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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年2月号

列島縦断ネットワーキング

宮城 第3回福祉セミナーinみやぎ 地域での当たりまえの生活を目指して
~船形コロニーの解体宣言そして1年~

小野隆一

「第3回福祉セミナーinみやぎ」が2004年1月11、12日に仙台市で約600人が参加して開催されました。

テーマは、前回のセミナーで主催者の宮城県福祉事業団が宮城県から受託している入所定員500人の大型知的障害者施設「船形コロニー」の利用者の地域生活移行を推進し、施設を2010年までに解体するとした宣言を受け、この1年間の船形コロニーの取り組みの状況報告と、重度の知的障害者の地域生活移行に必要なこと、そしてそれを支える支援費や介護保険制度のあり方について討論しました。

「当面3年間で150人の地域生活移行」

基調報告では、相原芳市船形コロニー総合施設長が、この1年間の取り組みとその課題についての報告を行いました。

船形コロニーでは1995年度から取り組んでいる「自立訓練ホーム事業」により、すでに72人が地域生活に移行していることもあり、本人の個別援助計画などにより当面3年間で150人が移行する目標を立て取り組んだ結果、本年度については50人を超える利用者が移行する見通しであり、入所定員も65人削減することが可能になったとの報告がありました。

本人の意思を大切に

シンポジウム1では、「重度の方が地域生活を送るために必要なこと」と題して、コーディネーターに渡辺次男氏(埼玉県・久喜啓和寮施設長)、パネラーに日浦美智子氏(神奈川県・訪問の家理事長)山田優氏(長野県西駒郷自律支援部長)黒田秀郎氏(宮城県障害福祉課長)を迎え、討論が行われました。

長野県の大型施設「西駒郷」で脱施設を進めている山田氏は、500人定員の施設を地元での支援規模である190人程度に縮小する計画だが、本人の意向を大切にしており、聞き取り調査を行うほか、自分の意志を表現できない利用者については、実際に生活体験をしていただくことで確認しているとのことでした。

黒田氏は、解体宣言は地域生活をするために必要な支援システムについて何をめざし作っていくのかを考える機会としてとらえ、県の施策推進協議会で検討し、住まい・日中活動・相談支援について、重介護型のグループホームやデイサービスへの人的加算事業・看護師などの医療的ケアの巡回支援システムなどの施策を県として考えているとのことでした。

日浦氏は、重症心身障害者の地域生活を維持するためにグループホームを作ってきたが、支えられてきたのは職員のみんなで守ろうという基本的な意志改革であったとのことでした。また地域で生活するうえで必要なことは、身体的リハビリだけでなく、情緒のリハビリも必要であり、自分の存在を認められることでの生きがいを見いだすことができるとのことです。さらに看護師とそれをバックアップできる医療体制があること、そして、サポートするうえでのケアマネジメント体制の充実が必要と述べられていました。ただし、本人の願いとして親元に帰りたいということであれば、親も支える仕組みを作るべきだと述べています。

「施設解体」そうした時期が来た

鼎談では、施設解体について各立場からのトップセミナーとして、行政側から浅野史郎氏(宮城県知事)、サービス提供側から松下良紀氏(日本知的障害者福祉協会副会長)、家族側から藤原治氏(全日本手をつなぐ育成会理事長)を迎え討論が行われました。

浅野知事は、施設解体宣言を宮城県福祉事業団が職員組合を含めて、自分たちの専門性を施設福祉から地域福祉の担い手へ転向することを宣言するものとして、革命的な意義あることと評価していると述べています。

さらに、宮城県福祉事業団の解体宣言をついて宮城県は全面的に賛同するもので、宮城県では民間施設も含めて、時間はかかるだろうけれども、解体ということをめざしていくべきと考えているので、この議論を深めていきたいと述べています。

藤原氏は、育成会は、権利擁護団体で権利侵害は絶対に許さないという立場と、消費者団体として福祉サービスを買うという消費者意識を高める立場にあることから、良い事業所を育て、そうでない事業所には消えてもらおうと考えていると述べられました。また、船形コロニーの解体宣言には全面的に賛同しており、家族の不安や反対がでてくるのはわかるが、宮城や長野の地方からの1割の取り組みが世の中全体を変えていくものだと考えていると述べています。

松下氏は、結論からいって、個人的には諸手をあげて賛成すべきと考えており、現に施設で働いている人々に自分の仕事に誇りを持てるようにというところに常に思いを寄せており、育成会の施設に対する需要がなくなれば消滅していくという自然の摂理ということに対しては、その前によりよいサービスをめざして、施設が地域生活を支援していくための下支えとしての役割を担っていくことを考えていると述べられました。

当たりまえの生活には共生型の生活支援を

2日目のシンポジウム2では、「障害者と高齢者が共に生活すること」と題して、コーディネーターに小林繁市氏(伊達市地域生活支援センター所長)、パネラーに阪井由佳子(富山県にぎやか理事長)本間照雄氏(宮城県地域生活支援室長補佐)中島秀夫氏(滋賀県社会福祉事業団事業部)を招いて討論が行われました。

地域生活支援が障害別に取り組まれるのではなく、さまざまな障害や高齢者向けサービスを制度の枠を超え、ともに選択して利用できる共生型・複合型なサービスの有効性を、先駆者から報告していただきました。

最後に、記念講演として「市町村が主体となる地域支援のこれから」と題して、高原弘海氏(厚生労働省障害福祉課長)より平成15年4月より始まった支援費制度に伴い、援護の実施者となった市町村の支援体制のあり方を、所見を述べていただきました。

福祉セミナーも回を重ねるごとに参加者が増えてきています。施設から地域生活への移行のシステムづくりにこだわってセミナーを開催してきました。宮城県福祉事業団の取り組みだけでなく全国の先駆的な取り組みについて、これからも情報を提供していきたいと考えています。

なお、詳しい内容は報告書として3月までにまとめられます。お問い合わせは宮城県福祉事業団まで(TEL 022―263―0949)。

(おのりゅういち 宮城県福祉事業団地域福祉部次長兼企画課長)