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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

列島縦断ネットワーキング

熊本 熊本発 これからの福祉を考える全国セミナーPart 3

阿部るり子

今年で3回目を迎えるこのセミナーは、7月17(土)、18日(日)の両日、熊本市内メルパルクホールで約600人が参加して開催されました。テーマは、行政、現場の縦割りをどう越えるかを縦軸に、子ども、高齢、障害の縦割りを越える「共生」を横軸に構成されています。これは潮谷県政が取り組んできたことでもあり、福祉現場にとってはこうした県行政の動きと思いを共有することも今セミナーの大きな力となりました。

【セッション1】支え合ってのまちづくり~一人暮らし高齢者への家庭訪問~

銀河ステーションの通所者と中学生が協力して、一人暮らしの高齢者宅を訪問する交流活動を紹介。「最初は障害者の人たちが働いているのを見て驚いた」という中学生も、いつの間にかふざけあう友達関係に。訪問先ではゴミ出しを手伝って喜んでもらえたことなど、活動を発表しました。

【セッション2】宮城発 施設解体宣言を語る

2004年、全国に先駆けて知的障害者の施設解体宣言をした宮城県福祉事業団理事長である田島良昭氏に話をしていただきました。田島氏はコロニー雲仙の理事長として障害福祉分野で活躍され、平成8年より浅野知事と共に、県立施設の改革などを推し進めてきました。平成9年に脱施設計画を策定、10年間で県立船形コロニーの500人の入所者のうち350人を地域生活に移行すると発表しましたが、5年間で早くも400人が地域移行を果たしていることから、今年2月浅野知事から県内すべての知的障害者入所施設の解体が宣言されました。当たり前の暮らしを実現するためにも財源確保と規制緩和による多くの事業者の参入が必要と力強く語られました。

【セッション3】鼎談 緊急提言 地域移行は本当に可能か?~介護保険統合論議の中で見えてくるもの~

セッション2の田島氏、北海道伊達市地域生活支援センター所長の小林繁市氏と福井県のCネットふくい専務理事の松永正昭氏の3氏が議論を展開。田島氏は支援費制度の一定の評価はするものの財源問題には制度矛盾があり、介護保険との統合は将来にわたる安定的財源確保として、また障害者問題を国民的な課題としていくうえで有力な選択肢と位置づけました。さらに2010年の見直しには介護保険を3障害が利用できる社会保険として確立すべきと語りました。小林氏は、入所施設からの地域移行が20年で1%しか進んでいないとしたうえで地域移行待機者を解消すべきとの指摘がありました。松永氏は統合により企業負担が増えることを懸念する声もあるが、雇用保険や労災保険の見直し、企業の負担軽減で統合は可能と具体案が示されました。また未来志向プロジェクト全国調査の結果、障害者とその家族が共に地域での暮らしを望んでおり、経済的にも両者の年金で地域生活は可能であるとの結果が出たことを報告。また福祉工場や雇用問題に触れ、納税することで権利と義務を果たし完全参加を実現するとしました。

【セッション4】きいてはいよ わが町自慢の福祉でまちづくり

熊本県福祉のまちづくり課の小田氏より、地域福祉支援計画「地域ささえ愛プラン」と161事例を紹介した情報誌の紹介がありました。西原村社協地域福祉活動コーディネーターの須藤文楊氏からは人口6300人の村で進めている地区座談会、見守りネットワークや31に及ぶふれあい生き生きサロン、また施設入所者が地元に日帰りする「ふるさと見学会」での涙の対面などが紹介されました。

【セッション5】施設が町にやってきた~施設が地域に向かって動き出した。~

「生活の地域化」をキーワードに、議論が展開されました。岡山きのこ老人保健施設副施設長の武田和典氏からは、高齢者が地域でのつながりや人間関係を切り離さないという気持ちがユニットケアを生んだことや、それが特養から医療施設にも広がっていること、また2年前に提案した逆デイサービスの実践から、地域で暮らす気づきが始まっているとの報告がありました。荒尾市の特別養護老人ホーム白寿園の施設長鴻江圭子氏からは在宅サービスを始めてから、施設がより地域に入り込み、介護講座や広報活動、介護予防など地域のニーズに応えた実践や高齢者を地域に戻す試みとしてホームシェアリングを進めていることが報告されました。産山村の身体障害者通所授産施設の藤田隆子施設長は、3障害の人たちの就労の場としての機能に加えて、生活の場としての住居を作るなど、在宅支援サービスも行いつつ生活全般を支援、隣接する保育園との交流を通して地域との関わりを深めることがこれからの課題と話しました。サポーターの全社協地域福祉部副部長の渋谷篤男氏は、これからの地域福祉は「小規模」な市町村が主体で、住民自らが担い手となることや社協の活用、利用者の生活を支えることが目的との発言がありました。

