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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

列島縦断ネットワーキング

東京 出版物のアクセシビリティを考えるセミナー2004を終えて

川上正信

私たち「公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)」は、去る2月7日(土)に表記のセミナーを、東京都中央区の日本図書館協会を会場に開催しました。当日は会場の定員を超える130名が集い、参加者の感心の高さを示しました。

さて、いま、なぜ、出版物のアクセシビリティなのか? セミナーのサブタイトルでは、「著作権・出版権・読書権(アクセス権)の調和をもとめて」としました。社会生活のさまざまな分野で、バリアフリーな設計や商品が考えられるようになってきました。情報通信の面でも、WEB・アクセシビリティが叫ばれていますが、活字のままでは読書がしづらい、あるいは困難な人への情報保障は、視聴覚障害者情報提供施設や公共図書館のサービスを利用することでしかなされてないのが実情です。活字以外の媒体で、個人が入手できる出版物はほんのわずかに過ぎません。

本セミナーでは、著作者の権利を尊重しながらも、どのような道筋をつくれば障害者が自身の望む媒体で読書や学習ができるのかを、発表者・参加者で考えようというのが目的でした。著作者・出版社・ユーザーが相互に学び合うところから、最初の一歩を踏み出そうと考えました。

1 バリアフリー出版とは

バリアフリー出版とは、一般の文字の本の出版に合わせ、点字版・テープ版・大活字版・DAISY版(CD―ROM)・テキストデータ版等の多用な媒体で、ほぼ同時期に出版する方法です。これによって、一般の文字の本では読書が困難な障害者が望む形態で読書を楽しむことができるようになります。このバリアフリー出版という方法は、一般の出版社ではなされていないので、バリアフリー出版を手がける専門の製作会社やボランタリーな活動に委ねられ、2年ほど前から始まったばかりです。この際、これらの活動は、二次出版ということになり、著作者や出版社の許諾が必要となります。

2 セミナーの概要

本セミナーは、コーディネーターに出版ニュース社の清田義昭氏、著作権法助言者に国立国会図書館の南亮一氏を招いて進められました。

以下、各発表者の要旨です。

(1)バリアフリー出版を試みて ―理想と現状のはざまで―
松井進氏(なごや会)

「これまで4作品を執筆しバリアフリー出版を試みた。価格のバリアフリーのためには、点字図書で制度化されている公費による価格差保障が、他の媒体でも必要である。バリアフリー出版は、“著者の理解が実現の鍵”であるが、出版社の理解も欠かせない。そのためにも、著作権料を払い、ビジネスとして取り組んでもらうべきではないか」

(2)図書館の現場から見た障害者サービスの現状と課題
佐藤聖一氏(なごや会)

「公共図書館における資料製作は、1.リクエストを受け、どの図書館も所蔵していないことを確かめて製作。2.点字図書館を含め、他の図書館が所蔵しているものは相互貸借により提供し、製作はしない、という原則で実施している。「健常者に流用されるのではないか」という、著作者の危惧があると聞くが、身体障害者手帳で利用者確認をしたうえで貸出しており、一般の人の利用はできないようなシステムである。録音資料製作のための許諾事務については、手間と時間がかかる。外国人著者の録音は事実上不可能である。複数著者の許諾事務の膨大化、許諾されず提供できない等の問題がある」

(3)バリアフリー資料の制作者の立場から見た現状と課題
山本澄子氏(音訳サービス・J)

「当社は1991年4月に設立された音訳事業を内容とする会社である。テープ版広報の製作と公共図書館の障害者サービス用録音図書の製作が主な事業である。これまで7タイトルのバリアフリー出版に協力したが、テープ版販売では、最高が111件、最低が13件である。PR不足を痛感している。公共図書館に対しては録音資料購入費を確保してほしいと思う。また、公費による録音資料の価格差保障制度がぜひ必要である」

(4)バリアフリー資料リソースセンター(略称BRC)の設立に向けて
服部敦司氏(なごや会)

「現行著作権法では、利用対象者や製作機関が限定されており、録音図書を利用できない人達がいる。現在私たちは、BRCをNPO法人として設立する準備を進めている。BRCの主な業務は、1.バリアフリー資料作成、提供に関する著作権処理業務、2.ユニバーサルデータ作成と管理業務、3.バリアフリー媒体への変換(編集)と提供業務である」

(5)著作権と障害者の情報アクセス権をめぐる国際的動向
河村宏氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

