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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

利用者本位の支援費制度をめざす東京都の取り組み

有留武司

1 都としての支援費制度の評価

東京都は、平成12年の「福祉改革推進プラン」に基づき、「選択」、「競い合い」、「地域」をキーワードに、大都市の特性に応じた利用者本位の新しい福祉システムの構築に向けて、独自の福祉改革を、障害者、児童、高齢者など、全分野で進めている。

障害者が「自分でサービスを選び、事業者と対等の立場で契約してサービスを利用する」という支援費制度の基本理念は、都の福祉改革の考え方と合致する。

しかし、国は制度移行に際し、理念を実現するための特別な方策を講じておらず、改革としては中途半端と言わざるを得ない。

(1)基盤整備の促進策を講じていない

国制度では、財源は従来水準の延長で、グループホーム等地域生活を支えるサービス基盤の整備促進策(整備費助成の創設等)などの特別な財政措置を講じていない。結果的には、ヘルパー財源問題に象徴されるように需要増にも十分対応できていない。

福祉施設整備費においても深刻な問題が生じている。授産・更生などの通所施設は、障害者の就労や訓練の場として地域生活を支える重要なサービス基盤である。これらの整備費について、従前はほぼ100%国庫補助が認められてきたが、16年度は極めて厳しい状況である。国の施設整備費予算は、継続分を除くと600億円程度で、一方、全国からの国庫補助申請額は1500億円にも上るという。

国が財源の確保に努力したことは評価するし、青天井ではなく予算の範囲内(流用も含めて)での対応というのも、都も行政の立場だから理解できる。しかし、制度移行初年度に実質上の「財政破綻」では、制度設計上の基本問題として、政策当局の責任が問われるところである。長期的に安定的な財源策の確立などが図られるまで、過渡的に予算増はやむを得ない。16年度において、国はさらに財源確保の努力が必要である。

(2)制度の仕組みの不備

障害者のケアマネジメントシステムは、支援費制度に備わっていない。重度の知的障害者など、当事者意識を出しにくい人に対する、相談・援助機能の仕組みがあって、はじめて、その人のニーズや生活の状況に合わせた支給量が決定できる。

また、利用者が安心してサービスを選択できるための情報が不足しているなど、制度を支える仕組みの面でも問題がある。

基盤整備の促進策の欠如とあわせ、「障害者の自己選択・自己決定」という支援費制度の理念の実現には極めて不十分であり、いわば措置から契約に形式だけ移行したと言っても過言ではない。

(3)支援費制度の成果

一方、制度が広く周知され、ホームヘルプサービスなどを積極的に利用する動きが広がった。障害者の地域移行については、基本理念として当事者はもとより、家族、福祉関係者、行政、国民の間で、コンセンサスが得られつつある。

また、全国各地での先駆的取り組みが加速され、その情報発信が全国に波及することにより、地域の実情に応じた新たな試みが広がって、障害福祉施策が活性化してきた。

2 都は独自の取り組みを強力に推進

都は、支援費制度移行の2年前から専任の担当セクションを設置し、できることはすべてやってみよう、との意気込みで地域生活基盤整備など、支援費制度に「魂」を入れるよう独自の取り組みを強力に進めている。

(基本的考え方)

  • 真に利用者本位の支援費制度を、東京で実現する。
  • 希望する障害者の地域での自立した生活を強力に支援する。

(重要施策を三つの柱で推進)

  • 地域生活を支えるサービス基盤の集中的整備
  • 施設の抜本的改革
  • 支援費制度を適切に利用できる都独自の仕組み作り

このため、平成15年度障害福祉関係予算は、都の一般会計予算が前年度比3%減の中で2%増、主要な事業ではホームヘルプ約40%増をはじめ約20%増を実現した。

(1)地域生活を支えるサービス基盤の集中的整備

1.障害者地域生活支援緊急3か年プラン

支援費に移行する15年度を初年度とする、「地域生活支援緊急3か年プラン」を策定し、3年で約300か所、3000人分のグループホーム、通所施設などの地域生活基盤の集中的な整備を図ることとした。

