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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

見えてきた課題

聴覚障害者のニーズに応えられているか

中村愼策

支援費制度は、障害のある方が自分の生活にあったサービスを選択し、事業者・施設と対等な立場で直接契約を結びサービスを利用する制度です。しかし、聴覚障害者がサービスを受けようと、手話のできるホームヘルパー派遣を希望すれば、かなうのでしょうか。手話でコミュニケーションできるデイサービスセンターを利用したいと希望すれば、その施設はあるのでしょうか。一部の地域以外は皆無でしょう。聴覚障害者のニーズに応えられるサービスが皆無の中で「利用者本位のサービス=支援費」はスタートしたのです。

聴覚障害者は、情報収集から契約・利用に至るすべての場面において、コミュニケーション保障を必要とします。障害者基本計画にはヘルパーの数値目標がありますが、手話のできるヘルパーの目標値は示されていないのです。特に聴覚障害と知的障害を併せもつ方々のコミュニケーションは多様で、一人ひとりに合わせたコミュニケーション手段と支援を必要とします。

(財)全日本ろうあ連盟は、制度開始に先立ち聴覚障害者がサービス提供を受けられる社会資源が実在するのか、全国調査を行いました。この結果は「聴覚障害者のための社会資源―便利帖―」としてまとめられ、全国市町村に配布されました。

また、聴覚障害者生活支援のあり方を学び、聴覚障害者支援体制の充実を図るために「聴覚障害者生活支援業務従事者研修会」を開き、ろう重複障害者生活支援のための啓発資材としてDVD/「目で見る支援費制度」を作成しました。

研修会では、聴覚障害を併せもつ重度重複障害者の利用できる社会資源が少ないなかで、当事者団体等がミニデイサービスを始めたり、自ら施設を立ち上げ、ヘルパーを育て居宅介護事業所を開設するなどの「社会資源の整備」、手話通訳者が手話通訳の支援を必要とする人たちとどのように関わっていくかという「手話通訳者の役割」、地域で人間的な発達と、生きがいのある生活を支援するにはどうあるべきかという「地域の相談支援」というテーマ別の分科会と、カウンセリングを中心としたワークショップで、研修を深めました。

利用者本位のサービスの実現をめざすために、障害者のニーズに応じた社会資源の整備、聴覚障害を理解しコミュニケーションができるマンパワーの確保、そして重度重複障害者を支援するケアマネジメントの事業化を実施主体の市町村の公的責任とし、ニーズに応じた支援の目標を設定し、施設整備に努力すべきです。

私たちは社会基盤の整備を国、実施主体の市町村に公的責任として働きかけていくと同時に、支援業務に従事する者の資質向上と聴覚障害者特有のニーズ、利用できるサービスの存在を関係諸団体に知らしめていくこと、および手話通訳派遣事業と、介護保険・支援費制度におけるコミュニケーション保障のあり方を明確にする必要があります。このことが、利用する聴覚障害者および支援費制度に貢献すると確信しています。

(なかむらしんさく 全日本ろうあ連盟福祉対策部長)