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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

東松山市における障害者福祉サービス
~支援費制度の課題と対応を中心に~

雲井幸雄

はじめに

当市は、埼玉県のほぼ中央に位置し、人口は9万人程度で、平成16年4月1日現在、身体障害者手帳所持者が2412人、療育手帳所持者が420人、精神障害者保健福祉手帳所持者が163人おられます。「生活重視・福祉優先」を市政の基本に掲げ、障害のある人もない人も、地域で安心して暮らせるノーマライゼーションの理念に基づいたまちづくりを積極的に進めております。

具体的には、早くから、24時間ホームヘルプサービスに取り組んできたことや、市の単独事業として、障害者生活支援センター「ケアサポートいわはな」を立ち上げ、本人の生活支援、社会参加促進とともに、家族の介護負担軽減のため、一時預かりや短期宿泊、ご自宅等に介護スタッフを派遣するサービス、外出の付き添いサービスや送迎サービスなどを実施してきたこと、などが挙げられます。

また、障害者やそのご家族が安心して暮らしていただけるよう、今ある制度を最大限活用して、生活の質が向上するためにどのようなご支援をしていけばよいか、ケースワーカーが一生懸命考えている、ということが、当市を比較的福祉の進んだ地域として評価してくださっている方がいらっしゃる所以(ゆえん)ではないかと思っております。

近年においても、いくつかの制度、事業を開始しておりますのでそれらを簡単にご紹介しながら、支援費制度の課題と対応についても触れていきたいと思います。

ケアサポートいわはな
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近年の障害者福祉サービスの取り組み

まず、平成12年度には総合福祉エリアを設置し、各障害の垣根を越えた総合的な相談対応や訪問系サービスなどを実施しています。「総合的」とは、制度的にいえば、在宅介護支援センター、市町村障害者生活支援事業、県の事業である知的障害者地域療育等支援事業、精神障害者地域生活支援センターなどです。各法制度上の機能を横断的に一つの場所に置くことによって、365日24時間体制を確保することができました。10万人程度の都市では、いろいろな制度を単独でやっていこうとしても無理がありますので、このような総合化や広域化を図ることによって、スケールメリットを生かす工夫をしているわけです。

総合福祉エリア
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同じく平成12年度からガイドヘルパーの養成事業も開始しました。支援費制度の導入により、知的障害者に対するガイドヘルプのニーズがかなり増えましたので、今後は、視覚障害、全身性障害のガイドヘルパーだけでなく、知的障害のガイドヘルパーの養成も検討していきたいと考えております。

平成14年度からは、重度の知的障害者のグループホームを社会福祉協議会運営という形で立ち上げました。このグループホームは、たとえ障害が重くても地域で暮らしていこうと、育成会の方々を中心に要望があったものを市が取り上げたかたちです。本来、グループホームというのは、ある程度ADLの自立している方々が世話人からサービスを受けながら社会参加する拠点としての「家」ですが、障害の重い方でも入ってもらおうということで工夫しています。

具体的には、このグループホームを利用する方に対しては、世話人を雇うために必要な経費としての地域生活援助事業の支援費にプラスして、介助としてのホームヘルパーの支援費支給決定を行います。一人ひとりの支援費を合算して、全員が社会福祉協議会と契約してもらうことにより、世話人とは別に2~3人の専属ヘルパーを確保することができます。さらに、夜間の体制を確保するため、世話人分の家賃という名目で市が家賃補助を行うとともに、利用者にも、障害年金1級と特別障害者手当とをもらっているだろうとの想定のもと、その範囲で無理のないように設定した個人負担をいただいています。これら、既存の制度をうまく活用するなどの工夫により、障害の重い方々が地域で生活できる場を確保しようとするものです。

ただ、この事業の進め方では、グループホームとホームヘルプサービスの利用契約について、同一の事業者としか締結できないため、「自由な選択」を謳い文句にしている支援費制度の趣旨に照らし、若干の疑義が生じてきます。これについては、これらをセット商品とみなし、セットしたサービスを利用者やそのご家族が自らの意思で選択したものと整理すれば、制度の趣旨を損なわないのではないかと考えております。

平成15年度には、障害者就労支援センターZAC(ザック)を立ち上げました。この施設は、在宅障害者に対し、就労相談などを行うとともに、身近な地域で、通所により必要な自立訓練及び授産活動の場を提供することにより、障害者の社会的、経済的自立の促進を図ることを目的に、市が設置し、NPO法人に運営を委託しているものです。身体、知的、精神の各障害の作業所と、就労相談や企業開拓等を行う就労支援センターとが併設された形であり、これらが、総合的、一体的に機能することにより、効率的・効果的に、一般就労に向けたご支援をしております。

