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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

障害のあるユーザーに合わせた運転装置の改造と最新事情
―ニッシン自動車工業の取り組み

亀田藤雄

1 障害者の社会参加の促進

ニッシン自動車工業は1973年より障害者用運転装置の開発と販売を続けてきて今年で30年になります。当初、重度障害者には最高で軽自動車の免許の資格しか与えられていませんでした。障害者の社会参加と平等をスローガンに国を挙げて運動したお陰で、障害者が働ける作業所や職業訓練所が各地に少しずつでき、企業も障害者を受け入れるようになってきました。

そのため通勤や通学、買い物と、障害者にとってどうしても車が必要な状況となりました。公安委員会も徐々に免許取得レベルの緩和に理解を示し、障害者も小型車、中型車と受験できるようになり、今では大型車まで免許が取れるようになりました。それに合わせるかのように、自動車メーカーもオートマチック車を多種販売するようになって自動車の選択幅が広がり、好きな自動車に乗る楽しみが増えてきたと言えます。

30年前は改造メーカーは全国に50社ほどあり、各社各様な形で一台ずつ製造していました。需要が増えるにしたがって大量生産に切り替わり、1983年頃には5社ほどの改造メーカーが全国的に販売を展開するようになりました。手動式の形は横型(写真1)が主流でした。各リハビリテーションセンターでは、障害者の社会復帰の準備のため自動車運転の教育や研究、乗降の訓練に力を入れ、各自動車学校も障害者が練習できる教習車を整え始めて免許取得が容易にできるようになってきました。今では、全国に障害者で免許証に条件がついている方が18万人いるとも言われています。

写真1 手動装置(オートスピーコン)
写真1

2 ニッシン自動車工業の方針

筆者は、ニッシン自動車工業の前身の会社で自動車の修理業を主に行っていましたが、思わぬ事故でブルドーザーの下敷きになり脊髄を骨折し、両足不自由の身になってしまいました。多くの人のお世話になり、2年間の治療とリハビリを受け車いすを使用しての社会復帰となりました。お陰様で会社で働くことができるようになりましたが、以前の仕事はできず、事務等をしながら手動運転装置の開発を自分のために始めました。作った装置を友人に見せたところ、僕もほしい、私もほしいと注文が来るようになり、陸運局の認可を受けて正式に販売するようにしたのが1973年のことでした。日本では当時、すでに改造メーカーが各社各様の手動装置を販売していましたが、障害者自らが開発した商品は操作性が良く、運転しやすかったのではないかと思います。予想外の注文に、当社では改造装置の開発と販売をすることにして、その後の方針を次のように立てました。

1.全国販売とサービスのネットワーク作り。障害者の方が一番心配している故障時の対応ができるようにする。

2.使用者本人の体に合わせた改造装置作り。いくら性能のよい製品でも、本人に合わないと運転しにくいものになります。長時間の運転では疲れる、急ブレーキの操作がしにくい等では事故にもつながりかねません。

3.障害者が免許を取得するためのアドバイスをする。自動車運転免許センターの相談室の案内(免許取得資格を得るため)、障害者の対応ができる自動車学校の案内等をする。

4.自動車や改造の相談。どんな車がよいか、体に合っているか、乗り降りに問題はないか、ステアリングホイールやブレーキ操作はできるかを検討します。そして、本人の好きな車、乗りたい車は外車でも国産車でもすべて改造を受けることにしました。スポーツ的に利用する人、運転の醍醐味・感触(乗り心地)を大事にする人等、実用性だけでなく趣味的要素を重視している人も多くいます。また、登録の仕方、減免の申請、補助金の申請方法等についての情報も提供します。

5.障害者も働ける職場作り。現在、当社は障害者が従業員の半数を占めていますが、障害者が自ら開発、テスト、製作、組み立てをすることで、障害者に合った障害者に優しい改造車ができると考えています。

今後もこの方針で進めていきたいと考えています。

3 どのような部分を改造しているのか

改造は大きく分けて次のとおりです。

1.両足が不自由な方用は手動によるブレーキ・アクセル操作(写真2)。

写真2 手動装置(APドライブ)
写真2

2.右足が不自由な方用は左足による左アクセル・ブレーキ操作(写真3)。

写真3 左アクセル
写真3

3.その他重複障害による操作用商品。足が不自由でも何らかの刺激でケイレンが起き、アクセルペダルを足が勝手に押してしまうことがある方は、暴走の危険を防止するためのケイレン止めプレートやアクセルペダルの跳ね上げシステムが必要です。握力がないためステアリングホイールを握れない方用として、手の甲の全体を革やバンド(手装具)で包んでステアリングホイールを回す手掌ノブ(写真4)、Y字型ノブ、義手利用の方の義手ノブ(輪型)等、不自由度に合わせた製品があります。

写真4 手掌ノブ
写真4

4.運転装置にプラスして、車いすを自動車室内に収納できない方のための車いす収納装置オートボックス(写真5.6)。

写真5 オートボックス
写真5

写真6 オートボックス
写真6

5.車いすから運転席に移る時に力不足のためうまく乗り移りできない方用としての、サイドサポート(運転席への移乗の橋渡しをするもの。写真7)。

写真7 サイドサポート
写真7

6.車いすごと乗る乗降用リフト。ワンボックスカー等の後部にリフトを取り付け、自動開閉式にした後部ドアから乗車して運転席に移り運転ができるもので、これは特に電動車いす(自重70kg位)を使用している方に便利です。

4 現在、どのような改造の依頼が多いか

特に力を入れているのが、両足が不自由な方で手指の力が弱く握力も弱い、または握力ゼロの方(ただし手を伸ばしたり上下したりすることができる方)、または、手足は動くが四肢とも力不足の方のための改造です。重度障害者でも運転が可能な限り、体に合った改造装置を新たに製作して、運転ができるようにします。自動車本体も自動車メーカー側が開発を進め、ステアリングホイールの軽減化、ブレーキアシスト付き車(少しの力での急ブレーキ体勢で通常の急ブレーキを効かせる)、またアンチロックブレーキ(急ブレーキを掛けても横滑りしないブレーキシステム)等、障害を助けるシステムをいろいろと作り出していて、改造も大変やりやすくなってきました。

その他、低身長の方用ではアクセル・ブレーキペダルの嵩上げ(図1)やパワーシートベースがあります。ペダルの嵩上げは足が届かない不足分を嵩上げして補うもの。パワーシートベースは車いすから運転席に乗り移る時は運転席を低くし、運転する時は高くする(最高200ミリメートル上がる)もので、通常の運転席では目の位置がステアリングホイールより上に出ない方の運転を可能にします。

図1 嵩上げペダル
図1

今後の自動車はますますハイテク化し、セットすると勝手に走っていく車、ステアリングホイールにブレーキ・アクセル操作ができる装置が付く車等、障害者も健常者と同じシステムで運転できるようになると思われます。しかし、どんなに良い車ができてもすべての障害者が改造装置なしで運転できるとは考えにくいでしょう。当社はこれからもハイテク化に備えた技術の勉強と開発を続け、安心して楽しく乗れる車を作りたいと考えております。

(かめだふじお 株式会社ニッシン自動車工業代表取締役)

●株式会社ニッシン自動車工業

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