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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

ひろがれ! APネットワーク

ダスキン・フォローアップ研修会 in バンコク 開催レポート

大野真理

はじめに

去る2004年2月15日から2月19日にかけての5日間、タイの首都バンコクにおいて、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業のフォローアップ研修会が開催された。将来、自国で障害当事者リーダーとして地域に貢献していけるような人材育成を行おうという趣旨のもと1999年に始まった当事業は、これまでに第4期生まで33人の若者が日本での約10か月間の研修を修了し、各々の道へと羽ばたいていった。自分がめざす目標に向かって一歩ずつ歩んでいる研修修了生たち。しかし、必ずしも情報が自由に入手できる、必ずしも自分の志に賛同し共に活動する仲間がいる、といった状況ではない環境下でさまざまな困難に直面していることも事実である。

そこで、自国で実際に障害分野の活動に関わっている研修修了生を対象に、今回、短期集中型研修を通して、地域に根ざした実践的なプロジェクトを作る方法を学ぶ機会を提供するとともに、経験の共有によってお互いのエンパワメントを図ることを目的として、初のフォローアップ研修会が開催された。

研修会の内容は、彼らのニーズを取り入れ、1.地域リソースの活用方法とリーダーシップ研修を含めた能力構築(キャパシティビルディング)、2.効果的な企画書の作成方法、3.国際的な障害者の活動の動き、を中心にプログラムが構成された。

研修会内容

(1)能力構築(キャパシティビルディング)

研修を進めるのは、イギリスのIDEA(International Disability Equality Agency)に所属するジャッキー・クリスティ・ジェームズ氏。肢体障害5名、視覚障害2名、聴覚障害2名、全部で9名の参加者は互いの顔が見えるよう輪になって座る。テーマごとに、イントロダクション、グループ作業、グループの意見を発表するプレゼンテーション、まとめ、という流れが繰り返され、参加型形式で進行していく研修は一瞬もボーッとしている時間はない。「想像の国」「熱気球」「地下鉄マップ」…。ゲームの名前のようだが、これらはワークショップの手法である。

たとえば「想像の国」ではグループごとに自分たちで新しい国を創るという仮定で、その国の住人になったつもりでどんな権利が守られるべきかを議論する。「熱気球」では、気球に乗り込んだメンバーが自分たちで決めた目的地(目標)まで無事に飛んでいくための方法と考えられるリスクを話し合う。模造紙と色ペンを片手にグループの意見をまとめる作業の過程で、障害とは何か、権利やリーダーシップのあり方、目的を達成するための順序立てた方法などを学ぶ。自分の意見ばかりを主張する人、なかなか発言ができない人など、一人ひとりが異なる意見をもち、議論が口論になりそうになる場面もあるが、次第に相手を理解し、前向きに問題を解決していこうという姿勢になる。与えられたテーマや問いに「これ!」という正解の答えはなく、むしろ話し合いや作業でどのようにその結論を導いたかという過程をたどることによって、自分に自信をもち、自分と同じように相手を尊重し、人はだれでも必ず経験とリソースを持っているということを実感する。

(2)企画書の作成方法

どんなに良いプロジェクト案を考えていても、実際に資金を作り計画を実現するためには、より効果的なプロポーザルの書き方を学ぶことが必要である…、ダスキンリーダー育成事業修了生のそんな声から、4日目の研修会では企画書の作成方法を学んだ。講師は同じくジャッキー氏。参加者が事前に講師に提出した企画書を匿名でグループごとに配布し、自分たちが助成金を出す財団だったら、どの企画書を選ぶかということを検討する。そしてどんな点を修正すればより効果的な企画書になるかを考える。企画書を書く側だけでなく、審査する側の立場にもなり、客観的に評価することを学んだ。

(3)国際的な障害者の活動の動き

研修会5日目には、さまざまな国際機関が集まるバンコクという土地を活かして、国連ESCAP、アジア太平洋障害者センター(APCD)、その他タイ国内の障害当事者団体から講師を招き、びわこミレニアム・フレームワークや障害者の権利条約、タイの障害者運動についてなどの講義が行われた。同じアジア地域の経験に学び、また一つ一つの草の根の活動が、世界的な障害者運動の流れに結びついていることを再認識した1日であった。

研修会を終えて

時にはその日の研修が終わってもグループワークが続くなど、ハードな毎日だったにもかかわらず、研修会最後の夜のパーティーでは、参加者の充実感に満ちた笑顔があふれていた。「本当の障害者は私たちじゃなくて、社会が私たちを障害者にしているのだということを考えました。このような大切な考え方をたくさんの人に教えたいです。このようなセミナーを続けることがとても大事だと思います。皆と会えるチャンスがある時、自由に皆の経験を分け合うことができます。そしてもっとお互いを元気づけます」。これは参加者の一人から寄せられた言葉である。

日本での研修修了後、それぞれの国や地域で壁にぶつかりながらも、日々地道に頑張っている彼ら一人ひとりのリソースと経験が創り上げた今回のフォローアップ研修会。その意義と成果は、また今後の彼らの活動を通して実証されていくことであろう。

(おおのまり 本協会職員)