。ワークショップの参加者らは、新条約の草稿に対して、アラブ的な見解を盛り込んだ勧告声明を準備した。私は同地域を代表するNGOの立場から、この見解を携えて、1月に開かれるワーキンググループの会合に臨む予定である。

我々が起草しているのは、特別な人権条約であり、すべての人々に保障された市民的・政治的・経済的・社会的・文化的人権を網羅した包括的なものであると同時に、障害者の現実を踏まえたものでなければならない。またこの条約が言葉だけで終わらないように、障害当事者も参加して、強力かつ効果的な監視と実施のメカニズムを構築する必要もある。

私個人としては、新たな条約が、次に上げる「3つのE」を満たすことを希望している。

  • 人権の享受(Enjoyment)
  • 機会の平等(Equalization)
  • 効果的な(Effective)実施

また私が同条約に対して抱いているビジョンは、障害者に以下のような権利を保障できる存在としてである。ヘルス・ケアや教育の恩恵、自分自身の生き方の決定、情報へのアクセス、家族との生活、コミュニケーションの保障、移動の自由と公共の場のアクセシビリティ、投票権と参政権の保障、自己決定権とその行使、つまり新しい条約は、だれも半人前と見なされることなく、かつ社会に貢献し得る人材として認められる世界を作るための一手段となるべきである。

この障害者のための人権条約は、単なる法律上の文書ではない。これはまさに米国の活動家であるジャスティン・ダート氏が、「個人のエンパワメントのための革命」と呼んだものである。政府と障害者と市民社会がより密接に協力し、「私たちを抜きにして、私たちのことを決めないで(Nothing about us without us)」という我々の訴えを指針として掲げることで、慣例やバリアや偏見のない新しい世界が築かれてゆくはずである。