3か年プランの事業費は15年度52億円をはじめ、3か年で160億円を投入。通常1/4の設置者負担を1/8に軽減(補助率7/8)するとともにに、用地費助成も実施するなど、全国的にも例のない都独自の特別助成である。

○知的障害者グループホームを1000人増

地域居住の場として最重点事業で、整備費助成はすべて都の単独事業。都が先駆的に制度化し、23年かけて約1100人分を整備したが、これを3年で倍増するものである。15年度実績は目標250人に対し282人増となり、総定員1414人を達成したが、今後2か年でさらに900人分の整備が必要である。

このため、16年度は、民間企業や建物オーナーに対する整備費補助制度を創設した。また、家賃が全国平均の2.5倍という大都市特性を踏まえて実施している家賃補助について、一般就労以外の利用者の大半が対象となるよう大幅な充実を図った。この4月には、「グループホーム設置促進事業本部」を設置し、痴呆(現 認知)性高齢者グループホーム3000人分とあわせ、福祉局の総力を上げて整備促進に努めている。

○通所施設を1260人増

地域での日中活動の場である通所授産、通所更生施設等を、現在255か所から296か所へ増設を図る。16年度は、重度障害者の地域移行をさらに進めるため通所施設に対し、独自の「重度障害者加算」制度を創設した。

○「地域生活支援型」の入所施設を460人増

従来の「生活施設」ではなく、入所者の地域移行を進め、地域の障害者をサポートする「地域生活支援型」が条件。

2.在宅サービスの充実

○ホームヘルプサービス

15年度は、制度移行に伴う需要増を見込んで、前年度比約40%増と大幅に充実した予算を組んだ。

15年度の都内区市町村の実績をみると、全身性障害者の日常生活支援のサービス提供量では、一人当たり月242時間となっており、国庫補助基準(125時間)はもとより、全国平均(15年4月分135時間)を大きく上回るなど、ホームヘルプサービスは事業費ベースで、前年度比42%の伸びを示した。

この結果、全国で約25億円の国庫補助金不足が生じたが、そのうち、都内区市町村で実に12億円の歳入欠損となった。都は、法の定める負担区分に沿い、区市町村の実績どおり補助し、行政責任を果たした。

都は、平成9年度から独自に全身性障害者介護人派遣事業(月240時間まで)を実施するなど、長い時間をかけて、サービス提供基盤の充実に努めてきた。

先駆的に高いサービスを提供している自治体への補助金を削り、全国に「広く薄く」補助金を交付する方法では、支援費制度がめざす利用者本位の質の高いサービスの提供は望めない。サービス内容の客観性や合理性は当然検証されるべきであるが、国庫補助基準を超える部分は、自治体へ一方的に負担を押しつけるという国の手法は、到底承服できるものではない。

○「都型ショートステイ」の創設

国制度では入所施設併設に限定されていたが、都は独自に、通所施設、グループホームへの併設や、アパート借り上げ方式を認め、運営主体はNPO、民間企業等にも拡大した。国に対しても障害者のニーズに対応した規制緩和を提案してきたが、国は16年度から通所施設やグループホーム等でのショートステイを認めることとなった。

(2)入所施設の抜本的改革

○都立障害者施設の民間移譲

都立障害者施設は、民間施設が不十分な時代に、最重度障害者に対する先駆的、専門的な機能を果たしてきた。しかし、今日では、民間施設でも最重度障害者を処遇することが十分可能になっている。

そこで、都立施設は順次民間法人に移譲を進め、民間の弾力的で効率的な運営により利用者サービスの向上を図っていくこととした。

今後都は、直接サービスを供給することではなく、大都市特性に応じた福祉システムづくり、区市町村や民間事業者への財政支援を通じたインフラ整備などに、役割を転換していく。

入所施設については、19年度までに9か所(定員560人)を民間移譲等することとしており、15年度は知的障害者施設1か所の事業者公募を実施し、今年度以降毎年度1か所程度の移譲を実施する予定である。また、都立通所施設である福祉作業所・生活実習所(市部11か所、定員526人)も、今年度から、順次民間移譲することとしている。このように大規模な障害者施設の民間移譲は、全国で初めての試みであろう。

