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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

みんなのスポーツ 最終回

21世紀の障害者スポーツ ―今後の方向性

田川豪太

1 はじめに

ノーマライゼーション誌上で「みんなのスポーツ」の連載が始まったのは、2002年の4月号でした。筆者はその第1回として『さまざまに展開する障害者のスポーツ』を執筆しましたが、あれからすでに2年が経過しています。この間、障害者スポーツの現場でご活躍の皆さんから多くの論文が寄せられ、私も毎号楽しく読ませていただきました。また、今改めてそれらの論文を見渡すと、現在の日本における障害者スポーツの大きな広がりを感じます。

さて、「みんなのスポーツ」もいよいよ今回で終了となります。そこで本稿では、今後の方向性について少しまとめてお話しします。

2 今後の方向性

「最新の情報やテクニックは常に現場から生まれる」これは筆者が大学院在学中に指導教官から教わった貴重な教えです。ともすると科学的な理論(情報)が先にあって、それを現場が応用していく、などと考えがちですが、特にスポーツでは、日々の活動(練習や競技会)の中で、新しいテクニックや用具の工夫などが生まれてくることのほうが多いようです。

その意味で、過去2年間にそれぞれのフィールドから報告されたさまざまなスポーツ活動の情報は、まさに今現場で起きている生の情報であり、大変貴重なものです。読者の皆様はすでに眼にされていると思いますが、もしまだ読んでいない場合は、ぜひ2002年4月号から2004年3月号までに連載された「みんなのスポーツ」を読んでいただければ幸いです。

ところで、今後の障害者スポーツはどのようになっていくのでしょう。これから少し今後の方向性(我々、障害者スポーツに携わるものから見た希望的な将来像も含めた)を探ってみます。

前述したように、「みんなのスポーツ」の第1回は2002年4月号ですが、筆者はその52ページで障害者のスポーツ活動を、「リハビリテーション・レクリエーション・フィットネス・競技」の4分野で整理しました。あれから2年が経過した現在でも、この分類に大きな変化はないので(もちろん別の捉え方もできますが)、今後の方向性についても、この4分野で考えることにします。

リハビリテーションでは、QOL(生活の質)の向上に向けた多様なアプローチの一つとして、つまり手段としてスポーツを用います。そのため、スポーツを行うことによって期待される効果が通常明確となっており(たとえば体力や移動能力の向上、社会性の獲得など)、その効果を確実に獲ることのできる実施内容が求められます。

主にリハビリテーションセンターや障害者スポーツセンターのようなところで行われるこうしたプログラムは、多くの対象者で実質的な効果を上げていますが、科学的な検証という点では残念ながらまだ不十分です。非常に個人差の多い対象であるため、どこまで厳密な検証が可能かどうかはわかりませんが、やはり今後はきちんとデータを収集し、スポーツの効果を明らかにしていかなければならないでしょう。

またリハビリテーションとしてのスポーツを、より一般に広めていくためには、その内容(対象者・評価方法・実施方法など)を平易にまとめた、いわゆる指導マニュアルのようなものも整備していく必要があります(今でも若干はありますが)。

レクリエーションとしての部分では、できるだけ多くの障害者がスポーツを楽しめるように、種目やルール・用具などの工夫を進めなければなりません。これまではどちらかというと、健常者がいろいろな種目や道具を用意して、障害者はすべての条件が整っている場面で、まわりに促されるままにスポーツを行う(ゲスト主義)という側面が強かったように思います。

もちろん全くスポーツの機会がないよりも、ゲスト主義であれなんであれ、参加できることは良いことですが、これからはより主体的に参加できる方向へシフトしていくべきです。それにより、依存的であった障害者の自立性(independency)をわずかでも高めることができれば、単にスポーツを楽しむ以上の意義を持ちます。

その意味では、本誌2003年7月号(64ページ)に掲載された「用具やルールを工夫してオリジナルスポーツをつくる」で丸山が紹介した「障害のある当事者と共にスポーツをつくり、そして楽しむ」というような取り組みは、効果的かつ将来性のあるプログラムです。

フィットネスに関しては、本誌2004年2月号(58―63ページ)で宮地による論文があるので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。その論文で宮地は、フィットネストレーニングと機能回復訓練(理学療法士などによるいわゆるリハビリ訓練)の違いを明確にしたうえで、個人に合わせた運動処方が重要であることを指摘しています。加えて、今後は一部の専門的な施設だけでなく、一般の健康増進施設やスポーツ・医療・福祉施設などでも、気軽に「健康・体力づくり=フィットネストレーニング」が実施できるような環境整備の必要性を示唆しており、これらがそっくり、フィットネス分野における今後の方向性となります。

他方、直接障害者へのサービスとは結びついていませんが、厚生労働省の進める介護予防施策としての高齢者筋力向上トレーニング事業が開始され、高齢者に対するマシンを使った筋力トレーニングが普及してきました。高齢者の中には障害のある方も当然いますし、障害者のフィットネスとして我々が蓄積してきたノウハウと上手に融合していけば、新たな展望が開けるかもしれません。

最後に競技です。パラリンピックを頂点とする競技スポーツの分野では、いつの場合でも競技力の向上が最も重要な課題です。

ちょうどこの連載が始まった2002年4月は、(冬季パラリンピック)ソルトレイクシティ大会の直後で、今年は秋に(夏季パラリンピック)アテネ大会が控えています。

わが国は過去のパラリンピックにおいて多くのメダルを獲得していますが、競技力を高めるための環境整備はこれまで以上に必要です。特に水泳や陸上・卓球・アルペンスキーなど、一般健常者と非常に近い実施形態を持つものでは、健常者の代表チームと合同で練習を行ったり、各競技団体との連携を強め、より高いレベルでの技術指導が受けられるような協力関係の構築が求められるでしょう。

また、障害者スポーツとしての独自性の高い各種競技においては、世界のトップレベルがどんな技術やスポーツ用具の工夫を行っているのか、また国レベルでの選手に対するサポート体制はどうなっているのか、などの最新情報を収集し、それらをわが国の状況に合わせて選手に還元していくような取り組みをシステマチックに実施する必要がある、と思われます。

3 おわりに

以上簡単ですが、今後の障害者スポーツの方向性について私見を述べました。考え違いの部分やもうすでに実施されているなど、情報としては不十分かもしれません。あくまでも私の勤務する障害者スポーツ文化センター横浜ラポールにおける経験を中心に論を進めているので、ご理解いただきたいと思います。

しかしながら最初に述べましたように、今回「みんなのスポーツ」として連載されてきた各回の論文では、今現場でどのように展開しているのかが、わかりやすく解説されており、また当事者の生の意見も盛り込まれている、という点で、第1級の資料です。繰り返しになりますが、2002年4月号からこれまでのノーマライゼーションのページを改めて開いていただくことを望みます。

(たがわごうた 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ課担当係長)