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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

列島縦断ネットワーキング

東京 権利条約制定への世界の最新の動き「国際セミナー」開催
~国連特別委員会の作業部会報告~

指田忠司

去る2月26日(木)、東京・中野サンプラザを会場に「権利条約制定への世界の最新の動き―国連特別委員会の作業部会報告―」という国際セミナーが開かれました。このセミナーは、日本障害者リハビリテーション協会が、JDF(日本障害フォーラム)準備会との共催で開いたもので、全国から障害者団体など約170人の関係者が、報告や講演、パネルディスカッションに参加・出席しました。

障害者権利条約に関しては、昨年6月の第2回国連特別委員会以来急速な動きがあり、昨年10月と11月にはESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が地域セミナーを開催し、今年1月5日から16日までは、条約草案作成のための国連特別委員会作業部会がニューヨーク国連本部で開かれています。今回のセミナーでは、こうした権利条約をめぐる経過を踏まえて、とりわけ作業部会における議論については、作業部会に参加・出席した委員など国内外の関係者を招いて学習し、この問題に関する議論を深めていくことに主眼がおかれていました。

特別報告と講演

開会式の後、すぐに午前中のプログラムが始まりました。今回のセミナーでは、午前に障害者権利条約についての理解を深めるための講演を聴き、午後にそれを前提にした討論を行うという二段構えのプログラムが組まれていました。

まず初めに特別報告に立ったのは、外務省国際社会協力部参事官の角茂樹1(すみしげき)氏でした。角氏は、今回の作業部会に日本政府代表として出席した立場から、「障害者権利条約起草作業部会(WG)結果概要(平成16年1月23日)」という資料に基づいて、作業部会の議論における争点や、日本政府の姿勢について詳細な報告をされました。

次いで、新潟大学法学部の山崎公士教授と、国連機会均等化標準規則特別報告者アドバイザーのモハメッド・タラウネ氏が、それぞれの専門の立場から、国際的な障害者の人権保障について講演されました。

山崎教授は国際法学者の立場から、「国際人権のしくみ―人権条約の効用」というテーマで講演され、世界人権宣言(1948年)に始まる国連の人権保障に向けた流れの中で、障害者権利条約のもつ意義、日本における人権保障の状況、権利条約の国内的影響などについてわかりやすく話されました。

タラウネ氏は、昨年6月に国連機会均等化標準規則特別報告者に就任したシェイカ・ヘッサ・アルタニ女史を補佐する立場から、「国連機会均等化に関する標準規則に関する最近の発展」というテーマで講演され、標準規則をめぐる最近の動向と、障害者権利条約制定がもつ意義について話されました。標準規則の状況に関しては、2002年2月、前の特別報告者ベンクト・リンドクビスト氏が、最終報告とともに社会開発委員会に提出した補足文案の内容と、現段階における審議状況について報告がありました。また権利条約については、障害者の人権保障における多角的アプローチについて紹介しながら、権利条約制定のもつ意義を詳細に解説されました。

権利条約に関するパネルディスカッション

午後はパネルディスカッションで、1月の作業部会で作成された条約草案の評価、権利条約への期待、今年5月に開かれる第3回特別委員会への戦略などについて、3人のパネリストを中心に議論が展開されました。

パネリストには、海外から、タイ政府代表として作業部会に出席したモンティアン・ブンタン氏(タイ視覚障害者協会第一副会長、世界盲人連合執行委員)、国内からは、日本政府代表オブザーバーとして作業部会に出席したDPI日本会議事務局次長の金政玉氏と、昨年6月と10月に開かれたESCAPの会議でバンコク草案の審議にも加わった全日本ろうあ連盟常任理事の高田英一氏が登壇しました。三氏とも国際NGOの活動の中で、障害者権利条約の問題に関わってこられた当事者で、それぞれの立場から草案について評価とコメントを加えていました。

ブンタン氏は、作業部会における討議が全体として良好な雰囲気であったことを述べたうえで、国際協力、統計・データ、障害の定義など、今回の作業部会で争点となった事項について指摘しながら、5月の第3回特別委員会の会議における日本政府の貢献に対する強い期待を表明していました。

また金氏は、作業部会に至るまでの日本政府との協議過程に触れたうえで、国内的に障害者の人権を保障していく仕組みとの関連で、1.障害を理由とする差別の定義、2.障害者の実質的に平等な社会参加を勧めるうえで重要な概念となる「合理的な配慮(reasonable accommodation)」、3.人権保障を確実にするためのモニタリング(監視)システムの構築、の3点が課題になると指摘していました。

高田氏はJDF準備会の障害者権利法検討委員として、これまでにも権利条約について積極的に発言してこられましたが、作業部会が、バンコク草案を条約案作成の議論を勧めるうえでの枠組みとして採用したことを高く評価したうえで、障害種別によるニーズの違いを条約制定に際してもきちんと反映させていくことの重要性を強調していました。その例として、手話の言語性の承認、ろう教育における手話の重要性を挙げていました。また今後の課題として強調されていたのは、条約制定に向けて、国内的にも、国際的にも各当事者のもっているニーズをきちんと反映させていく開かれた協議の場が必要だということでした。

パネリストの発言の後、午前中講演された山崎教授とタラウネ氏がリソース・パースンとしてコメントを述べた後、権利条約制定に関する一連の動きをフォローされている東京大学先端科学技術研究センター特任助教授の長瀬修氏と、世界精神医療ユーザー・サバイバー・ネットワークの山本真理氏が指定発言者として発言され、討論が進められました。

制定まであと何年?

ディスカッションの最後に、条約が制定されるまで何年くらいかかるか、ということで壇上の方々から発言がありました。その中で、山崎教授がおっしゃった比喩を紹介して、この報告を終えることにします。「もしウイスキーの水割りに例えるならば、ダブルよりもシングルのほうが飲みやすい。しかしシングルではなかなか酔いません。権利条約もどの程度の濃さにするかで効き目も違いますし、制定までの時間も違ってきます。」さて、あなたはダブルですか、それともシングルですか?

(さしだちゅうじ 障害者職業総合センター)