○「地域生活支援型」入所施設への転換

従来のような、「終(つい)の住処(すみか)」としての生活施設から、地域移行推進型、地域生活支援型へと、施設のコンセプトを変えていく必要がある。このため、15年度は、入所施設に対する独自の自活訓練費補助(アパート借り上げ経費)を、前年度予算の4倍増とし、都内全施設で実施できるよう大幅な充実を図った。16年度はさらに、都外の知的障害者施設や身体障害者施設にも拡大することとした。

また、入所施設におけるデイサービス、ショートステイ、グループホームの設置・運営など地域の障害者を支援する機能の整備費について、「緊急3か年プラン」で特別助成を実施している。

○民間社会福祉施設への都独自補助(サービス推進費)の再構築

都として望ましいサービス水準を確保するため、支援費(国基準)に上乗せして毎年度総額約100億円を民間障害者(児)施設に補助している。16年度からは、従来の画一的補助を改め、施設の「努力に報いる補助」へ再構築し、施設相互の「競い合い」で利用者サービスの向上を図ることとした。努力加算項目としては、重度障害者の受け入れ、地域移行への取り組みとそのアフターケア、経営改革などである。

○「施設」から「地域」へ予算構造を変える

都立の入所・通所施設の民間移譲や、サービス推進費の再構築などで、最終的には年間数十億円もの財政効果が得られる。これを原資として地域生活支援施策に振り向けるという発想である。都財政は極めて厳しいが、知恵と汗を流せば財源は生まれる。

都立施設では約1600人の都職員が働いており、これまで「聖域」として改革が進まなかった。職員の熱意は認めるが、画一的で硬直的なサービス提供と高コスト体質は、公務員制度や行政財産上の制約など、制度的な問題が根底にあり、施設偏重の予算構造を地域支援に重点化するため抜本的な改革に踏み切ったものである。

(3) 都独自の仕組みづくり

○支援費制度利用援助モデル事業

ケアマネジメントの手法を用いたもので、障害者のニーズに応じたサービスプランの作成や、相談・助言など、支援費制度を適切かつ容易に利用できる仕組みを構築した。15年度はモデル事業として3区で実施(板橋、足立、葛飾区)したが、16年度は5か所に拡大する。重度の知的障害者の地域移行などに際し、高い成果が得られた。

○「障害者サービス情報システム」の構築

利用者の選択を支えるため、全サービス事業者に関する情報(運営内容、空き状況、第三者サービス評価結果など)を網羅して、福祉局のホームページに掲載。現在までに11万件超のアクセスがあり、積極的に活用されている。

○「障害程度区分マニュアル」を作成

区市町村における、障害程度の判定や支援費の支給決定(サービス量、種類)を支援するため、福祉事務所など区市町村職員と共同で作成したものである。

3 支援費制度の理念をさらに発展させるために

(1)国レベルで「施設」から「地域」へ予算構造を変える

現状では、施設入所者と地域生活者とでは、負担の格差が著しい。障害者の地域移行をさらに進めるためには、グループホーム整備費助成や家賃補助制度の創設、就労支援策の充実などが不可欠であり、施設に偏重した予算構造を地域生活支援に大胆にシフトしていく必要がある。

(2)サービス基盤確保に向けた一層の規制緩和

ショートステイやグループホーム、通所施設などの運営主体について、社会福祉法人の設立用件の一層の緩和や、NPO、民間企業の参入促進により、「競い合い」による基盤の整備とサービスの向上を図るべきである。

また、サービスの提供方法について、たとえば、「障害者就労・生活支援センター事業」の実施主体を、都道府県から区市町村主体にするなど、地域特性に応じた対応ができるよう柔軟な制度構築を図るべきである。

(3)持続可能な新たな社会システムの構築へ

現在、介護保険と支援費制度の統合が、主として財政的な観点から議論になっている。支援費制度における長期的に安定的な財源確保策の検討は必要であると考えるが、高齢者と障害者の特性を踏まえると、現在の介護保険への単純な統合論は疑問である。両制度の理念を発展させる観点から、新たな制度設計の具体案について、率直な議論が交わすべき時が来ていると言える。

(ありとめたけし 東京都福祉局障害福祉部長)