音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年2月号

先端技術を応用したコミュニケーション支援技術

高橋幸太郎
阿部紗智子

1 コミュニケーション支援技術と先端技術

障害のある人の多くがコミュニケーションに困難を抱えている。聴覚に障害があると、他人の話す内容が聞き取れず、理解できないままになったり誤解を生じたりすることがある。言語に障害があると、一生懸命話しても意図することがなかなか伝わらないということが起こる。また、知的障害や自閉症の人は考えをうまく言葉で説明することができなかったり、言葉によって伝達するということ自体を理解できないこともある。このような人も、コミュニケーション支援技術を使うことで他人とコミュニケーションが成立するようになったり、よりスムーズなコミュニケーションができるようになる。

機器を使ったコミュニケーション支援技術としては、1980年代後半からVOCA(音声出力コミュニケーションエイド)や意思伝達装置と呼ばれる装置が使われるようになってきた。これらの支援機器は、コミュニケーションエイドと呼ばれ利用者のコミュニケーションを拡げ、生活をより豊かなものにしてきた。近年では、コンピュータ技術や通信技術の進歩によりコミュニケーションエイドにも新しいものや高度なものが現れている。通信機能を備えた新しい支援機器は、障害のある人の生活をもっと豊かで楽しいものにする可能性をもっている。

2 これまでのコミュニケーション支援機器

1990年代に入ると、電子技術を応用したVOCAやコンピュータ技術をベースにした意思伝達装置が数多く市販されるようになってきた。

VOCAというのは、キーを押すとあらかじめ録音しておいたメッセージを再生したり、キーボードでメッセージをつづり、それを発声させることのできる携帯型のコミュニケーションエイドのことである。意思伝達装置は、呼気スイッチや押しボタンスイッチを用いたスキャン入力方法などで50音表から文字を選択し、文章を作成するコミュニケーションエイドである。ほとんどがパソコンを利用した据え置き型になっている。意思伝達装置は、ALSや筋ジストロフィーなど全身の筋肉が衰えて会話をすることも困難な人が、残存する機能を用いてメッセージを作成して伝えるために利用することが多い。それに対して、VOCAは会話の補助手段として場合を限定して利用される。

しかし、これらの装置は部屋、あるいは車いすに設置し、対面した人とコミュニケーションすることを主たる目的としており、いつでも、どこでも、だれとでも実用的に話ができるかというと限界があった。

3 新しいコミュニケーション支援機器

21世紀に入ると通信技術やメモリーの大容量化、また、装置の小型化によって従来のコミュニケーションエイドがさらに進化してきている。以下にいくつかの特徴的な製品を紹介する。

(1)携帯電話やインターネット利用のニーズへの対応

パソコンや携帯電話の普及が進み、電子メールやホームページ閲覧といったインターネットの利用率は人口の50%を超えるほどになった。障害のある人の間でも携帯電話やインターネット(電子メール)を利用したいという要求は高まっていて、コミュニケーションエイドの中にも通信機能を組み込んだものが現れている。

『トーキングエイドIT』

50音のキーを使って文章を作成して読み上げることができるVOCA。PHSカードを挿入すると通話や電子メールの送受信もできるので、遠くにいる人ともコミュニケーションがとれるようになる。漢字変換することができ、キー入力の負担を低減するために、入力の途中でも後に続く文を予測して変換候補を表示する予測変換機能もついている。

◆問い合わせ先:㈱ナムコ
 03―3756―8615
 http://www.namco.co.jp/welfare/index.html

トーキングエイドIT
写真 トーキングエイドIT

(2)盲ろう障害のある人とのコミュニケーションニーズへの対応

視覚と聴覚の両方に障害がある盲ろう者の場合、指点字(左右各3本の指で点字を表現し、言葉を伝える方法)や触手話(手話を触って読み取る方法)といった特殊な技術を使わなければコミュニケーションがとれないという人もいる。指点字を機械的に再現して会話できるようにしようというコミュニケーションエイドも出てきている。

