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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

新春メッセージ 障害者権利条約採択に向けて~NGOの仲間たち

未来を開く条約

ロバート・マーチン
国際育成会連盟副会長

セルフ・アドボカシーの分野で活動を始めた当時、私には学ぶべきことがたくさんありました。何年か経ったころには、知的障害者の生活について、またその改善にとって何が必要かについて、よく分かってきたと思いました。

その後、私は世界各地を訪ねるようになりました。いろいろな人との多くの出会いがありました。さまざまな文化、さまざまな人生経験、家族のさまざまな期待、貧困について学び始めました。そして、自分と同じ障害をもつ多くの人々の生活についての認識が非常に乏しいことを自覚したのです。

一口に障害といっても、多種多様です。私たちは皆、自分ならではの人生経験、能力、ニーズをもった個人です。世界中のすべての人々と同様、私たちはそれぞれが唯一無二の、重要な存在です。私たちの障害だけに目を向け、私たちが皆同じであるかのように接することは、やめてもらわなければなりません。

こうした経験と、幼少期に施設で生活した経験とがあいまって、私のセルフ・アドボカシー活動の原点となっています。私たち障害者の経験に焦点を当てるべきであることを、人々に知ってもらうよう努めています。

私はまず第一に、障害に関する条約はいかなるものも、すべての障害者の現実に主眼を置くべきであると考えます。私たちのことを何も理解していない人々によって、私たちの生活に関してあまりにも多くのことが書かれています。私たちは自分の人生の生き方について指図を受けたくはありません。他人は私たちになりかわることはできませんし、私たちの人生を体験することもできないのです。

条約はいかなるものも、平易な言葉で書かれなければなりません。国際連合から出される文書の多くは、読みにくく、国連独特の言い回しが使われているように思われます。規則や慣習についての記述ばかりが多く見られ、その文書が書かれた本来の目的が忘れられているという印象を受けます。条約は、明快で分かりやすく、手話や点字を含めたすべての言語に翻訳可能でなければなりません。

すべての障害者に適用されるような重要原則を打ち立てる必要があると、私は感じています。たとえば、私たちの人間としての価値、お互いを尊重する権利、自分の障害に関する情報を得る権利、家族の中で成長し、地域の中で生活する権利、などです。

私たちの生活がどうあるべきか、またあり得るのかを、私たちは声に出す必要があります。私たちの多くが日常生活の中で受けている偏見や差別が、どのような影響をもたらすかを訴えていくことが必要です。地域の中で生活するだけではなく、地域生活に参加することが、私たち一人ひとりにとってなぜ重要なのかを、説いていく必要があるのです。

私たちは、障害者が子ども時代にどのような処遇をされるべきかについて、書き記す必要があります。私たちは、親の息子や娘として、他の家族とともに自宅で生活することが可能であるべきです。私の友人の多くは、子ども時代が奪われたと感じ、何よりも増して、子ども時代を取り戻したいと願っています。

私たちの中には、時折支援を必要とする人もいれば、ただ生きるために多くの援助を必要とする人もいます。こうした支援や援助がどのように提供されるべきかを、私たちは訴える時に来ています。支援・援助は私たちの実情に合致するとともに、私たちを尊重するものでなければなりません。多くの人々が、支援提供の方法ゆえに、完全に無力な存在になっているからです。

私たちは、障害をもつ子どもの親や家族が必要とする支援・援助についても語る必要があります。地域で生活することが、私たちにとってどのような意味をもつのかを論じることが必要です。たとえば、仕事、地域の活動へのアクセス、スポーツや娯楽、などです。これらは、私たちに与えられないか、あるいは別の団体に入って参加しなければならない活動です。

障害をもたない人々の多くは、私たちが病んでおり、私たちの生活の周辺には常に多くの看護師や介護者がいるものと思っています。私たちへの支援は社会的な問題であり、医療面の問題ではありません。地域の人々と同様、私たちも保健衛生上のニーズはもちろんありますが、だからといって、私たちが医療の世界で生活しなければならないということにはなりません。

私たち障害者の多くは、友情や人間関係で苦労します。私たちは、地域の人々と同じように友情や人間関係を築くため、自らの権利を主張することが必要であり、支配される必要はないのです。

私たちが必要としているのは、すべての障害者の精神を高揚させるような条約であると思います。条約は、私たちが地域で正当な位置を占めることができるよう私たちを支援する政府、機関の双方を後押しするものでなければなりません。

私たち知的障害者を代表する国際育成会連盟などの非政府組織は、今後制定される条約が拠りどころとするべき理念の醸成という点で重要な役割を果たしてきました。家族と私たち知的障害者とのパートナーシップが構築されてきたことによって、国際育成会連盟は私たちの代表として、私たちの権利と地域へのインクルージョンのいずれをも強力に主張することができるのです。私たちは、社会に変化を起こすうえで、家族の力や私たち自身の力を、決して過小評価してはなりません。

何よりも必要なのは、障害者、家族、障害者の利益を代弁する組織、政府の間のパートナーシップです。それによって、能力の如何にかかわらず、人が人として尊重されるしっかりした地域社会が構築されるのです。すべての人の真のパートナーシップと公正の原則に立脚するならば、条約がこの目標を達成することは可能であり、きっと実現するでしょう。

私たちはもはや、それぞれの国の二流市民に過ぎないなどという考え方を受け入れてはなりません。障害の種類にかかわらず、私たちは市民としての権利を享受し、あるがままの人間として尊重される権利をもっているのです。