障害者就労支援センターZAC(ザック)
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ケアマネジメント

さて、支援費制度開始直前の平成14年度において、当市では、従前から委託を受けて実施してきた「ケアマネジメント推進事業」を活用し、支援費制度に移行する予定のサービスを現在受けている方々のうち、ご本人やご家族の同意が得られた方を対象に、ケアマネジメントを実施しました。つまり、平成15年度当初から円滑に支援費制度に移行できるよう、14年度中にほぼ全員のケアプランを作成してしまったわけです。

さらに、新規のサービス利用や支給量の更新決定に対応するため、今年度より、「ケアプラン作成支援事業」という事業を立ち上げて、先ほど述べました総合福祉エリアに委託し、アセスメント(勘案事項調査含む)、ケアプランの作成支援、モニタリング、といった一連のケアマネジメントを実施しています。

支援費制度の問題点

支援費制度においては、本人の自己選択、自己決定を尊重する制度であると言われますが、介護保険制度がまさにそうであったように、そのためには情報提供が必須になります。しかし、支援費制度についてはそれが制度的にほとんど手当てされていません。「ケアマネジメント従事者」という言葉はあるものの、その方々に対するケアプラン作成費が手当てされておらず、結局、ケアプラン作成は、利用者本人が行い、アセスメントは市役所の職員がやらなければならない制度設計になっています。

しかしながら、実際には、利用者の方々で、自らの能力のみで、複雑な福祉制度を理解し、サービス資源を探し、セルフプランを立て、市役所に支援費の支給申請をし、サービス事業者と契約し、必要に応じてこれを変更する、といったことができる方はむしろ少数派でないかと思います。また、市の職員がケアマネジメントを行うことについては、福祉課職員といえども、必ずしも深くケアマネジメントの専門性に通じているとは限らず、十分なアセスメントやプランニングが困難、といった理由や、また、いかに利用者本位を心がけていても、利用者の方々から見れば、「市は、支給量を節約したいがためにアセスメントやモニタリングと称して利用者ニーズを低く見積もっているのだろう」という批判につながる可能性は高いといった理由から問題があると思います。やはり、第三者的な立場から、アセスメントやモニタリングを行ってもらうことが制度として必要であると感じます。

今、支援費制度の財源問題などに端を発して、介護保険制度との一体化などの議論が盛んに行われていますが、もし、財源が確保されたならば、ぜひ、ケアマネジメントをきちんと制度上に位置付けてほしいと思います。

今後の課題

サービスの充実に向け、今後ともさまざまな課題を解決していく必要がありますが、中でも、重度重複障害者のための日中活動の場を確保していくということが、当市では喫緊の課題となっております。重い障害があってもできるだけ地域で普通の暮らしがしたいというご要望に応え、医療的なケアなども必要な方が地域で活動できるようにするためには、既存の制度の枠だけではなかなか解決が難しいと思います。そこで、さきほどのグループホームのように、制度を極力弾力的に運用することにより、日中安心して過ごすことのできる場をいかに確保するか、今後検討していきたいと思っております。

また、重い障害のある方が「地域で暮らす」ためには、市が制度を作って建物を建てれば良いというような簡単な話ではなく、地域住民の皆様のご理解とご支援が不可欠です。そのため、今後、地域住民に主体的に取り組んでいただいて、それが、地域福祉計画の策定という形に発展していくよう、市として研究を重ねる必要があると思っております。

おわりに

支援費制度が今後、どのように進展していくのか現段階でははっきりしませんし、国、県の補助を十分にいただけるかどうかもわかりませんが、いずれにしても、市としては、必要な支給を行わないというわけにはまいりません。とはいえ、当市の財政状況も、決して余裕があるわけでもありません。したがって、支援費制度の動向如何にかかわらず、市としては、限られた財源の中で、いかに必要な方に必要なだけのサービスを確保し、いかにサービスを効率的に提供し、いかに制度を見直し、あるいは創設していくか、主体的に検討することが迫られていると思います。そして、市民の皆様のご理解とご協力を得ながら、真の意味で、障害のある人もない人もともに暮らしを分かち合うノーマライゼーションのまちづくりを実現していかなければならないと思っております。

(くもいさちお 東松山市健康福祉部福祉課課長)

東松山市役所
〒355-8601 埼玉県東松山市松葉町1-1-58
電話 0493-23-2221(代)
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