「著作権と世界人権宣言に根ざす享受する権利『この調和点を探る議論』が出発点という認識が重要である。国際的な動向の一点は、技術の進化である。DAISYは、発達性の認知障害、特に読字障害のある人にマルチメディアとして提供することが有効であることがわかってきた。昨年12月、ジュネーブで開催された国連の世界情報サミットにおいて、障害者に関するグローバルフォーラムが行われた。その際、12項目の宣言が出されたが、情報通信技術に関し、“知的保有権保護、著作権及びデジタル権利管理システムを含む、いかなる社会的基準・規則・法律・製作も、障害者の情報及びコミュニケーションへのアクセスを危うくするものであってはならない”となっている」

(6)これまでの取り組み ―編集者の立場から―
高橋淳氏(明石書店)

「取り組みの端緒となったのは『障害学への招待(1999年刊)』である。障害のある執筆者からテキストデータの提供が提案され、一般の本を買った読者で、アクセスに困難がある方に限り200円の実費でデータを提供することにした。以後8タイトル、同様の取り組みをしている。契約は、出版社として、データの流出などの危惧から大変勇気のいることだった。一般の本の売上という採算問題、データのノーガード流出という、根本的問題は未解決である」

(7)障害者の著作物へのアクセスに向けて ―出版者の立場から―
平井彰司氏(筑摩書房)

「バリアフリー出版は、本来出版社がやりたいことであるができない。なぜできないかと言うと採算が取れないからである。最近、録音図書や拡大図書の製作について要望が寄せられるが気になる点をいくつか指摘したい。まず、版面権の尊重と変換の際のルール作りが必要である。デジタル媒体であれば、コピープロテクションの問題が生じる。データが改変されないことが最も重要である。そして、許諾をしっかり取ること。バリアフリー出版は著者や出版社に何らかの還元があれば進むと思う。

最近、電子出版のデータを、そのままオンデマンド出版に流用できるのではないかという可能性に注目し、研究を進めている」

(8)読書権と著作権について ―著作者の立場から―
三田誠広氏(日本文芸家協会常務理事、NPO法人日本文芸著作権センター事務局長)

「視覚障害者等の読書権を保障するためには、ある程度の著作権の制限を実現する必要がある。点字図書館等の録音図書の作成は、権利制限の対象となっているが、これをインターネットで配信することは対象外である。一般の公共図書館の録音図書の作成も、対象外である。日本文芸家協会の著作権管理部と、NPO法人日本文芸著作権センターは、共同で録音図書の作成に関して、一括許諾ができるシステムを構築し、許諾の事務を最小限にしたいと考えている。すでに日本図書館協会等と協議を重ねている。CD―ROMに焼き付けて長期貸与(頒布)するのが業務量も少なくてよいと思うが、そのためにも著作者に対する啓発、出版社の理解促進、あるいは法改正等も合わせて進めていくとよい」

(9)障害者の著作物へのアクセスに向けて ―著作者の立場から―
阿刀田高氏(日本ペンクラブ)

「障害者にどういう協力ができるか考えるようになった。障害者の側も個人として、また団体としていろいろ発信をしていただきたい。公共図書館等から日に3通録音許諾の葉書が舞い込むが、すぐ許諾の返事を出すようにしている。10年程前、名古屋あたりからアイマーク運動というのが始まったが、私は参加しなかった。自分の著作がどんなふうに訳されているか不安だったし、著作権者の権利が曖昧になっていくのではないかと思った。障害者は出版物のアクセスについて“速く、広く”を求めているだろうが、著作権者としては一定の完成度を求めている。現状では許諾を取っていただき、システム作りをしていく中で、お互いに歩み寄ることが大切だと思う」

当日の全内容を収録したマルチメディアDAISY版および活字本を4月末に「読書工房」(TEL/FAX 03―5982―0502、E-MAIL:info@d-kobo.jp)より発行する予定ですので、詳しくはそちらをご購入いただければ幸いです。

「なごや会」は図書館職員の任意団体ですが、個々人は出版物を利用する者です。利用者の立場から、このようなセミナーを企画・実施したのは初めての試みだと思います。今回が出発点で、今後はフォーラムや勉強会を続けていくことで、大きな流れにしていけたらと考えています。

(かわかみまさのぶ なごや会事務局長)

●なごや会事務局
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 横浜市西区老松町1番地
 横浜市中央図書館サービス課内 川上正信
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