【セッション6】実践は縦割りを越えた~縦割りを越えて見えてきたもの。~

全国の先進事例の紹介や新たなモデル作りについて議論が展開されました。東京都小金井市で「子どもとお年寄りの家 鳩の翼」を設立した森田真希NPO法人代表理事はケアプラン相談所やデイホーム、独自事業として「子どもの家」を運営、世代を超えた地域の寄り合い所のような共生ケアをめざしていることを報告しました。川崎市のNPO法人秋桜舎の渡邊ひろみ理事長からは現在、介護保険事業7事業を運営していること、また住み続けられる地域を作るために人口1万3千人の校区でセンターの役割を担い、住民参加による地域調査や地域福祉計画の策定を進めているとの報告がありました。長野県の栄村高橋彦良村長からは、生まれ育った場所で安心して暮らせる町をめざして住民自らが資格を取った「下駄履きヘルパー」の役割が紹介され、住民による24時間介護の実現、その結果介護保険料は1900円となり、介護関係収入の30%はヘルパーの賃金となり、地域経済循環にも寄与しているとの報告がありました。また県少子化対策推進課課長の内山博之氏からは「子育て介護支援推進課」で、レスパイト施策の視点から、既存事業の見直しや隙間を埋めるための新たな企画、モデル事業の提案などを展開してきた報告がありました。これを受けて佐賀県統括本部総括政策監の金崎健太郎氏はハードルは高すぎず、目線を低くすることで地域が活発になるという動きが重要との話がありました。

【セッション7】どうする? 社協 どうする? 市町村

2日間の議論を受けてそれぞれの決意を語りました。コーディネーターの平野氏は、固有名詞で呼ばれる行政マンが増えていることをこのセミナーで実感したと感想を述べました。牛深社協の福本壮一氏は365日24時間対応できる仕組み作りや、空き店舗活用でふれあいサロンを作ったり、在宅介護サテライト施設を開設する予定であるとし、多機能な社協としての展開を語りました。また、大津町子育て支援課の緒方光子氏からは、新設された係で住民の中に飛び込んでいって子育て中の親を応援したり、児童虐待防止などの多彩な事業を地域一帯となって進めているという報告がありました。県社協ボランティアセンターの吉本裕二氏は、子どもたちの体験活動を通して次世代の人材育成に努めていることや、いろいろな立場の人との協働が重要と述べました。県環境生活部次長の森枝敏郎氏は、徹底的に福祉の現場へ出かけることが福祉の地平を切り拓くとしたうえで、熊本県の福祉のパスワードは地域、共生と述べました。

【セッション8】熊本発・みんな一緒で見えてきたばい

八代市NPO法人とら太の会理事長の山下順子氏は保母として療育サークルを立ち上げ、3年前に自宅で小規模作業所と無認可保育所を、その後高齢者の一時預かり事業を開始、昨年とら太の家を建設したが、行政の理解がほしいと訴えました。これを受けて県精神保健福祉課主幹の本田充郎氏は、とら太の会の共生という考え方に強く賛同していると述べました。

【セッション9】熊本発これからの福祉を動かすファイナルセッション

国際医療福祉大学教授大熊由紀子氏をコーディネーターに迎え、セミナーを締めくくる議論が展開されました。大熊氏は田島氏の地域移行の例をあげ、障害のある人が地域で暮らしたいと願っていることや、ヘルパーと共に地域生活を実現しているデンマークの例などを紹介し、まだ障害者プランの策定が不十分であると述べました。

※当事者の家族としての思い

NPO法人コレクティブ理事長川原氏は、昨年亡くなった母親のことにふれ、お母さんがホームに入らず生まれ育った町を離れなかったこと、ケアマネが作ったケアプランに満足せず、病床で自分のケアプランを作成したが、こちらのほうが優れていたことから、改めて地域がどんなに大切かを問い直したという思いを話されました。菊水町知的障害者通所授産施設銀河ステーション施設長である筆者は、次女に重い障害があったため21年前に青いりんごの会を結成し地域療育を始め、長い無認可時代の後銀河ステーションを作ったことや、親子の相談を受ける中で地域でその人らしく暮らすことが大切だと痛感し、地域生活を基盤に当事者主体の福祉をめざしていることなどを話しました。

これを受けて厚生労働省保険局長の辻哲夫氏は一番困っている人を救うのは地域で必死に活動している人、行政はその地域の志を正しく理解し、システムとして社会全体のものにすること。ゴールは普通の暮らしであり、介護保険と公費の組み合わせによる障害者支援が必要と話しました。

また熊本県知事の潮谷義子氏は縦割りの弊害を埋めていこうとする中で、その人の望む暮らしは行政だけではできない、パートナーシップを組みながら行ってきたこと、基本的には障害福祉の問題は介護保険との統合を考えざるを得ないとしながらも、世代年齢にかかわらず、必要なときに必要な介護を受けられるというユニバーサルな社会をめざすことで締めくくりました。

(あべるりこ 銀河ステーション施設長)