『ユビツキィ』

指点字の原理を応用した盲ろう者用コミュニケーションエイド。端末機には握ったときに人差し指、中指、薬指、小指の指先が当たる部分に押しボタンとしても機能する振動子がある。指点字のパターンにあわせて送信端末の押しボタンを押すと、受信した端末の同じ部分が振動して文字が伝わるようになっている。パソコンで文字を入力して送信したり、受信した文字をパソコン画面に表示することもできるので、点字が分からない人も盲ろう者とコミュニケーションをとることができる。文字情報は赤外線通信で伝えているが、Bluetoothという無線による通信機能も備えていて、将来はさまざまなものを操作できるようになる予定でいる。

◆問い合わせ先:日本エコロジー(有)
 04―7135―8088
 http://www.j-ecology.co.jp

ユビツキィ
写真 ユビツキィ

(3)生活の中での機器操作に対するニーズへの対応

コミュニケーションエイドは、人と人とのコミュニケーションを支援するだけでなく、テレビやエアコンなどを操作する環境制御装置の機能を持つものが多く現れるようになった。パソコンをベースとした意思伝達装置だけでなく、VOCAでも環境制御できるものが増えてきている。

『ダイナモ』

液晶タッチパネル式で、表示画面を切り替えながら目的のメッセージを探して音声出力できるVOCA。画面を編集したりメッセージを録音することができる。赤外線リモコンの信号を記憶することができ、テレビやビデオ、エアコンなどの操作をすることもできる。

◆問い合わせ先:㈱アクセスインターナショナル
 03―5248―1151
 http://www.accessint.co.jp

ダイナモ
写真 ダイナモ

前述の製品を含め、国内で手に入れることができるコミュニケーションエイドをはじめとした支援機器の情報は、こころWeb(http://www.kokoroweb.org/)やこころリソースブック(こころリソースブック出版会 http://homepage2.nifty.com/kokoro-rb/)を参照。

4 コミュニケーション支援機器の今後

技術の進歩は急であり、最新技術を利用した製品が日々生まれてきている。ICタグや情報家電といった技術は我々の生活を大きく変えると考えられているが、障害のある人にとっても便利な技術であるに違いない。

たとえば、ICタグを利用すれば買い物をしたときに読み取り装置の近くを通るだけで、何をどれだけ買って、いくら必要かがわかる。そして、財布を取り出さなくても、支払いがすぐに済んでしまう。JR東日本のSuicaのように、すでにこれに近い技術が使われているが、将来はどこの店でも共通で使うことができるようになるだろう。

また、テレビや電子レンジ、エアコンなどがすべて情報家電に置き換われば、ネットワークを通じて操作することができるようになる。そうなると手元の携帯電話で冷蔵庫の中身や、隣の部屋の電気がついているかといったことを知ることもできる。さらに将来は家の中だけでなく、エレベータやATM、券売機など、街中の機器も操作できるようになるかもしれない。

その技術自体を組み込んだコミュニケーションエイドの出現も近いと考えられる。そうなると、これまで人に頼まないと困難だったさまざまな活動の多くを障害のある人がコミュニケーションエイドを使って自分でできるようになっていく。このことは障害観をも大きく変えていくに違いない。

ただ、ここに述べた未来の実現には一つの問題をクリアする必要がある。障害のある人がそれらのエイドを使えるようになるには人の支援が不可欠である。技術の進歩があっても障害のある人にその技術を届けるのが人であるということは将来も変わらないであろう。そこで、コミュニケーションエイドなどの支援技術の知識をもった支援者の養成が望まれている。

この問題について、2003年からはインターネットを通じて電子情報支援技術(e―AT)を学べるe―ATオンライン(e―AT利用促進協会 http://www.at-online.jp/)という研修プログラムがスタートしている。また、e―ATに関する知識の習得を認証する福祉情報支援技術コーディネータ認定試験(全日本情報学習振興協会 http://www.joho-gakushu.or.jp/)も行われている。このような研修プログラムや認定試験を通じて、障害のある人たちの福祉や教育サービスに携わる人々が支援技術の知識を身につけていくことが待ち望まれている。

(たかはしこうたろう・あべさちこ 電子情報支援技術(e―AT)研究センター)